アネモネの香りとあの子の視線


※静正
※個人的趣味が炸裂した結果
※捏造に捏造を重ねた結果
※俺の萌を追求した結果
※→酷くなった。
※大正時代パロ
※前半会話が少ねぇ



初恋は俺が7つか8つ位のころだった。
無駄にでけぇ屋敷の近くに俺の家はあって、その屋敷主に媚びを売って生きているようなもんだった。
その屋敷の持ち主は『折原』とか言って最近出来た『電気』とかを使って一代で富を築いた、とてもすごい人なんだと父や母がまるで自分事みたいに言っては俺や弟に話したのだった。
でも俺にはそれがどれほどすごいかまだわからなくて、わかったように首を縦にふってたのを覚えてる。
そうしてそんな自慢話をなんとか頭の片隅で理解できるような歳になって父が俺を連れて折原の城へ連れて行ってくれることになったとき、とても嫌な感じしかしなかった。
だから父が折原の主人と話しているとき勝手に屋敷内を探求しようと部屋を抜け出して何個もある屋敷の扉を開いて中を探した。何を探すのか、何を求めてるのかわからなかったがとりあえず自分の勘を信じて進むことにしたのだ。
ぎいぎいと軋む我が家の建て付けの悪い扉とは違い綺麗な橿の木で造られた厚みのある美しい扉は軋むことなく俺を見知らぬ世界に招く。
ふと、目の前の綺麗な絵画が目に留まる。
不思議な絵だ。
綺麗なはずなのに哀しみすら覚える、美しい人。
長い髪は俺と同じ黄色なのにこの人は透き通った黄色で狐の毛よりも滑らかそうな金の糸みたいだった。
深く深く塗られた目の色はどことなく見ている者にも同じ表情をさせようとしているみたいに沈んだ茶色で、じーっとこっちを見ているのだ。
何が悲しいのかわからない。
白い白い肌にはふっくらというよりかはほっそりとした線でこういう人を美人というのかと納得するほど綺麗だった。
ぎいぃ…と後ろで扉が開いた。
はっと振り返れば背の高い黒髪の見知らぬ若い男が立っている。そしてへこへこと頭を下げる俺の父も。
「君、何やってるんだい」
命令口調でつっけんどんな喋り方なのに声は凛としていて、笑ったらさぞ好青年なんだろうなと思うけど目の前の男は笑ってない。
折原の主人は60を過ぎてると聞いていて多分こいつが折原の主人の息子の『イザヤ』なんだろうか。
「もう一度聞こうか。何やってるの」
折原の目がすぅっと細められて声がもう尖っているように聞こえる。
「す、すいませんね、折原サン。静雄、さっさと喋らないか。折原サンに失礼だろう」
「……迷って、ここに来た」
なかなか言葉足らずで折原の人に負けず劣らずつっけんどんな喋り方になってしまったと今更後悔する。
「あぁそうか、私達のお話はつまらなかったかな?」
不意に優しく微笑まれた目にぎくりとする。
あの目は、狡猾な蛇のようでとても嫌な感じしかしないのに。
「し、静雄、ちゃんと返事しなさい」
おどおどと父が声をかけるがそんなもの気にならないくらい優しく細められたらはずのあの目に捕まってしまった。
無理矢理反らしてもどこへ行くのかわからない視線ははたと絵画に止まってしまう。
「…その絵が気になる?」
「……………綺麗なのに、泣きたくなる、気がする…」
またまたつっけんどん。
「はは、たまにこの絵を見にくればいいよ。俺と同じ感想を持ったのは君と俺を含めて3人だ。嬉しいなぁ」
3人。
俺と、折原の人と、あと一人。
特別でもない言葉が特別に思えるのはこの人の言葉に厚みがあるからか、それとも、見たこともない人間が俺と同じ考え、という理由があるからか。
「…あと一人って誰だ…?」
「知りたい?」
こくん、と首を縦にふってみると目の前の折原の人は悲しそうにふっと目を細めた。何かを懐かしむように。
「どうかな…俺にはもう…『見えない』けど、君になら…ね…」
「…『見える』?」
「あぁ、いや、『正臣』って言うんだ、もう一人は、」
つ、と目線があった。この屋敷にきて初めて視線が合って、驚く。
赤い、目。
「君と同じ、金の髪の、子だよ。」
「…あんたは…キレイな、赤い目だな…」
「こ、こら静雄!あんたとは折原サンに失礼だろう!!」
「いえいえ構いませんよ、平和島さん」
すっと伸ばされた腕が軽やかに父を制して、屈みこみ俺に視線を合わせる。赤い目が俺と近くなる。
「その意見も、あの子と同じだよ、静ちゃん。それと俺のことは、イザヤと呼んでくれるかい?」
「…静ちゃん…?」
「あぁ、嫌だったか、この呼び方は」
「……別に、」
「し、静雄!!」
ぐいと手を引かれ頭を下げさせられる。
「折り重なる無礼をお許しください、折原サン」
「いいですよ、顔をあげてください。この子と意見が同じで、とても嬉しかったです」イザヤはそういってくしゃりと俺の髪をなでる。
細い指がとても気持ちよく感じた。

