一目惚れなんてドラマの世界だけだと思ってた。
あの日、君の笑顔を見るまでは。
「あのっ、貴方の笑顔に惚れました!何でもします、三回回ってワンだってしますから!だからっ…」
「うん、じゃあ三回回ってワンってして?」
「…………、ワン!」
そして勇気を出して人生初の告白。
この日から俺は彼、山本君の犬になった。
「あー、いたいた。あのね、先生に頼まれたんだけど代わりに行ってくれないかな?俺はちょっと用事があって」
「わかりました!」
いつものようにニコニコと人好きしそうな笑みを浮かべて彼はさっさと去っていった。
違うんだよなぁ。もうちょっと、こう…いやいや。
あんな告白に引かずに接してくれてるなんて優しいなぁ。それに、
「わざわざ俺の事、探してくれたんだ」
ちゃんと自分で頼みに来る辺り律儀だし探してる間はどこに俺がいるのかって考えてるんだろうなぁ…それだけで口許が緩みそう。知れば知るほど惚れてくよ。
例え今から帰ろうとしてたとしても山本君に頼まれたらやるしかないない!
もし早く終われたら帰る前に山本君に会えるかもしれないし早く終わらせよう!
そう意気込んだまではよかったけど…これはとても一人じゃ簡単に終わらない量で終わった頃には夕日が落ちようとしていた。
「はぁ、さすがにもう…ん?」
もう誰も居ないと思っていたのにちょうど通りかかった教室から人の声が聞こえる。この声は…
「…んで、何で私じゃ駄目なんですかっ」
「だからもう何回も言ってるでしょ?駄目だって」
好奇心に負けてこっそりドアの隙間から覗いちゃったけどこ、これは告白というやつじゃっ!
女の子の方は彼女にしたい子ナンバーワンの桑島さんだ。
桑島さんは泣きながら山本君に詰め寄ってる。内容からするとフラれちゃったのかな…
二人のやり取りをぼんやりと見ていたら舌打ちと共に低い溜め息が聞こえた。
「だからさぁ、俺はお前みたいなうざったい女は趣味じゃねぇんだよ」
「や、山本、く…どう、したの?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。優しく言ってやってるうちに諦めときゃ良かったの…本っ当に頭の悪い女だな」
「ひっ、酷い!最低っ」
泣きながら言い捨てて桑島さんは教室から飛び出したんだけど…何とか桑島さんにぶつからないように避けたけどドア全開にしたもんだから山本君が俺に気付いて鋭い眼差しを向けてくる。
いつものニコニコしている表情とは違って心底見下した瞳のまま歪んだ笑顔で近付いてきた。
「お前もあの馬鹿女みたいに幻滅したか?でもこれが…っておい、何か息が荒…」
言い終わる前に山本君が固まった。
でもこの荒い息は止まらない。だって、だって!
「もっ、もっと!もっと蔑んだ目でゴミでも見るように見下してください!」
「…はぁ?お前頭おかしいんじゃねぇか?」
ああ!その目!その顔!たまらない!
一人はしゃいでたらわざとらしいぐらいのため息にだるそうな表情になった。
この顔もまた…!
「お前、おかしいだろ。普通惚れた奴が豹変したらさっきの女みたいな態度取るんじゃねぇの?」
「え?」
俺の態度がおかしい?そりゃ盛大に興奮しちゃったけど…俺は桑島さんみたいな態度は取れない。
だって俺が一目惚れしたのは、
「俺はありのままの君を好きになったんだからおかしくないよ」
ふてぶてしい態度に人をゴミや害虫のように見下す瞳、心底馬鹿にした嘲笑う顔。
俺が一目惚れたのはそんな君だから。
「な、んだそれ。やっぱ頭おかしいじゃねぇか」
「あああありがとうございます!」
「褒めてねぇよ!つかいくらお前が俺を好きでも男と付き合う趣味ねぇぞ」
「え?別に付き合ってほしいとか思ってないよ?俺は山本君に罵られたり見下されたり蔑まれたいだけだから!」
「……」
ああっ、何だか見下したような怒ったような顔で見られてる…こ、これもまた…!
「もういい。お前の相手するだけ時間の無駄だ。帰る。置いてかれたくなかったら早く来い」
「えっ、あ、はい!」
ふてぶてしい態度に人をゴミや害虫のように見下す瞳、心底馬鹿にした嘲笑う顔。
それでもちゃんとこんな俺と向き合ってくれる君が大好きです!
Fin.
2013/7/29
お久し振りの更新です。
肉体的ドMは書いてたけど精神的ドM書いたことがないな、書きたいなって思って書きました。
最終的に何だかんだで付き合うんじゃないかなぁって思う二人です。
やっぱりタイトルをつける才能ないです。
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