3 「参ったなぁ」
雨の音に集中していたから、その声を聞いてびっくりした。
いつの間にか大きなおじさんがそこに居た。
体から滴を垂らして、ネコみたいにぶるるって頭を振ってる。
どうしよう。
ミネちゃんは好きだけど、男のニンゲンは怖いなぁ。
逃げようか。
でも、濡れるのはイヤよう。
なんて考えているうちに、その人があたしに気付いた。
「あ、先客がいたんだ」
「にゃー」
『せんきゃく』ってなあに?
あたしそんな名前じゃないのよ。モカっていうの。
「随分甘ったるい声で鳴くんだな」
そのおじさんが笑った。
笑うと優しそうな顔。
もしかしたらいい人かも知れない、なんて。
あたしは単純にもすぐそう思ってしまう。