ねぇ聞いてよ銀さん!今日ね、本当最悪な一日だったの。会社では上司の勘違いで他の子の代わりに説教されちゃうし、買い物したら釣り銭少なかったし、電車でお爺さんに席を譲ろうとしたのね。優しいでしょ?でもね年寄り扱いするなって怒鳴られちゃった。溝にハマるし、そん時財布落としたみたいだし、周りの人には笑われるし。誰も助けてくれないんだよ?ただ笑ってんの。酷いと思わない?他にも色々あったんだけどさ、こんだけ嫌な事続いたら全世界が敵、みたいな?あはは。…もうヤダ。
いきなり家に上がり込んできて早口で捲し立てた名前に俺はポカンとせざるを得なかった。名前の勢いに圧倒された、ってのもあるが何より驚いたのは名前が愚痴をこぼした事。俺は今まで一度だって名前から愚痴なんてものを聞いた事がないからだ。マジでこんな姿見た事ないっつーの。名前は気丈な女だという印象を持っていた銀さんには衝撃的な姿なんですけど。


「おーい。名前ちゃーん」


ここで引いたら男が廃る。という訳で、とりあえず名前を呼んでみたが反応はない。何でいきなり上がり込んでくんの?聞いてって言っておきながら何でそんな早口なの?溝に落ちた?だから臭ぇのかお前。他にも色々って何だよ。と言いたい事はある訳だが、とても言えなかった。だって名前ちゃんってば負のオーラ的なものを纏って机に突っ伏しているんですもの!どうしたら良いんだ。どうして欲しいんだコイツは。


「顔上げたらどうよ?いつまでそうしてるつもりー?」

「……」


はいまた無視。マジどうして欲しいのコイツ。銀さんちょっと逃げたくなってきちゃった。しかし残念な事に新八と神楽はそれぞれ出かけている。こんな状態の名前を放って出かけるなんて真似は出来ない。さすがに。


「い、嫌な事が続いたってもあれだ。ほら、たまにはそんな日もあるって」

「……」

「大きな事故に遭ったって訳じゃねーんだから、な?」

「……」

「怪我した訳でもねーんだろ?良かったじゃねーか」


精一杯の励ましにも名前は無視を決め込んでいる。おーい!新八ぃぃぃぃぃぃ!かぁぁぁぁぁぁぐらぁぁぁぁぁぁ!早く帰ってきてぇ!お願ーい!三百円あげるから!銀さん得意じゃないから!上手に励ましたり出来ないからぁぁぁぁ!今のが精一杯だから!無反応とか自信失っちゃうからぁぁぁぁぁ!銀さん涙出そうだよ。


「……くない」

「え?」

「良くないもん。怪我したもん。私のガラスのハートがパリーンしちゃったもん。修復不可能だもん」

「何言ってんだよ。そんな事言ったら銀さんのハートなんて毎日天パ天パ言われて粉々よ?修復不可能どころの話じゃ」

「一緒にすんじゃねーよ天パ」


オイィィィィィイ!何なのこの子!やっとじゃべったと思ったら何なのこの子!突っ伏したままだから表情は伺えない訳だけれども。あ、何か涙出てきた。傷付いたよ。銀さん傷付いちゃったもんね。


「あー、名前ちゃーん。銀さん傷付いちゃった。名前ちゃんにそんな事言われるとは思わなかった」

「……」

「…塞ぎ込んでても何の解決にもなんないでしょ。今日は嫌な事が続いたかもしんねーが明日は良い事が続くかもしんねーぞ」

「もう全世界は私の敵だもん。ないよそんな事」

「例え全世界が敵になったって銀さんは名前ちゃんの味方だから。誰が何と言おうと銀さんは名前ちゃんの味方でいるから」


だから大丈夫。なんて何の根拠もない事を言ってみた。何が大丈夫なの?何言ってんの俺。でもやっと顔を上げた名前が「本当に?」と涙を溜めた目で俺を見つめるもんだから「当たり前だろ」とまた根拠のない事を言っちまった。


「へへっ。ありがとう銀さん。天パって言ってごめんね」

「いやいや何の何の」


良かった。名前が笑った。俺の言葉がどんな風に名前に作用したのかは分からねーが結果オーライだ。そうそう。お前はそうやって笑ってりゃ良いんだ。何だよ。俺にだって励ましたり出来るじゃん。



案外、簡単だ

20091116

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