嫉妬とはなんて厄介な感情なんだろうか。私は仁王を好きで、仁王は私を好き。そう分かっている。だからこそ付き合っているのだ。
嫉妬なんてする必要ないのに、不安に思う必要なんてないのに、どんなに自分に言い聞かせてもこの感情を拭い去る事が出来ない。今だって、仁王と女の子が話をしてるのを見てるだけでぎゅうぎゅうと胸が締め付けられる。好き過ぎて死にそう、なんて絶対あり得ないけど今の私にはそんな言葉がぴったりかもしれない。
そういえばあの子から仁王に話しかけていたっけ。あの子は仁王が好きなんだろうか。何の話をしてるかなんて知らないけどとても楽しそうだ。
私は仁王を好きで、仁王は私を好きで、あの子は仁王を好きで…あぁ、心臓が捻じれてるのかもしれない。胸が、痛い。
「どうしたん?」
「…仁王」
顔を上げると目の前には仁王が心配そうな表情を浮かべて立っていた。いつの間にここに来たんだろう。さっきまでそこで話していたのに。
「話、終わったの?」
「ん?あー、良く分からんけど話しかけられたから適当に話して終わった」
「ふーん」
「で、どうした?」
ガタン、と前の席の椅子に座って顔を覗き込んできた仁王は相変わらず心配そうな表情を浮かべていた。何だか安心した、と思った私は嫌な奴だろうか。
「私、仁王が好き過ぎて死んじゃうかも。あと、凄く嫌な奴かも」
「何じゃそりゃ」
「まぁこっちの話なんだけど」
私の言葉を聞いた仁王は難しい顔をして黙ってしまった。きっと意味が分からないのだと思う。これで意味が分かったら凄いと思うけど。
気にしなくて良いよ。そう言おうとしたら仁王は真っ直ぐ私を見て「俺も」と口を開いた。
「名前が好き過ぎて死んでしまうかもしれん」
「えっ…」
「たまに凄く不安になるんじゃ。名前は本当に俺を好いとるんじゃろうか、って」
「仁王…何で、そんな事」
「ほら、それ。いつになったら名前で呼んでくれるん?」
「え、だって」
「名前が他の男と話してるの見とると腹が立ってくるしの。言ったら嫌われてしまうかもしれんと思って黙とったけど。嫌われたらそれこそ死んでしまうかもしれん」
仁王はそう言って私から視線を逸らした。まさかこんな事を思ってるとは思わなかった。仁王はいつだって飄々としていて感情だって滅多に表に出さないから。同じ、気持ちだったんだ。
「何か、ごめんね。まさ、はる」
「…いや、こちらこそ」
笑った雅治を見て、また胸がぎゅうぎゅうと締め付けられた。でも今度は、それが酷く心地良かった。
安心してね、君と僕との終焉を告げる鐘ならば、とうに夜空に葬ったから
お題:hakusei
20100315
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