.





俺、臨也さんが嫌い。
まぁ、なんてーの?生理的に体がもう受け付けないっつーか。見てたく無いんだよね。
そこまで考えて、正臣は外をぼんやりと眺める。正臣の大嫌いな家主は只今情報を売りに行っていて不在。優秀な秘書は弟を監視するため有給とって休み。
つかの間のおやすみ。
「逃げ出してぇ」
高層マンションから眺める下の風景は、あまりにも現実味がなくて某大佐があんな名言を残すのも頷ける。
「人間がゴミのよーだ」
ガラス張りの窓に向かって手を広げる。それから重心を後ろにすれば、体は自然と倒れて黒いイスに納まる。
あぁ、もふもふ。
「こんちくしょー、臨也さん。俺逃げてやるからな…」
意志だけを表示するが実行には移さない。むしろ、臨也さんの下で働くうちに、実行には移せない人間になってしまったのも事実。折原臨也は人を中毒にさせてダメにする傾向があるらしい。
「…どやったら、臨也さん驚くかな…」
意味なんかないんだけど、最後は驚かせたいなー、なんて。俺ってわがまま。
くるくる世界と一緒に回りながら考える。30回転したところで正臣はイスの回転を止めた。そう、閃いたのだった。
「俺ってば、てんさーい!」
両手を突き上げイスの上に足を乗せる。回転スピードが上がるにつれて、吐き気もひどくなる。
「うえ…酔った…」
ぐりんぐりんと視界の定まらない目をぱちぱちと叩く。実行しなきゃいけねんだから。
持ったものはケータイだけ。無造作にズボンの尻ポケットに入れる。でる前に時計を確認する。
現在16:45。
臨也さんが帰ってくるまで、きっと10分。大丈夫、平気だ。
「さよーならー」
合い鍵を使い戸締まりを確認してから軽やかに階段を駆け下りる。
確かな希望を抱きながら。

ピロリ、ピロリン♪
「はいはーい、あ正臣くん」
臨也はせまい路地を抜ける。もうすぐで大通りというときに電話が鳴った。表示された名前は部下の名前で、にやにや笑いながら通話ボタンを押した。
『…はぁ、臨也、さん…俺、はぁ』
「はぁはぁ言ってて聞こえないなぁ。ムリヤリヤられたの?」
『バカじゃ、な…いすか』
正臣が向こうで息を整えたらしい。耳障りな呼吸は聞こえなくなった。
「じゃあ何なの。時間がもったいな」
『俺!!』
びりびり、と臨也の鼓膜を破るかのように正臣が吠える。何かを決意したとき、人は強くなるものである。
臨也はケータイを元の位置に戻す。
「…正臣くん?」
『俺、臨也さんから逃げてみせますから』
「は?え、なぁに?鬼ごっこの提案?」
『いや、ガチな内容です』
臨也はケータイ越しの音声に耳を澄ます。
車のエンジン音。人々の話し声。何かの機械音。呼び込みの声。駅のアナウンス。
踏切の音。
「ま、て!待ちなよ正臣くん!!」
『長い間お世話になりました。沙樹のこと頼みます』
そうして無情にも連絡は途絶えた。
臨也は焦る。自分の駒が勝手にいなくなる?
ふざけるなよ。
「おふざけもほどほどにしなよ…」
そして臨也は走り出したのであった。




臨也さんに見せつけて死ななきゃいけないから
目の前で死ぬんだろうけど
あいつのことだからきっと音もなく近寄って抱き抱えちゃうと思うんだ
何だかんだで二人とも好き合ってるから


- 25 -


[*前] | [次#]
ページ:




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -