当時私は数あるクローンの中でも比較的街によく出る方だった。彼女との出会いはいつでなにがきっかけだったか、正直よく覚えていない。
一目見た瞬間に欲しいと思った。
彼女とそういう関係に至るまでにはさほどの時間はかからず、私は秘密裏にもう一体のクローンを作り出し代わりに置くことで進化の家から失踪した。
進化の家が壊滅したなど、今に至るまで全く知らなかったのだ。
「……」
「……」
同じ顔をした二人の男が無言で視線を合わせて、その中間で彼女は困惑していた。
「ジーナスさんってば……双子だったなら先に言っておいてよ、もう! 初めまして。ジーナスさんとおつき合いしている者です」
背中を冷たい汗が伝った。
オリジナルはメガネを中指でくっと持ち上げてから、あろうことか、
「……ジーナスの兄の、ジーニアスだ」
笑った。
あのジーナス博士が。およそ社会人然とした、まっとうな笑顔で。
壊滅した進化の家は、ろうことかたこやきの家になっていた。
イートインスペースでアーマードゴリラに茶まで振る舞われて、彼女はオリジナルに振る舞われたてんこもりに盛られた過剰サービスのたこ焼きを食べる。
会話は、聞こえてはいまい。
「元気にしていたようだな」
「……オリジナル、私は」
「よせ。君が何号なのかも興味はないし、もう君には君の人生があるんだろう」
驚かざるをえない。
「……自分と同じ顔が間抜け面をしているのは、なかなか不快だな」
その言葉とは裏腹にオリジナルの顔にはほがらかささえあった。
この博士になにがあったというのか。
「いい女性だ。すてきな女性だ。大事にするといい」
オリジナルは私にもたこ焼きを差し出した。
サービスのない普通の量だった。
「お前は金を払えよ」
やはりオリジナルでもクローンでも好みは似るらしい。
おまけ こんなこともあるかもよ!(ちょっぴり胸くそ注意)
「待たせたね、たこ焼きはおいしかったか?」
「とっても! あれ、ジーニアスさんどこへ?」
「ああ、少し用があって出かけたらしい」
「なんだ残念……また今度挨拶しに来ようね」
「もちろん」
とはいえもう二度とたこ焼きを焼くジーナスはあらわれないのだけれど。
たこ焼きの家の中ではジーナスが、ジーナスのクローンが死んでいる。
一撃