※兄弟愛は美しい
※のっとびーえる、いえすきょうだいあい





『ザザー』
最近ふと思う。
俺の『世界』に雑音が増えたと感じることが多くなったことに。
確かに俺はまだまだ生きていける。でも命は俺に従ってはくれないから。
「ざ…に…さん…がが」
誰かが俺を呼ぶ。声すら聞き取れない。
「兄さん」
「…ジル?どうかしたのか」
「呼んだって気付かないから心配した」
振り返れば不機嫌な弟がいた。形のいい眉をきつく寄り添わして、視線がさらにキツくなる。
「そう怒んないでさ」
「怒らせてるのは兄さんなんだけど?」
弟の薄い体を抱きしめると暑苦しい、といって叩かれた。
お、視界良好。
「ありがど…いったー…い」
「マゾか」
「ん、いや、さっきまで輪郭がぼんやりしてたから…。助かったよ」
器用な弟は顔を少し赤らめると同時に俺に悪態をつく。蹴りながら。これが俗にいうツンデレかな。
「俺ね、最近やばいの」
ひとしきり攻撃を受けたあと、誰に言うでもなしにぽつりと呟く。万能な弟は訝しげな顔をして黙り込んだ。
「手が上手く動かないし。あ、今は落ち着いてるけど」
言ったそばから震える右手。ジルは呆れたようにため息を吐いた。
「目も視力落ちた。輪郭がぼやけちゃってさ。耳も聞こえない」
まるでヘレン・ケラー。サリバン先生も、立派な両親もいないけど、気分だけは同じ三重苦を味わってるあの人と一緒。
「…ローグ」
「なんだ?ジルが僕のこと名前で呼ぶなんて珍しいね」
「別に。ただ死んだら殴るから」
「死んだらそっとしといたげてよー」
「ぜってー殴る」
ジルはそっぽを向いてこの空間から出て行った。のこるは俺一人。
そういやここってどうなってんだろう。一回も気にしたことないなんて嘘だけど。
四角く白い空間。場所なんていったら広すぎて場所にはならないし部屋にしてもでかすぎる。だからここは空間。
「うーん。つまんな」
『やっほぉ、ローグ!湿気た顔して何考えてんのかしら!』
「久しぶり、キリカのお姉さん」
ぶぶん、と電子的な音をたてて俺らが『キリカ』と呼ぶ女性が現れた。
「あれ?今日は二つ目のキリカじゃないんですか」
キリカは五つ子であるが何故かみなおんなじ名前なので仕方なく一つ目や、二つ目という呼び名をつけている。
『あぁー、2は機嫌悪かったからやめたの。それよりローグ、その顔は何よ』
「ジルがいなくて一人寂しいからさー」
『ジルは反抗期なの。そっとしといてあげなさいよ』
彼女の奇抜なファションでこんな大人っぽいことを言われてしまうとは。白い空間には映えない真っ白な毛皮。キリカが動くたびもふもふと上下する。
「…キリカ。俺さ、ジルに殴られるかも」
『殴られたら殴り返せって4なら言うわよ』
「そうじゃなくて。最期に殴られるときは俺、反撃できないし」
そこまで言うとキリカは理解してくれた。ちょっとだけ分厚くて真っ赤な唇の端をひくひくと震わせて、俯いてしまった。
『…じゃあ3もとうとうローグと決着つけらんないのね』
「しょーがないよ」
俺は出来るだけ明るく言う。でもキリカは、俺が明るく振る舞うほど泣きそうに縮こまる。困ったなぁ、人を笑わせるのが仕事なのに。
「キリ」
突然頭の中にノイズの嵐が吹き始める。ざがざがと俺の『思い出』を次々に消そうと動き出す。
「き…りか…!!」
『ローグ!?あんたどうしたの!?』
「…もうちょっと、で」
体を作り上げた細胞が壊れていく。
「12時、だ…」
キリカが小さく短い悲鳴をあげる。それでもすぐ正気に戻った。いつもの勝ち気な顔で豪快ににっと笑う。
『待ってなよ!私からの最期のプレゼント、してやるから!!』
ぶン、とキリカが消える。また取り残された俺。
それでも待つ。キリカは戻ってきてくれるから。

