覚めない夢が信じたもの








「正臣君は、何が好きかな」
「…なんも好きじゃありません」
「何か一つはあるだろう?」
「強いて言うなら…」
そこまで言って正臣は戸惑った。焦ったといってもいい。何故なら。
好きなものが見つからないから。
確かに存在していたものが、自分のなかから抜け落ちていた。そして自分は気付かなかった。そんな事実に驚愕し、現実を嫌悪した。
「強いて言うなら?」
「……じ、ゆう…ですか」
臨也の人を馬鹿にしたような笑みに苛つき、心にもないことを吐き捨てる。実際、心にも無いことだったが、望んでいたものではあるが。
「自由、ねぇ」
「なに笑ってるんすか」
「さぁ?なぜだろう」
しきりに臨也がくつくつと笑う。
「正臣君が望む自由ってなにかな?」
「は、?」
あまりに抽象的な問いかけ。どう答えたらいいのやら、正臣は口ごもる。
自由なんか、どこにもありはしない。
「…誰にも、縛られない…で…」
「そう。それは無難な答えだ」
「っ…」
臨也の視線は正臣を突き刺す。じりじりと、正臣の体を焦燥で焦がしていく。
「じゃあ、臨也さんは、自由…要らないんですか」
息を吐き出すように正臣は怒鳴った。
臨也は相変わらず意地の悪い笑みを浮かべるが、ほんの一瞬だけ表情を無くした。
「…要らないよ?」
臨也は笑う。
正臣は惑う。
「自由なんて、そんな偶像は存在しない。あるのは束縛という現実だけさ」
「そんなの…!ぅ…あ…」
「諦めなよ。自由なんてないんだから」
臨也は優しく正臣の肩に手をやる。二、三度正臣は肩を震わした。泣くものかと強く思った。
「イタリアにはね、こんなことわざがあるんだよ」



牛は綱で、人は言葉で繋いでおくもの



世界のことわざシリーズ第一段(笑)
自由なんてもんは学生のうちにはありませんよ、もちろん大人になっても
夏休みという輝かしき学生の特権すら宿題という悪魔にとりつ(略)



- 22 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -