物心つく前から空を飛ぶことに憧れていた。あの青く突き抜けるような空の向こうに、白い雲の狭間に何があるのかが知りたかった。
それから父が居なくなったジムを必死に守った。いつか空を飛ぶ喜びを見つけさせてくれた偉大な背中が自分の前にふらりと現れやしないかとずっと待っていた。

「君のジム、かなりとんでもないよね」
「うるさいな、冷やかしなら帰れよ」
「ぶっ飛んでるっていうのかな?あぁでも君、飛ぶの好きだもんね」
「帰れ」
ある日自分の前にふらりと現れたのは、人工的な色の金髪に、自然な色合いの紫色した眼を持つおかしなやつだった。何のアポも取らずにいきなりやってきて、人の話なんか聞きやしない。つまるところ変人の極みを追求したかのような男だった。
「帰れだなんて、ひどいなぁ」
「うるさい」
「あれ、もしかして僕、君に嫌われてる?」
「今更」
「傷つくよ、流石に」
「じゃあ帰れ」
ずっとこんな押し問答。埒が開かない、不毛な会話。
「そういえば、君のお父さん」
「…父さんを知ってるのか!?」
相変わらずとんでもない爆弾を投下するやつである。しかしそれは俺にとってあまりにでかすぎる起爆剤で。
「当たり前じゃないか。現役時代に何回も会ってるさ」
「ちがっ、違う!この数年でだ!」
声を荒げて、叫んでしまった。ピジョットがわかりやすいぐらいにびくりと身を竦ませた。
「うん」
「いつ!どこで!」
「さっき。外で会った」
何でもないかのようにあっさりと白状する。俺が焦れば焦るほど楽しげに笑うのは何故だ。
「でもね、会わせてあげないよ」
「…は?」
いつの間にかこいつは目の前に来ていて、柔らかく俺を抱きしめた。背中に回る腕の細さが気になった。
「君のお父さん、まだまだ君を一人前とは認めてないって言ってたよ。だからね、まだ会うわけにはいかないんだって」
「そんなの…!」
「…お願いだから…。わかって、くれよ…」
もう一度、お願いと弱々しく言う。
察してあげてよ。君にまだ会うわけにはいかないんだ。
「あい、つのエゴに…まだ付き合えって、言うのかよ…」
「…ごめんね」
なんでお前が、謝るんだよ。
「俺、また、独りじゃないかよぉ…」
ぼろぼろと勝手に涙があふれた。わぁわぁとガキのようにみっともなく泣いた。
その間もこいつの腕は離れなくて、眼と同じ色のきれいな紫色のマフラーが俺の涙で濡れるのを嫌がりもせず、むしろ強くかき抱かれた。
「ごめんね、ごめんねハヤトくん…」
「お前、なんで、泣い、てんだよ…意味、わかんない…」
「僕にも意味わかんないよ…」
ぐずぐずと鼻を啜りながら問うと、彼はきれいな目を細めて微笑んだ。
すっごく綺麗な笑顔で、涙はいつの間にか引っ込んでいた。
「それからねぇ、君独りって言っただろ?」
「なんだよ、悪いかよ」
「僕が居るじゃないか」
なんて笑顔で言うから、心臓が止まるかと思った。
青い空と同じくらい綺麗な、いやそれ以上に綺麗な笑顔だった。






マツバさんって泣き顔も綺麗だろうな…


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