溺れるサカナ


※ぬるいエロス





キスの最中に酸素を吸う、ということが出来ないから目の前にいて俺から息をからめ取ろうとしている男の胸板を強めに叩く。
やがて目の前の黒い男はニッ、といやみったらしく笑ったあと俺の唇から離れた。
ああキモチワルイ。
「どう?」
と聞いてくるから「何が?」とそっけなく返した。
「ひどいなぁ。俺とのキスの感想だよ。気持ちよかった?」
にやにやしながら聞いてくるから思わず「反吐が出る」といってそっぽを向く。素直じゃないのは愛嬌だ。
「臨也さん・・・」
「ん?」
やさしく微笑む男はゆるりと俺の頬をなでる。それだけで思わず俺の体温はあがる。自分でもしつけられすぎじゃないかと思う時がある。
でも仕方ない、と自分に中途半端な言い訳をして事実から目をそむけた。
―――臨也さんの見ているのは俺じゃない。
それは事実。
それが真実。
それだけが現実だ。
後のすべては幻想。俺が抱く妄想でもある。
「臨也さん・・・好き、です」
「おや珍しい。正臣君から誘ってくるなんて」
臨也さんがおどけて俺にキスをする。また息が苦しくなるのに。
やめられないのだ。好きだから、じゃなくて、
離したくないから。俺自身が。
「ンっ・・・ふ・・・」
鼻にかかるような甘ったるい声が俺をもっと高ぶらせる。
もっと、もっと、もっと。
ねだるように舌をからませればびっくりしたような臨也さんの目とかちあった。
ざまぁみろ。
その優越感は瞬く間に臨也さんの手の中で転がされる。
ねっとりと口の中を舐めまわされ、それでも足りなくて、どうしようもなく泣きたくなった。
満たされたのに満たされない。
だって肝心のものがないんだったら仕方がないだろ。
口を離して、その赤い目を覗く。
見えたのは泣きっ面しただせぇ俺の姿で、他には何も写してなかった。
「大好きだよ、正臣君」
あぁ、その一言で戻れなくなった。


わかってたのに。あんたが好きなのは、あのひとだってことも。


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