イザヤの屋敷に行ってから頻繁に俺は屋敷に通うようになった。
隣の家の新羅の家だって大きいのに、イザヤの屋敷で見た絵なんて無かったから、結果的に、自然とイザヤの屋敷に行くのだった。
イザヤの屋敷の庭師と仲良くなった。
調理番とも仲良くなったし、使用人とも仲良くなった。
それでも肝心の『正臣』だけは見つからなくて来る日も来る日もイザヤの屋敷に通う。
「門田、サン」
「ん、静雄じゃねぇか。どうした、正臣探しか?」
門田サンは庭師で、ずっとずっとこの屋敷で働いている。そういえばイザヤと同い年だったか。
「『正臣』って、何なんだろうなァ」
「それがわかったら苦労しない」
「いつか、わかんだ。まだ、『時間』じゃねぇよ」
門田サンは一回だけ正臣を見たことがある、らしい。
とても小さい頃だから全然覚えてないが、可愛いらしい。
「がんばれよ」
「がんばる」
チョキン、と軽やかにハサミがなった。
イザヤの屋敷はでかいし扉が無駄に多い。そして同じ形の扉。
まるで迷路だ。
それでも何回も来ていれば場所はわかる。
「ン?…花、の、匂い…?」
いつもと違う『何か』。
ぎぃ…、と開けた扉は昨日と同じで、寸分も変わらない。
「…?」
一歩を踏み入れる。が、何かが『違う』。
「何だ…?何が違う…?……っ!!」
「こんにちは」
気配を感じて振り返ると小さな、子供がそこにいた。
黄色い短い髪の毛に、茶色の、目。
絵の中にいた、あの人と同じ、色。
「『始めまして』かな?」
「…はじめ、まして…俺は、静雄…」
「えへへ…『正臣』って言うんだ、俺」
にこりと、笑ってくるりと回る。
花の匂いがまた広がった。
とたとたと俺の近くに走ってきてちょこんと手を握る。
頭一つほど小さい。
とても冷たい手。
「お前も、正臣もこの絵、泣きたくなるか…?」
「俺はね…『泣いちゃう』よ…静雄もそうでしょ?イザヤもそう言ったんだ」
「…俺とイザヤと正臣…だけ、だって…」
「『特別』なんだね」
正臣はにこにこ笑う。
花のように笑う。
顔が赤くなる。
どんどん熱を持つ。
正臣の手は冷たいのに持たれたところから熱が広がる。
「まさおみ」
「…ごめんね、静雄。」
イザヤと、同じように目を細める。
「行かなきゃ、いけないの」
待って。
待てよ。
口は動かない。
つかまれた手が解かれる。
行かないで。
手は動かない。
体が動かない。
「『ばいばい』」
にこっと悲しそうに笑って。
ふっと視界が白くなって。
…後には何にも残らなかった。

「イザヤ」
「ん?どうしたの、静ちゃん」
「正臣は『何』?」
イザヤの部屋はこの無駄にでかい屋敷に似合うムダにデカい書斎だった。
部屋の中は綺麗に整頓されて本棚に入った本は背表紙に金や銀の糸で綴られた外国語の本だらけだ。
「正臣君は…」
「人じゃ、ないんだろ?あいつ…」
「……思い出、なんだよ…きっと…」
「思い出?」
イザヤは大きい椅子から立ち上がる。
「この家はね…俺の父さんが買ったんだ、いや…『奪い取った』、かな?」
奪い取った。
あまり穏やかな単語ではない。
「前の持ち主は…母親と、子供の二人暮らしでね…あぁ、父親は戦争で居なくなったらしくて…子供の方は、俺の父さんが土地を奪い取った数日後亡くなった…」
「…そいつが、正臣…?」
イザヤは伏せた目をゆっくり開ける。
俺の後ろに誰か居るのが見えるみたいに、ずっと後ろを見つめる。
「ほんとは恨んでもいいのに…俺が静ちゃんくらいの頃は毎日俺と遊んでくれたよ…」
「イザヤは、正臣が好きだった?」
びくり、とイザヤの肩が揺れた。
「18になった頃、いつまでも死んだ時と同じ背格好の彼を見えなくなればいいのに、と思ったことがあるんだ」
「…だからイザヤには『見えない』のか?」
「…うん、そうだろうね…」
イザヤは悲しそうに笑った。
正臣が見えなくなったときと、同じ顔。
「俺…」
正臣が『好き』だ。
──…ありがとう。静雄。
「…正臣、」
「……聞こえたかい、正臣君の…」




はい秋田。
めんどくさい
アネモネの花言葉
はかない恋
絵画の人は正臣のお母さん。
チビイザヤは一瞬だけ正臣母に恋をしたから正臣が見えなくなった、みたいな

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