※蘭→(←)南






桜が散った頃、もう誰も見向きもしなくなった、桃色から緑色に葉を付け替えた木が立ち並ぶ校舎の裏を、窓から身を乗り出して見ていた。薄暗いその場所は誰も来ないようで、やけにひっそりしていた。向かいを流れる割と大きな川を見ていると、がさ、と落ち葉を踏む音がした。
誰だ、と身体をより大きく乗り出したとき後ろにぐい、と強く引かれた。
「うおっ、危なっ!!」
「それはこっちのセリフだ霧野!危ないから身を乗り出すな!」
「…神童、ごめん…」
栗色をなびかせて、真剣な顔で怒られた。でもそんな忠告よりも、頭の中は一瞬だけ見た紫色でいっぱいだった。
もう一度覗こうとしたけれど、まだ神童が見つめていて、居なくなった頃には紫色の頭も見えなくなっていた。

「南沢先輩」
「あ?んだよ霧野」
「なんで昼休み、あんなとこ居たんですか」
「…あんなとこ?なに言ってんの?熱でもあんじゃねーの、お前」
そう言って南沢先輩は背を向けて、神童に声をかけた。神童も意味合いは違うけど真剣な瞳で、先輩の話を聞いている。
何故か無性にイラついた。
「意味わかんねー…」
ぼんっと足元にあったボールを蹴れば、側にいた海野がびっくりしたように顔をあげてこっちを見た。どうかしたー?と海野なりに気遣いを含めた声で尋ねられても答える気にはならなかったし、答えが自分自身でもわからなかった。

次の日も、次の日もじっと窓の下を覗いたけれど紫色は現れなかった。
何に執着しているのか、わからない。
きっとこのわからない部分に、答えがあるんだろう。執着する、何かが。
「…あ!」
身を乗り出さずに見える範囲を眺めていれば、いつかの紫色。身体は意識せずとも踵を返して校舎の裏に走っていた。一年の頃なら、すでに息を切らしているであろう距離を楽々走り抜ける。なるべく音を立てずに近寄れば、その紫色は振り返った。
「…バレた」
「何、してんですか、先輩」
「べーつにー。お前も横来れば?あ、もう少しで昼休み終わりか」
いつもより少し饒舌な先輩の横に並んで座る。じめっとしていそうな校舎裏は、思いのほか涼しくて、落ち葉もいい具合に乾いていて、座り心地は良かった。
無言の時間。
ちらりと横を盗み見れば、先輩はこっちの視線に気付いたらしくてにこっと笑った。
「何?」
「…いや、えーと、その…」
しどろもどろになっていると、小さく昼休み終わりを告げる鐘が鳴った。その音に身体を固くすれば、先輩は呆れたように息を吐いた。
「ほら、帰るぞ霧野」
内申に響くぞ、と言って立ち上がった先輩の裾を、咄嗟に強く握って引っ張った。
「なにっ…!?」
「え?うわっ」
引っ張ったせいでバランスが崩れたらしく、先輩は前のめりに倒れそうになる。急いで腕を引っ張って自分の方に倒れ込ませた。
心臓がばくばくいってるのがわかる。ひゅー、と先輩がかすれた口笛を吹いた。
「かっこいいことしやがって」
「は?え?あっ、すみません!俺っ」
「いいって、いいって。気にすんなよ」
ばくばく、どきどき。先輩の香りにくらくらした。
「先輩は──どうして、ここに来るんですか?」
一番言っちゃいけないタイミングで言ったような気がする。罪悪感すらこみ上げた。
「何でだか、お前わかる?」
「…わかんない、です」
わからないから、聞くんです。
不安でも、怖くても、聞くんです。
知りたいから。
それだけ。
「残念ながら俺にもわかんない」
「はぁ?」
「だからさ、教えてよ」
先輩は、俺を見た。
いつもの馬鹿にしたような目じゃなくて、小さい子供が宝物をどこに隠したかわからなくて、困っているような、それでも助けを求められない。複雑な目で俺を見る。
そして俺はこの視線を知っている。
「俺、お前が他人と話してんの、嫌いだ」
奇遇ですね、先輩。
「──俺も、です」
だから一緒に、探しましょうか。
好きって言葉を。
相手に贈る、大事な言葉を。






終わりが気に入らなくて好きじゃないんだ、これ
なんかうまく行かない…おかしいな…













「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -