最後の一口を飲み干したりんこが、実に満足げな笑顔で箸を置いて手のひらを合わせた。
「ごちそうさま! おいしかった」
「辛くなかったか?」
「今日くらいのなら大丈夫。あ、お皿は私が洗うから」
もうさっそく皿を下げようとしていたブルーファイアはただでさえガン開きの目を更にかっぴろげて、
「ばか、冬だぞ。手が荒れる」
「ブルーファイアの手はもう荒れてるじゃない」
「俺は良い」
「良くないよね!? ……ちょっと待っててね」
待ってと言われていたのに重ねた皿をとっとと流しに運んでしまうブルーファイアに、りんこはちょいちょいと手招きをした。ちゃぶ台を挟んで向かい合って座ると、通勤鞄からチューブを取り出す。
「ハンドクリーム。お手を拝借!」
くるくる回しあけたチューブのふたを適当にころんと置いた。あとでないないと騒がなければいいけれど。
りんこは自分の手のひらにむにゅっとクリームを押し出す。両手を合わせてじっくり待って、しばらく暖めてからブルーファイアの手を取った。
まずは右の手の甲に載せる。骨や血管がすぐ下にある、固い皮膚をにりんこの手のひらがかぶさった。柔らかい両手のひらがブルーファイアの手を包んで、くるくるクリームを刷り込んだ。
ブルーファイアは困ったような気持ちになる。
末端の敏感な神経には、りんこの指先は心地よすぎた。
「これは結構べたつくんだな」
愚にもつかない呟き。
「それが効くのよ」
「そういうものか」
手の甲と手のひらに刷り込み終えて、親指を取られる。なにかのメンテナンスのように丁寧な手つき。ほとんどマッサージだ。
「ささくれてるよ」
「後で切ろう。ちくちくしないか?」
「ちょっとね。…よしっ、おしまい」
「ありがとう」どきどきした。立ち上がる。「じゃあさっそく皿」
「ふっふーん。今水にさわるとハンドクリームが落ちちゃうよ!」
「!(しまった…!)」
「いいからいいから。お茶入れるから、飲みながらゆっくりしてて」
「……割らないようにな」
食器の鳴る音。小さなちゃぶ台にマグカップを載せて、りんこが皿を洗う音を聞きながらブルーファイアはしげしげ自分の手を見る。筋張っていて荒れて赤らんでいて、でも今はしっとり、というかべたべたしている。ささくれに効きそうな気配だ。
りんこの手は白くて、自分よりも小さかった。
「お前は、手のひらは温かいのに、指先は冷たいな」
「うん。ブルーファイアの手は全体的にあったかいね」
「そうか?」
「あったかい」
「そうか」
一撃