「先生、好きです」

「あー、そりゃぁどうもね」

「私本気ですっ!」

「おーありがとよ」


こんなやり取りがここ最近急に増えている。もう何度目のやり取りか何人目からの告白か、なんて分からない。
分かる事があるとすれば毎年同じ時期に同じ経験をしている事。そして相手のほとんどが卒業を間近に控えた生徒である、って事。


「せん、せ」

「ちょ、待て!泣くな」


こうやって泣かれるのも何度目か分からないが、毎回焦ってしまう。こればかりはさすがに慣れない。男は女の涙に弱い、と言うがそれはあながち間違っていないな、と毎回実感する。
何故泣いているのか、というのは大体予想がつく。真剣な自分に対する俺の態度への苛立ち、もしくは俺の態度から答えを悟った悲しみ。


「泣かれてもお前の気持ちには応えらんねぇよ。俺は教師でお前は生徒。それ以上にもそれ以下の関係にもなれねぇ」

「私もうすぐ卒業します!そしたらっ」

「卒業したってお前が俺の教え子である事は一生変わらないの」


だから、ごめんな。と言えば嗚咽を漏らしながら逃げるようにその生徒は俺の目の前から去って行った。
遠ざかる足音を確認して、ふぅ、と溜め息を吐く。
好意を抱かれるのは嫌ではない。むしろ嬉しいが、自分が好意を抱いていない相手から告白されても道は一つである。俺は教師でお前は生徒、なんてのは相手が生徒である事を上手く利用した最もらしい断り方だ。毎年同じ、用意された断り方。都合の良い言い訳。
嫌な男だな、俺は。相手は至極真剣だというのに、毎年の事、と恒例行事のように受け止めて一人一人の気持ちを真剣に受け止めもせず簡単に決まった台詞を吐くなんて。嫌な男だ。


「まーた女の子泣かしてー。嫌な男」

「…覗きをするような悪趣味な女に言われたくないですぅ」

「覗いてないですぅ。たまたま居合わせただけですぅ」


声の主は俺のクラスの生徒、苗字名前だった。何かと思えばツカツカと俺の方へと歩いてきて「はい、課題」とプリントを差し出した。まったく。間の悪い奴め。しかも「モテますね、銀八せんせ」とか言いながらニヤニヤしやがって。嫌な奴。思わずプリントをグシャリと握りそうになった。
それを何とか耐えて、受け取ったプリントに目を通す。


「やれば出来る子なのにね。お前。困ったもんだ」

「ははっ!ありがと」

「いや、褒めてねぇよ」


軽く頭を叩いてやると「痛い!暴力反対!」と喚かれた。うるさい奴。
遅刻はするし授業はサボるし無断で休むし勝手に帰るし、問題児が多いとされているクラスの中でもコイツはなかなかの問題児だった。クラスで浮いている訳でもなく周りとは上手くやっているようなのにその行動の意味が分からなかった。
その行動のせいで出席日数が足りなくてこの課題プリントをやらなければならなくなった訳だ。が、簡単だが今見た限り全問正解だ。これは国語の課題であるから漢字の読み書き、熟語はまだしも全てに決まり切った答えがある訳ではない。それを全問正解。本当に、やれば出来る奴。勉強が嫌いな訳でもなさそうだ。


「お前何が嫌だったの?」

「何が?」

「遅刻、サボり、無断欠席早退の理由だよ。何が嫌だったの」


んー、と考えるように唸った苗字だったがすぐに「別に何も」と答えた。何だそれ。ふざけてんのか。
しかし、思えばコイツはこういう奴だった。所謂気まぐれな奴。掴み所がなくて訳が分からない奴。普段他人から同じように言われてる俺から見ても。
でも俺はコイツを気に入っていた。
間が悪くて嫌な奴だし、うるさいし遅刻はするし授業はサボるし無断で休むし勝手に帰る問題児だけど、やれば出来るし気まぐれで俺と似たような部分を持つコイツが。何にも囚われない、自由なコイツが。


「なぁ、お前さ将来坂田名前になるつもりない?」

「はぁ?告白通り越してプロポーズですか」

「お前を卒業という形で手放すのは惜しい気がしてよ」

「何それ。だからってプロポーズは早いんじゃないの?まず私の事好きなら好きって言えば?」

「俺と教師と生徒以上の関係になりませんか?プロポーズはまた後々な」

「…俺は教師でお前は生徒、って振られた子達に一生恨まれる役目を買って出ろって事ですよね」

「そうだな」

「へー。随分鬼畜だね。でもまぁ、悪くないんじゃないですかね。銀八せんせ」


ちなみに、俺はコイツの気の強い所も気に入っている。

俺は教師でお前は生徒、なんてのは相手が生徒である事を上手く利用した最もらしい断り方だ。毎年同じ、用意された断り方。都合の良い言い訳。
まったく、嫌な男だな、俺は。



嫌な男

20090409

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