ローグと別れてもう一つの空間でジルは寝転がっていた。
自分のなかで『ローグ』という存在はなくてはならないものだし、自分の土台にもなっている大切なやつだ。消えるなんて思ってもいない。
しかしそう思ってるのは自分だけらしく、ローグはいとも簡単に自分の前から消えることを宣言した。
そんな腑抜けだなんて信じたくなくてジルはこの空間に逃げ込んだ。
「……消えたらまじ殴る」
『ジル!!そんな回想なんていらない!今すぐついといで!!』
「は!?」
勝手に人の回想に入ってくるなよ、と突っ込みたかったがそれよりも早くキリカはジルの腕をつかんだ。
「ちょっ、離せよ!」
『うるさい!急げ』
嫌な予感しかしない。ジルは大人しくキリカに引っ張られていく。
『ローグ連れてきたぞ!!』
「うぉっ!?」
「あ」
キリカに引っ張られた手をいきなり放り出されてジルは思い切り顔面を床にたたきつけられた。
「ジル、大丈夫?」
「いっ…あ、あぁ。ってローグ!?」
「ごめんなー、ジル」
ジルの目の前に立つ兄は、徐々に消えていた。ぶつ、と音を立てて結合しているはずの分子は崩れ、さらさらと消えていく。何度も何度も崩れ落ちては、消えていく、その異様な光景にジルは言葉を失った。
「まじでごめんー。殴んないでよ?」
あくまでローグは明るい。しかしその明るい声がジルを罪悪感で蝕んでいく。
「に…い、さん…」
「わっ、わっごめんってば!殴ったら消えちゃ…う?」
薄く細い弟が精一杯ローグを抱きしめた。
ローグの体の機能は半分失われていて、感覚は理解できない。目も上手く世界を映せない。
それでも嬉しくて壊れたように涙を流した。
「消えるなって…言ったよな…?」
「…ごめんね。約束やぶりで…」
ジルの耳にざらざらとローグの細胞が壊れていく音が絶えず聞こえる。さらにローグが零す言葉からも、雑音が聞こえていることに気付いた。
───本当に、終わりなのか…
「俺……ザザ、消えちゃ…ガ…うけど、忘れん…よ?」
「俺を誰だと思ってんだよ」
「…ぴ…いつま…も、がー、可愛い弟…分?」
「ひっでぇ」
ローグの体は半分も残っていない。後は消えるだけ。
「ごめ…な…。ガガ…ジル」
「…別に」
「消えても……ピ…おぼえてザガガー…──」
─ぶつン
耳元で鳴り響いた砂嵐は早急に去っていった。手のなかにあった温もりはざらざらと崩れて消えていった。
残るものはなにもなくて、寂しさだけが残る。
「…ロ…グ…!」
『…ジル…』
いつの間にかいなくなっていたキリカが、いつの間にか戻っていた。
「キリカ…いつでも、体ん中に…あいつの存在があったんだ…」
『…そう…』
「今…そんな感触…どこにもない」
ジルが生まれた瞬間からいた存在。一緒にいれたのは短い期間だったけど。思い出は数え切れないほどたくさんある。

「…ありがとう…大好きだよ…」



2011,7,24
─その日
─アナログ放送は終了し
─56年という長い歴史に幕を閉じた



アナログ放送終わった…
ということで、ちょっと寂しくなったんで書きました←てへぺろ
お気づきのとおりローグはアナログの「ログ」から。ジルは『デジタル』だったんでジルに←
ちなみにキリカは入力切り替えから。
テレビによっていくつ切り替えられるか知らないですけどうちは5つあったんで5つ子に。
ひどい出来でサーセンwww
アナログ放送ェ…

おまけ

『ジル、元気を出しなさいよ』
「は?なん」
『東北三県ではアナログ放送は来年3月までやってるから!』
「いやー騙してごめぶふぐっ」
『ローグぅぅぅ!?』
「まじぶちころ」












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