ある日のこと、書類を届けに席を外していたイヅルが、箱を抱えて戻ってきた。 「ただいま戻りました」 「ご苦労さん。‥何やもろたんか?」 「はい、五番隊に伺った際に雛森くんから和菓子を。ここの和菓子屋は包み紙も綺麗ですよね」 そう言いながらイヅルは破らぬように器用に箱と包み紙を分離させていく。 「そんなもんとっといてどないすんの?」 「隊長は気づいていないかもしれませんが、意外と色々な所で役に立っているのですよ」 「ふーん‥」 ボクが気づいてない‥? 意外な所‥? ‥‥はっ‥もしや‥! 少しばかり記憶を巡らせてみるとある心当たりが浮かんだ。 それは今年の2月の中旬の事であった。 「はい、隊長。いつもありがとうございます」 「ん、おおきに」 差し出された箱の中身はイヅルが毎年くれるチョコレートだ。 「いっつも思うんやけど、これ高いんちゃうん?」 「そんなことありませんよ」 そうは言っても包みを見る限り安物ではないことは明らかだ。 ‥と、今の今まで思っていたのだが。 「あの‥イヅルちゃん?」 「なんですか隊長」 「もしかしてバレンタインの包み「隊長」 「‥‥なんや」 「聞かなくて良いこともあると思いませんか?」 あまりに綺麗に笑って言うものだからボクはそれ以上何も聞けなかった。 (イヅルがだんだん主婦化していく‥) (何か問題でも?隊長) [*前] | [次#] |