大晦日。今年もあと少しで終わる。大好きな人と新年を迎えたくて私は万事屋に来ているのだけど、これは私が押し掛けてここに居る訳ではない。驚いた事に銀ちゃんが誘ってくれたのだ。
ほら、あれだよあれ。銀さんさ、年の終わりにはいちごパフェを食べたい訳。作ってくれるよね?作ってくれないなんて銀さん泣いちゃうかもー。と言う事で、大晦日は万事屋に来てね。と。何とも銀ちゃんらしい。彼が、年越しは一緒に過ごそう、なんて素直に言える性格をしてない事を知っている。だからどんな言葉であれ、誘ってくれた事が嬉しかった。誘われなくても万事屋に行く事は決めていたのだけど。


「あ、カウントダウン始まったよ銀ちゃん」

「おー」


テレビでは今観ている番組の司会者らしき人が、あと一分を切りましたー!と騒いでいる。完全に浮かれモードだ。気持ちが分からなくもないけど、対照的に万事屋は静か。新八君と神楽ちゃんが初詣に出掛けているせいだと思う。だって、二人が出掛ける前はとても賑やかだったんだから。二人はミンナで一緒に初詣に行こう!と言ってくれたのだけど、寒いからヤダ、とそれを断った銀ちゃん。付き合って私も万事屋でぬくぬくしている。私が思うに、寒い寒くないの問題じゃなくて銀ちゃんはただ単に動くのが面倒だっただけなんだ。だって銀ちゃんは面倒臭がりだもの。しかも今日はお酒が入っているから尚更ダルかったんだろう。今年もこれからも銀ちゃんと一緒に居れますように!健康に過ごせますように!万事屋にたくさん仕事の依頼が来ますように!と神頼みしようとしていた私の計画は台無しだ。けれど私は自らその計画よりも銀ちゃんと一緒に居る事を選んだ。だから文句は言わない訳だけど、私は新たな計画を思い付いてしまった。年を越したら、明けましておめでとう、と言って銀ちゃんにちゅーするという何とも乙女チックな計画。人目があったら恥ずかしいけど今は二人きり。定春は居るけれど定春なら見られても問題ない。銀ちゃんはどんな反応をするんだろう。何、可愛い事してくれてんだコノヤロー!と思ってくれたら計画成功って事にしとこう。
そうこうしてる内に本格的にカウントダウンが始まったようだ。計画遂行の為にベストポジションである銀ちゃんの隣を陣取ってテレビから聞こえる掛け声に声を合わせて私もカウントダウン。


「ごー、よん、さん、にー、い」

「ぶぇっっっくしょいっ!」


明けましておめでとー!おめでとーございまーす!ついに新年が明けた。テレビからは一層賑やかな声が聞こえてくる。あー、おめでとー。しかし今の私はちっともおめでたい気分ではない。ズズッ、と鼻をすすった銀ちゃんに私は睨みをきかせる。何て男だ。お前空気読めよ。よりによってこのタイミングでくしゃみですか。二度も私の計画を台無しにしてくれるなんて。勝手に立てた計画だけれども。あー、おめでとさん。とトロンとした目を向けてきた銀ちゃんに自分が惨めに思えた。新しい年を一緒に迎えられると浮かれていたのは私だけですか。馬鹿みたいじゃないか。


「おめでとさんじゃないよ!わ、私、ちゅ、ちゅー、うぅ、ちゅぅー」

「何だよ。ちゅーちゅーちゅーちゅーうっせぇな!今年はもー丑年ですぅー。あれ?俺、今の上手くね?」

「上手くねーよばぁぁぁぁぁぁぁか!!」


ちなみに銀ちゃんが言っているのは、もー丑年と言ったところだと思う。上手い上手くない以前の問題である。しかも物凄くどうでも良い。そんな若干冷静な部分があるものの、私はうぇっうぇっ、と感情が高ぶり過ぎて泣き出してしまった。新年早々何をやっているんだ私は。みっともない。
でもこれは銀ちゃんのせいだ。私の乙女チックな計画を台無しにした銀ちゃんのせい。乙女心の分からない銀ちゃんのせい。今度は文句を言ってやろうと思ってみても口からは、うっぐぇっ、と何とも色気のない声しか出てこない。せっかく化粧をした顔も涙でぐしょぐしょだ。何て最悪な年明けなんだろう。


「あー、分かった。俺が悪かったよ」

「うぇっ何にも、分かってない、くせにー」

「分かってるって」

「ばぁぁぁぁか」

「はいはい」


なだめるように私の頭をポンポン叩いていた銀ちゃんの手は次第に撫でるようにして私の前髪をかき上げた。そしておでこに触れる柔らかな温もり。一瞬にして涙が止まった私は目を見開いて銀ちゃんを見上げる。そこには悪戯っ子のようにニヤリ、と笑った銀ちゃんが居た。


「明けましておめでとう、今年もよろしく」

「う、うん。よろ、しく」


本当に何て男だ。私を操るのが恐ろしいくらいに上手い。悔しい。悔しい。悔しいけど、銀ちゃん大好き!と飛び付いてしまった私はそんな男に心底惚れてしまっている。
泣いて笑って喧嘩して、今年もそうやって何気ない毎日をささやかな幸せを感じながら私達は変わらずに過ごしていくんだろう。



今年もよろしく!

20090110

戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -