▼小石を見つけるブルーファイアともしもし主

 なにか落としたらしい。
 膝までついて石をひとつぶひとつぶどかしてあれでもないこれでもないと、りんこは途方に暮れた様子で探している。
 ならば見過ごしておけるだろうか。いやそんなはずがない。

「手伝うぞ」
「ブルーファイア……」

 腕まくりをしながら問う。

「なにを探しているんだ?」

 逡巡する間をおいて、鼻の頭にかすれた泥をひっつけた横顔は少しだけうつむきながら、

「小石」

 小石。
 こいし。
 石……?

「い、いいよ一人で探すから!」

 あわてた様子でブルーファイアから離れようとするりんこを

「りんこ」

 一声で呼び止めて、

「……」
「……」

 見つめるだけで観念させて隣に座らせた。

「必要なのか?」
「……、必要と言えば必要なんだけど、必要というか、欲しい?」
「わかった」
「ごめんね」
「好きでやってるだけだ。こういうのか?」
「あ、丸くて白くてかわいい」
「それともこういう?」
「うわあ黒曜石みたい。ヤジリっぽい」
「……違うのか」
「これはこれで」
「目的のはどういう色形なんだ?」
「むらさき」

 遠慮がちなリクエストに、

「これなんかは」

 すぐさま、

「えっ!? うそ、なんですぐ見つかるの!?」
「これでいいのか」
「うんっ、うん、ありがとう!!」
「これをどうするんだ」

 ブルーファイアに問われて、りんこははたと喜ぶのを止めて、

「……りんこ?」
「どうするんだろう」

 ずっこけた。





 元々はキャンディーが入っていた空き瓶に白と黒と紫の石を入れて、とても上機嫌にりんこはやかんを火にかけている。

「お守りということで」
「……ほう」

 今日はもらいものだけどクッキーがあるんだよーなどと戸棚をがさがさするりんこを横目に、ブルーファイアは机の上に一冊置いてある絵本に目を落としている。

 知っている絵本だ。

 ねずみのアレクサンダとぜんまい仕掛けおもちゃのねずみが友達になる話だ。
 捨てられたおもちゃのぜんまいねずみが、満月の夜にアレクサンダがむらさきのこいしを見つけ出したことで本物のねずみになる。
 二匹はいつまでも、きっと仲良く暮らす。

 子どもの頃に読んだ。

 むらさきのこいしは見つけた。ただの真昼間に。りんこは、

「いつもの紅茶と、ドライフルーツが色々入ったお茶があるんだけどどっちがいい?」
「ドライフルーツ?」
「甘酸っぱいよ。あとすごくきれいな赤」
「じゃあそっちで」

 わかっているはずだ。俺に頼まずに自分一人で地面にはいつくばってむらさきのこいしを探していたことに如実に現れている。小石風情で自分の体が変わると思ってはいないのだ。

 それでも欲しかったんだよな。

「りんこ」
「はい」
「とりあえず満月まで待て」
「え?」

 紫の小石が効果を発揮するのは満月の夜だ。そう魔法のとかげも言っていただろう。

 そのことをすっかり忘れているのかブルーファイアが絵本の内容を知っていると思わなかったのか、クッキー缶を持ったりんこはきょとんと立ち尽くす。

「りんこ」
「はい?」
「ポットは俺が運ぶ」
「はーい」
「カップもだ」
「……はい」

 両手をふさぎでもしないと、無責任に抱きしめたくなってしまう。



元ネタ「アレクサンダとぜんまいねずみ 著レオレオニ」

一撃

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