りんこの鼻歌が聞こえる。ゆっくりしたテンポでたぶん少し調子外れで、上機嫌なのがすごくよくわかる。
「なんの歌だ?」
「古いCM。見たことない?」
今度は歌詞をつけてワンフレーズ。
「……覚えがないな」
「ええー。すっごくよくかかってたよ。十年くらい前だけど」
テレビは見ない方じゃなかったと思うのだけれど。
「良い歌だな」
りんこは「でしょう?」と笑って、また最初から鼻歌を歌う。
▽ んでんでんで
「あ、その曲知ってる」
「サイタマさんも見たことあります?」
「なーぬぬぬんぬ〜ぬななななーってやつだろ」
「そうそうぱっぱぱぱぱぱ〜ぱららららーって」
「ああ、懐かしいなその曲」
「無免さんも知ってます?」
「うん。ふんふふふふーふふふふふーって奴だ」
「どうしたのブルーファイア?」
「(三人とも音程が違う……どれが正解なんだ)」
「なんのCMだっけな、これって」
「どっかの和菓子屋じゃなかったか? 地方局のだから、Z市でしか流れてなかったんだ」
「ん? りんこってZ市出身だっけ?」
「……」
「……」
「どうしたんだ? 2人とも変な顔をして」
▽んで
もうずいぶん忘れていた気がする、再会したころにはなじみ深かったきまずい沈黙。
なにがあったのか聞きたいブルーファイアと話す気のないりんこの、互いを牽制するような沈黙。
誘拐されていた頃Z市にいたことがあったのか。
「りんこ」
「……うん」
うつむけた顔が、まるでしかられる覚悟の子供のような距離を置いてついてくるものだから、
「あれは、いい歌だと思う」
「うん、」
いつだって折れるのはブルーファイアだ。
一撃