「ブルーファイア何食べたい?」
「お前が食べたいものにしろ」
「もう、そういうのが一番困るの!」
スーパーの食品売り場。会話の内容は明らかに同棲中の男女のそれである。微笑ましく思って振り返った他の買い物客は、男の方…ブルーファイアの顔を見ると、サッと表情を変えた。
ぎゅっとシワのよった眉間と、射殺すような目付き。いや、あれはどうみても彼女と買い物中の男の顔じゃない。
実際は、りんこと二人のこの状況に、幸せを噛み締めているだけなのだが。
「あっ、ねえ、アイス買って良い?」
「好きにしろ」
「やった、どれにしよっかなぁ」
アイス1つにうんうん唸るりんこが可愛らしくて、ブルーファイアは目を細める。しかし、彼がそうすると、より目付きが悪くなる一方だ。
ああ! イライラしてる! 早く! 早く決めないと! 周りがはらはらと落ち着かない。
「じゃあやっぱ帰りながらパピコ! 半分こしよ!」
パッと弾けるような笑顔のりんこ。
その時、ブルーファイアの表情を直視してしまった男性がひっと息を飲んだ。
その日はお互いに早く家に帰れたので、夕食は一緒に、ということだった。外食も考えたが、りんこから「家で二人でが良い」だなんて言われてしまえば、ブルーファイアには断る理由がない。
台所に立つ彼女を見ていると、幸せってこういうことなのかと思い知らされる。
りんこの方もふんふんと鼻唄を歌ってご機嫌だ。
テレビのリポーターが『本日は11月22日で良い夫婦の日です』と、町中で夫婦に次々と声をかけている。
今も同棲まがいの生活をしてはいるが、いつか、本当の家族になれたら、とブルーファイアは思う。
告白もまだだが、二人の未来を夢見たりする。りんことの厭らしい妄想すら自重しているのだから、これぐらい許してほしい。
もし、結婚することができたなら。ずっと仲の良い夫婦でいたい。ブルーファイアが苦悩してやっと繋ぐ手を、自然に、何歳になっても重ねていたい。お互いがしわくちゃになっても、手を繋いで眠りたい。
「………りんこ」
「ん? なにー?」
「…なんでもない」
そのための最初の一歩を、いつか踏み出せたら。きっとその幸せを逃がしはしないのに。今はまだ、この朗らかな幸せに浸るので精一杯だ。