これだけ寒ければ窓くらい曇る。
それにしたって二十にもなって白いガラスに落書きはないだろう、と思わないでもない。りんこが楽しそうだし水をさしたりしないけれど。
「一人だって聞いたが……大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。ほら、イベントで出てくる怪人ってやっぱり災害レベル虎がいいとこじゃない。うちの部署、妻子持ちと恋人持ちしかいないし深夜なんか一人番の方が気楽で良いから」
「そうか……」
クリスマスイブや当日に一緒に過ごしたいと思っていたってヒーロー業は年中無休で、それにともなってヒーロー協会だって年中無休なわけで。
せいぜい売れ残りのチキンとケーキを夜勤明けの朝食につまんでおしまいの26日を思って、そのしょっぱさにちょっと落ち込む。仲が良すぎる友人の座から抜ける機会を一向に回してくれないりんこに、若干の不満を抱かないでもない。
「それにヒーローさんだって当日活動予定出してくれてる人多いからね。市民のみなさんに楽しくクリスマスやってもらえるようにヒーローサポートだってがんばらないと」
そんな誇らしげなされてしまうとなにも言えない。
電子レンジが鳴る。
「ハチミツは?」
「一匙」
ホットミルクを取りにりんこが台所へ向かう。
窓の落書きを見つめていたブルーファイアは、ふと指を持ち上げた。
一瞬迷う表情。りんこを横目で伺って、ハチミツがとけきらずに困っているのを好機と見て、指を走らせた。
傘。
名前を書こうとして、
りんこのほうはどうにか書いて、
「……っ」
そこで限界がきた。
手のひらでぐいぐい乱雑にぬぐうと透明に戻った窓ガラスに憤怒っぽく見えるがその実超照れちゃってるだけのブルーファイアの顔がうつって、その向こう。
「りんこ、雪だ!」
「え!? うわ!」
降り始めた雪の大粒が見える。
「ホワイトクリスマスになるかなー」
「なるだろうな」
「後で雪見だいふく買いに行こうかな」
「一緒にいく」
クリスマスもクリスマスイブも共には過ごせはしない。それがどうした。
だいたいいつも一緒にいる二人に、そんな問題些末だった。
一撃