「市丸さん‥!」


「ごめんなぁ、イヅルがいつ来るかわからんし、ちょっと近くのカフェで飲み物と食べ物を‥」


「そんなことはどうでも良いです!」






こちらは聞きたいことが山ほどあるのだ、とイヅルは市丸を少し潤んだ目で見上げた。






「手紙といい、繋がらない携帯といい‥一体何を考えてるんですか‥。僕がどれだけ、不安だったか‥」






自分で言いながら涙が溢れそうになりとっさに下を向いてコートの袖で拭った。






「‥でも、逢えたときいつもより嬉しかったやろ?」


「え‥」


「ボクは嬉しかったで。手紙だってイヅルが見とるかわからんし、来るか来んかわからんままむずがゆーい気持ちでまっとったんやもん」





でもイヅルはちゃあんと来てくれた。だから嬉しい、と市丸は言った。







「‥今の時代贅沢やわ!メールや電話ですぐに相手と繋がれるやろ?たまにはこうやって昭和の恋愛みたいな甘酸っぱいことがしてみたかってん」


「‥‥‥はぁ‥!?」






なんでこの人はそんな粋なり乙女思考になるのだろうとイヅルは盛大に溜め息をついた。
でもまぁ






「‥‥お手紙ありがとうございます。僕も、逢えて嬉しかったです」


「うん」






市丸さんの姿を見たとき、どうしようもないくらいに幸せな気分になったから、いいや。



「(そんなこと絶対言ってあげないけど)」






気まぐれレトロ





(まずは文通から初めてみいひん?)

(‥それはイヤです)








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