▼ジーナスとジーナス

 当時私は数あるクローンの中でも比較的街によく出る方だった。彼女との出会いはいつでなにがきっかけだったか、正直よく覚えていない。
 一目見た瞬間に欲しいと思った。
 彼女とそういう関係に至るまでにはさほどの時間はかからず、私は秘密裏にもう一体のクローンを作り出し代わりに置くことで進化の家から失踪した。
 進化の家が壊滅したなど、今に至るまで全く知らなかったのだ。

「……」
「……」

 同じ顔をした二人の男が無言で視線を合わせて、その中間で彼女は困惑していた。

「ジーナスさんってば……双子だったなら先に言っておいてよ、もう! 初めまして。ジーナスさんとおつき合いしている者です」

 背中を冷たい汗が伝った。
 オリジナルはメガネを中指でくっと持ち上げてから、あろうことか、

「……ジーナスの兄の、ジーニアスだ」

 笑った。
 あのジーナス博士が。およそ社会人然とした、まっとうな笑顔で。
 壊滅した進化の家は、ろうことかたこやきの家になっていた。




 イートインスペースでアーマードゴリラに茶まで振る舞われて、彼女はオリジナルに振る舞われたてんこもりに盛られた過剰サービスのたこ焼きを食べる。
 会話は、聞こえてはいまい。

「元気にしていたようだな」
「……オリジナル、私は」
「よせ。君が何号なのかも興味はないし、もう君には君の人生があるんだろう」

 驚かざるをえない。

「……自分と同じ顔が間抜け面をしているのは、なかなか不快だな」

 その言葉とは裏腹にオリジナルの顔にはほがらかささえあった。
 この博士になにがあったというのか。

「いい女性だ。すてきな女性だ。大事にするといい」

 オリジナルは私にもたこ焼きを差し出した。
 サービスのない普通の量だった。

「お前は金を払えよ」

 やはりオリジナルでもクローンでも好みは似るらしい。





おまけ こんなこともあるかもよ!(ちょっぴり胸くそ注意)


「待たせたね、たこ焼きはおいしかったか?」
「とっても! あれ、ジーニアスさんどこへ?」
「ああ、少し用があって出かけたらしい」
「なんだ残念……また今度挨拶しに来ようね」
「もちろん」

 とはいえもう二度とたこ焼きを焼くジーナスはあらわれないのだけれど。

 たこ焼きの家の中ではジーナスが、ジーナスのクローンが死んでいる。

一撃

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