何個飲もうが結局は同じこと


※軽くファンタジー
※正臣の口調が迷子




祖父ちゃんがこの度あの世に旅立った。『死』というものを初めて目にしたけど、祖父ちゃんはそんなに辛そうじゃなかった。どっちかっつーと母さんの方が辛そうだったけど。
医者が安らかに逝った、というんだからこれはきっと老衰だろうと憶測をつける。いい死に方だったな。
そして俺は祖父ちゃんが旅立ったその次の日、祖父ちゃんの家の前に立つ。主の居なくなった家は静まり返って、不気味。おかしいな、この前までは楽しげな雰囲気だったのに。
がら、とガラス張りの引き戸を開けると中は蒸し暑かった。換気をしないせいで空気が淀んでる。大誤算。失敗失敗。制服の袖を口に当てて埃を吸わないようにしなければ。
「うっわ…暗!」
昼間で僅かに光は入るが、外は植物が這うような家だ。入る光は点のようにしか見えない。よって意味ない。
懐中電灯持ってきといてよかった。
「がち、っとな」
照らされた床は思ったよりかは綺麗で、学校の上履きを履いて移動することにした。俺どんだけ用意がいいんだ。
「とりあえずー…。どこ探ろう…」
そもそも何しに来たんだっけ? うわぉ、目的が不明瞭。
「あー…、そうだ、祖父ちゃんがなんか言ってたからか」
その何かを覚えてないけど。やばいな。
不意になんだが二階にあるような気がした。なんていうか、呼ばれたみたいな。
足を階段の方向にチェンジさせて歩き出す。
「まっくろっくろすっけでっておーいでっー」
…アホらし。
一人で赤面しながら祖父ちゃんの書斎の前に立っていた。無駄に立派な扉が、懐中電灯の丸い輪の中に映し出された。
「よーい、っ……!!!!っしょお゛!」
扉が重厚過ぎて開かない。俺の力で開かなかったら祖父ちゃんも入れないんじゃ…?
押して駄目なら。
「引いて…みぬおわあ!?」
ビンゴ。
ズダン、と転がって書斎に入った。痛い。鼻打った。誰も見てなくて良かった。
「っつー…。 すっげぇ…本ばっか…」
さすが本の虫。部屋には天井まで届く本棚に、所狭しと蔵書の数々。右を見ても左を見ても本の背表紙に見つめ返されるだけ。キチンと名前ごとに並べられているのか捜しやすそうだ。
ところで何を捜すんだか。
「おー?聖書がある…。すげっ、高そう」
聖書というばダ・ヴィンチの謎的なミステリーの題材にもなってたような。ま、気のせいか。
黒い革張りの背表紙に、金糸で『聖書』と刻まれていて、如何にも高級です、な感じ。
その他にもボロボロになっている伝記や、専門書、無駄にでかい医学書とかジャンルは様々。
一番下の列は、数は少ないが児童書まであった。
「なっつかしー。俺これ読んだじゃん」
小さな本を見つけて頬が緩んだ。祖父ちゃん、とっておいてくれたんだ。
「…ん?」
何かがおかしいだろ。そう、この部屋にあるまじき感じで。『何か』が。
「並び順、ちがくね…?」
この本はイ、で始まるのに、その右隣はア。別段おかしくもなさそうだけど、この本の左隣もア。つまりこの本はそこに差し込まれただけってことになる。
「なーにがあーるんだ、ろー?」
この本を元の場所に戻した。その隣にはいかにもな怪しい菫色の本。微妙に分厚い。
背表紙に指先を乗せて後ろに引く準備は出来た。
「いっきまーす」
ぎ、と摩擦で軋んだので、そっと引き取るように慎重に取り出し表紙を眺めた。
「何にも、ない…のか?」
表紙には何も書いていない。後ろにも背表紙にも。
「読んで、もいいかな…」
どきどき。
そっと開いたページは白紙。次を捲ると白紙。次もその次も。白紙。
「……………何もねぇのかよ!!」
ぱん、と後ろの当たりを叩いた。その拍子に何枚か紙が捲れる。
「え…?」
風も無いのに自然と紙が進む。
ばらばらと勢いよく捲れて、半分ほどいったところでぴたりと止まる。さっきまで何もなかったページ。
「なに…これ…」
和紙の札に筆で書かれた歪な文字。ぺったりとこのページに貼られている。そっと手をかける。
「剥がれる…か?」
触れた瞬間。ぴし、と音を立てて札が剥がれ落ちた。力は入れていない。むしろ、札が自ら落ちたくらいに感じる。
「うぇえ!?」
びしびし、ばちばち。
祖父ちゃんの書斎に異形の音が満ちる。本から眩い閃光が走り、ぱちばちと火花が散る。
『…俺ヲ…喚ンダカ…?…餓鬼ィ…!!』
そんな音がしたと同時に一段と強い光が周辺を包んで思わず目を瞑る。
だんだん収まる光にぱちぱちと数回瞬きをする。ゆっくりと消えた光は筋を残して散った。
そのかわりに。
「なっ…!?」
「よぉ、お前俺を喚んだのか」
「はぁ!?」
正臣の目の前には袴姿の狐耳の男。というか狐耳しているあたりで神経を疑いたいが、そんなことよりも浮いている、というところに激しくツッコみたかった。
「な、おま、浮いて…は?」
「なんだぁ?聞いてねぇのか?俺は先代に閉じこめられた、元ここの守神だ」
「封印、てこと…?なんで…?」
「そんなんしらねーな」
狐耳はさらっととんでもない事実を事も無げに告げる。
え、なに守神?封印されたってことはなんか悪いことでもしたのかこいつ。
「おい餓鬼」
「…餓鬼じゃない。正臣」
「知らないヤツに名前教えていいのかよ」
「、まぁ知り合いにそんな感じの怪しい人がいますから」
「へぇ…?俺ぁシズヲ。これからよろしくな」
「ちょっとまてよ」
「ちなみに元の姿は狐だ。そこんとこもよろしく」
狐耳もといシズヲはにやにやと笑う。本当に神様なのかと疑いたくなるが、仕方ない。いや、つーか問題はそこじゃない。
「これから…ってシズヲどうすんの」
「そりゃあお前に憑くしかないだろうが」
シズヲは興味なさそうに欠伸まじりで言う。マジですか。まじありえない。意味わからねぇ。
「ま、俺を喚んじまった自分を恨むんだな」
見透かしたような顔でシズヲは言った。ばれてらっしゃるのか。
こうして推定350歳あたりの狐神のシズヲと奇妙な生活が幕をあけたのだった。



ただ単に狐耳静ちゃんが書きたかった←


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