深夜、人様に電話をかけるなんて迷惑極まりない時間に私は半ベソで万事屋に電話をかけた。
何回かのコールの後聞こえてきたのは、いつもの、はい、万事屋銀ちゃんでーす。というやる気のない声ではなく、誰だこんな時間に。という明らかに寝呆けた声だった。
そりゃそうだ。普通の人なら寝てる時間だもの。電話の音で起きたに違いない。


「ぐすっ、助けて、天パ」

≪……イジメですかコノヤロー≫


起こしてごめんね。なんて言わない。だって言ったら、謝るくらいならこんな時間に電話してくんな。って怒られるに決まってる。
だからと言って、天パ、はあんまりだったか。
起こされた上に悪口言われるなんてホント、イジメ以外の何物でもない。
ごめん。これはごめん。
でも今の私には言葉を選ぶ余裕なんてなかったりする。
だから日頃使ってる言葉がついポロッと口から出ちゃったんだよ。
ホントごめん。


「怖い夢みた。うっ、怖くて寝れない」

≪ったく、そんな事で電話してくんなよ。お前は小学生ですか?あーアレだ。今みた夢は忘れろ。楽しい事でも考えながら目を瞑れ。そして羊を数えろ。そしたらそのうち寝れんだろ≫

「うぅ、そういう事じゃなくて…」

≪だァいじょーぶだって!何事もやる気が肝心だ!やれば出来る!あ、やべっ。これ以上起きてたら銀さん寝不足になっちゃう。んじゃ、おやすみ≫


がちゃん。
言葉を返す間もなく電話は切られてしまった。
なんて薄情な男なんだ!可愛い彼女が助けを求めてるっていうのに!こんな時間に電話をかけたのが悪かったのかもしれないけれども!
大丈夫だよ。とか、俺が居るから安心しなさい。とか、優しい言葉の1つでもかけられないのか。
何が羊を数えろ。だ。バカヤロー。
私は眠る為のアドバイスが欲しかった訳じゃないんだよ。優しい言葉をかけて欲しかったんだよ。不安を取り去ってくれる言葉が欲しかったんだよ。
そしたら、そうそう。今みたのはただの夢だよ。銀ちゃんが居なくなる、なんて。そうだよね。って簡単に眠れたのに。
声聞いただけで安心出来る程単純じゃないんだよバカヤロー。
バカバカ天パ。女心も読めないなんて。どれだけ一緒に居ると思ってんだ。
ガラガラ、ピシャリ。


「怖い夢みたくらいで泣くんじゃありません」

「……銀、ちゃん?」


さっきまで電話で話していたはずの彼が、おやすみ、と電話を切った彼が、何故か今、私の部屋、私の枕元に立っている。
あーさっぶ、とモソモソ私の布団に潜り込んでピタリとくっついた彼は少し冷たくて温かかった。
オバケでも幻覚でもない。銀ちゃんだ。銀ちゃんだ、銀ちゃんだ。


「この寒い中ものすっごい勢いで風受けて銀さん耳とか鼻とかもげそう」

「うっ銀ちゃん」

「なァ、温めてよ」

「銀、ぢゃん」


首元に顔を埋めてグズるだけの私に銀ちゃんは、お前ホントに小学生かよ、と溜め息を吐いた。
かと思ったら、ぎゅうっ、と私を抱き締めて、よしよーし、どんな夢みたんだァ?銀さんに言ってごらん。と優しい声色で囁やくもんだから、半ベソどころじゃなくなった。


「銀ぢゃん、居なぐなっだ」


嗚咽混じりに言うと、2度目の溜め息が聞こえて腕の力が強まった。
苦しいよ銀ちゃん。でも温かいよ。それを口にする事は出来ない。ヒックヒックとしゃくり上げる事しか出来ない。そんな私に銀ちゃんは更に優しく、優しく優しく言葉を紡ぐ。


「なーに言ってんだよ。銀さんならここに居るだろ?大丈夫だよ。だからもう安心しなさい」


うんうん、と何度も頷いてありがとう銀ちゃん、と言うと、銀ちゃんはバカだなお前は、と笑った。
天パって言ってごめんね。来てくれてありがとう。どこにも行かないでね。独りにしないでね。ずっと一緒に居ようね。
伝えたい事は山程あるけれど、心地良い温もりが睡魔を誘うからただ黙って目を閉じた。


「寝られそうか?」

「ん…」

「そりゃァ良かった。でも銀さんは色んな意味で起きちまったんだけど」

「スー…」

「…ってアレ?ちょ!もしもーし!……マジでか」


今度はとても幸せな夢がみられそうだよ。銀ちゃんと一緒の幸せな夢が。



安眠

20081126

戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -