好きな人に自分以外の異性の話題を出されるのは何とも嫌な気持ちになる。これは俗に言う、嫉妬、だろうか。しかし、嫉妬したところで私達の関係はただの友達。他の子の話なんて聞きたくないのよ!なんて私に言う筋合いはない。しかも言ってしまえば私の気持ちを確実に悟られてしまうだろう。だから私は気持ちも感情も悟られぬように彼の話を聞くのだ。


「A組の鈴木って可愛くね?」

「誰?知らないよ私」

「昨日帰りにマフィン貰ったんだけどこれが美味くてよー」

「へー、良かったね」


丸井は誰かに何かを貰う度私に報告をしてくる。誰に何を貰った、誰に貰った何が美味かった、とか。自慢してるつもりなんだろうけど、それを聞いても私は羨ましいなんてちっとも思わない。むしろ憎たらしい。モテる丸井が。そして丸井から話を聞かされる度思い知らされるのだ。たくさんのライバルが居る事を。
丸井のタイプは物をくれる子、らしい。お菓子限定で。そんな無節操な!お菓子くれるなら誰でも良いのかよ!と言いたくなるが丸井に想いを寄せている子からしたらチャンスな訳だ。手作りでも何でも物をあげれば丸井が好きになってくれるかもしれないんだから。しかし丸井は一度だって個人に対して何かを言った事がない。食べ物の評価のみだ。可哀そうに。それを考えれば物をくれる子がタイプ、なんて嘘かもしれない。お菓子が欲しいだけだった、とか。だって本当一度だって…あれ?


「A組の…鈴木、さん?」

「うん。何回かお菓子貰ってたんだけどよ」

「へ、へー」

「昨日告られた」


付き合おうかなー、マフィン美味かったし。ってピンチだ。物をくれる子がタイプって本当だったのか。しかも可愛かったとか。しっかり見るとこ見てたのか。こんな事なら私も丸井に何かあげるんだった。物で釣るようなマネ出来るか!なんてつまらない意地張るんじゃなかった。可愛いとかそんな自信ないけど、もしかしたらもしかしたかもしれないのに。


「良いんじゃない?可愛いし、作るお菓子は美味しいし」

「そう思う?」

「う、ん」

「んじゃ返事してくっかな。まだ返事してねぇんだ」


そう言うと丸井は席を立って行ってしまった。あー、私の恋は終わった。引き留める事なんて出来る訳がない。だって私はただの友達だもの。それに、好きになってもらう努力をした子と何もしてない現状に甘んじていただけの私。当然の結果なのだ。後悔しても遅い。遅いんだ。泣いちゃいけない。泣いてどうする。泣くな、私。


「名前」

「ま、るい」


聞こえた声に顔を上げればそこには丸井が立っていた。確かにさっき教室を出て行ったはずだ。もう返事をしてきたって事なのか。また報告か。付き合う事になりました、って。悪いけど聞きたくない。本当に泣いてしまいそう。ずっとずっと隠し続けてきた気持ちなのに、泣いて気持ちを知られたら、しかも今更惨めじゃないか。


「泣きそう?」

「はっ、何が」

「泣くなよぃ、嘘だから」

「はっ?」


丸井は困ったように笑ってみせた。何が?何が嘘?何でそんな風に笑うの?私の頭は一気に混乱する。だって訳が分からないでしょう?


「返事はさ、昨日その場でした。断った」

「そ、そうなの」

「俺、名前をいじめたくって」


今回はちょっとやり過ぎたな、と言って丸井は椅子に座る。いじめるって何だ。今回は、って私ずっと丸井にいじめられてたって事なの?ますます分からない。そんな私の気持ちを察したのか、丸井は言う。


「俺、名前が俺を好きだって知ってたんだぜぃ。お前は隠してたつもりだったかもしんねぇけど」

「えっ」

「他の女の話聞く時とか顔に出てる。それなのに何も言わない。そんな素直じゃない名前が可愛くて、つい」


何だこのドッキリ。つい、って何。と言うか私、顔に出てたとか分かり易過ぎだろう。さっきまで泣きそうだった私はどこへやら。今は恥ずかしさで一杯だ。顔に熱が集まっているのが分かる。丸井は少し笑って、ごめんな、と呟く。謝られても困る。私にどうしろって言うんですか。


「俺の事好きだろぃ?いい加減好きって言えよ」

「ば、バッカじゃないのっ」

「ハハッ!俺はそんな素直じゃなくて意地っ張りな名前が好きだぜぃ」

「っ…」

「ほら、好きって言ってみ」


丸井が顔を近付けて耳元でそう囁くから私は顔だけじゃなく体中が熱くなった。ほら早く、と囁く丸井はどこか楽しそうだ。まさかこんな奴だったなんて!人をいじめて楽しむような奴だったなんて!それでも私は丸井が好き、なんて。どうなっているんだか。


「す、き」

「俺も、好きだぜぃ」



大どんでん返し

ごめんなさい<(_ _;)>
20090118

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