先程まで、共に居て、同じように駆け出して、時には夢を語って笑い合った、仲間が、倒れて行く。次々に。簡単に。一瞬で。呆気なく。
もう、共に駆け出す事も、夢を語って笑い合う事も、出来ない。二度と叶わない。確かに、共に駆けた。言葉を交わした。それなのに、そこに居る仲間は、倒れたまま、起き上がる事もなく、まるで全て嘘だったかのような。
私は、みんなが幸せに暮らせる世にしたくて、女だというのに反対を押し切って戦に出て、戦って、それなのに、仲間すら守れない。戦う度に仲間が居なくなる。それで良いのだろうか。生き残った者だけが幸せになって。倒れた仲間の犠牲の上に成り立つ幸せなんて、本当に幸せなんだろうか。


「名前!」

「う、わっ!」


瞬間、手を引かれた。同時にぴりっ、と右頬に痛みが走った。矢が掠めたのだ。手を引かれていなければ、それは私の後頭部に刺さっていただろう。もし今の矢が刺さって私が死んでしまったら、私の変わりに仲間が誰か一人多く生き残るのではないだろうか?幸い私を掠めた矢は誰に刺さる訳でもなく、勢いを失って地面に転がっていた。


「何考えてんだ。死にたいのか」


怒気を含んだような声に、体が震えた。途端に矢が掠めた頬がじくじくと痛み出した。痛い。ただの擦り傷なのに。倒れていった仲間達はこの痛みの何倍も痛かったのだろう。苦しみながら息絶えたのだろう。おい、聞いてるのか。また少し怒気を含んだような声で聞いた男を見上げる。目が合った。憐れんでいるような、悲しそうな、そんな表情をしていた。


「どうしたんだよ」

「…少し考え事をしていた」

「頼むから、集中してくれ」

「分かってる」


居た堪れなかった。目を逸らさずにはいられなかった。分かってる。きっと、このままでは私が、死んでしまう。一瞬の油断が命取りになってしまう。先程はたまたまこの男に助けられた。それも二度目はないだろう。この男には私以上に色々な役割があって私なんかを助けてる暇なんてないはずだ。たまたま。近くに居て、目に入って、助けられた。それだけの事。私は大した役目もないのに、呆けて、助けられて、仲間も守れなくて。何を、しているんだろう。


「やっぱりあんたに戦は向かないよ」

「な、に」

「仲間が死ぬ度に心を痛めてるあんたに戦は向かない。そんな事考えながらなんて、いつかあんたが死ぬよ。さっきだってそうだろ?俺様怖くて見てられないよ」


図星。再び見上げた男は先程と同じ表情を浮かべていた。何で分かる。私の事が。この男は心が読めるのか。ずっと見てたから分かるよ、そう言って男は笑った。


「佐助うるさいぞ」

「図星でしょ」

「黙れっ!私は良いから幸村様のところに」
「俺は名前が心配なんだよ」


私の言葉を遮って投げられた言葉は酷く真っ直ぐで。偽りなど感じさせない程真っ直ぐで。不甲斐なくて、悲しくて、泣きたくなった。どうしてそんな事を言うの、佐助。


「俺は名前に生きていて欲しい。もちろん大将にも旦那にも。だから守る。戦う。守りたいものを守れるなら、命なんて惜しくないよ」

「佐助…」

「他の皆だってそれなりに覚悟して此処に来てると思うんだ。確かに悲しい事だけど、倒れた奴等の分もあんたは生きなきゃ駄目だ」


嗚呼、私は何を考えていたんだろう。何を迷っていたのだろう。何の為に此処に来たのか。


「もう大丈夫。すまなかったな佐助。ありがとう」

「とんでもない」

「私は死なない。だからお前も死ぬなよ」

「御意」


もう泣き事は言わない。ただ、前を向く。そうするしか、ないのだ。



幸せはとても不味かった

お題:告別
20120518

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