花火を見に行きませんか、そう雪ちゃんに言われたとき最初は何がなんだかわからなかった。雪ちゃんが仕事以外のことで私を誘うなんて初めてだったから。

おそらくあの時の私はものすごく挙動不審だったに違いない。どうやって返事をしたかもあまり記憶にはないが雪ちゃんが良かった、と笑ってくれたことと、明日の7時に校門前で会いましょうと言っていたことははっきりと覚えている。

家を出る前は着慣れた浴衣に変じゃないかな、大丈夫かな、とお母さんに何度も聞いてしまった。まだ7時には早かったけれど雪ちゃんは絶対に待ってるに違いないと足早に待ち合わせ場所に向かうと案の定雪ちゃんはすでにそこにいて、私に気がつくとにっこりと笑った。花火大会ともあって今日は人が多い。

こっちです、と自然と手をひかれ歩いていくのは人の流れとはまったく逆方向で内心不思議だったけれど控え目に握られた手が嬉しくて私は雪ちゃんの半歩後ろをついて行った。







「ここです」

「わぁっ…」


雪ちゃんが連れてきてくれたのは河原だった。それもたくさんのホタルが飛び交うとても綺麗な河原。近くにこんなところがあるなんて知らなかった。


「ありがとう雪ちゃん、すごく綺麗…」

「しえみさんは人混みは苦手だと思って」

それにほら、と雪ちゃんはどこからか花火セットを取り出した。


「2人だけの花火大会をしましょう」


少し照れながら言う雪ちゃんに私は大きく頷いた。





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