▼ボツネタソニックともしもし主


リンコとソニック そして二人は飯友へ

※もしもし〜のボツ設定で書いてます
※夢主はシババワ予言の災厄の魔女()
※その実態は変身時がち全裸になっちゃう公然猥褻罪で指名手配中のまほうしょうじょ()
※ソニックと夢主との面識はない




「ヒーロー協会オペレーターのリンコだな」


 呼び止められたリンコが立ち止まった。
 きょろきょろ視線をさまよわせて、右の腕にひっかけたレジ袋が音を立てて揺れる。住宅街の一本道には誰もいない。
 電柱の裏、コンクリート塀の向こう、あるいはどっかり生えた銀杏の梢。
 どこに誰が隠れているわけでもなさそうだった。
 確かにそうだ。


「”災厄の魔女”だろう」


 銃刀法範囲内のナイフを心臓までねじ込める短距離、その気になればたやすく抱きしめられてしまうパーソナルスペース侵害上等な位置からの声。
 遮蔽物は服しかない、真後ろ。
 しわまみれでくたびれたスーツの背中からは動揺の気配は見られない。落ち着き払った速度で振り返った女が目を合わせた。


「誰」
「音速のソニック」
「ソニック……」


 舌で転がすようにい反復して、リンコの唇は一文字に引き締まった。
 夜に紛れてなお黒いソニックのほくそ笑み。


「戦え」


 黒装束の防護金属板が月と電灯を瞬きを返し、下まぶたを小指一本分空けて縁取る意味ありげな入れ墨、極めつきは背中にひっさげた忍刀。


「俺と戦え」


 どこからどう見てもカタギじゃない男が、どこからどう見ても一山いくらの会社員にしか見えない女に向けて、見るも恐ろしい直ぐ刃がぬらりと突きつける。


「どうした。臆して声も出ないか」
「あの、」
「なんだ」
「どちらさまでしょうか……」


 わお――ーー……ん。

 どこかの家で、犬が遠吠えひとつ。

 予想外の出来事にぶち当たると脳味噌は固まる。
 たっぷり三拍言葉を失った。


「音速のソニックだぞ!? 有名だろう!!」


 取り戻した言語領にはべったりとした焦りがこびりついていて、声音がどうしようもなく荒れた。
 どこ吹く風のリンコはソニックの顔をしげしげのぞき込み、


「なんか」指の二本で自分ののどをタップして、「この辺までは来てるんだけど。あとちょっと足りなくて……」
「何を出そうとしているんだ!! 音速のソニックって言っただろう! 音速の! ソニック!! S級指名手配の名ぐらい覚えているだろう貴様!!」
「あ、」


 ようやく思い到ってくれたらしい。思わずつきかけた安堵のため息をソニックはあわてて飲み下す。


「ああそっちかあ」
「どっちだ……?」
「それでソニック? さん? 何かご用でしたっけ」


 この女……!
 邂逅直後に言った。言ったはずだ。
 リンコだな、と。
 魔女だな、と。
 俺と戦え、と。
 このご時世に生きていられるのが不思議なレベルで無警戒なリンコにいらだつ。殺されないとでも思っているのだろうか。
 甘ったれるな。


「お前を殺す」


 ようやく表情が変わった。月に銀の輝きを返す忍刀の、百は下らない人間の怪物の怪人の血を啜ってなお曇らない刀身を前に状況を理解したか。
 遅すぎる。
 こんなおもしろくない女殺す意味があるのだろうか。


「ん? あれその武器」いかにもすきだらけ口調。「じゃあ違うな、キン肉ウーマンさんじゃないですねあなた」
「……待て。さっきのそっちかってまさかと思うがそれなのか?」
「ソニックさんのヒーローネームってなんです? おかしいなあ、私全員覚えているつもりだったんだけれども。あ、新人さんですか?」


 ぶちっ。


「変身しない気なら」


 もういい。
 さっさと終わらせてやる。


「死ね」


 瞬間集中する意識の中、一般人には関知さえできない速度の世界でソニックの視界に一秒にも満たない時間。
 肌色。

 すっげー頭悪いコスプレのような格好のリンコが


「あ、おはよう」


 目を覚ます。雨染みのついた覚えのない天井。
 意識がぶっ飛んでいたことに気づく。最後にみたのは眼前でへらへらした笑顔を浮かべる女のぜ……全裸と、変身後の姿か。

 頭を動かすと視界を覆っていたタオルがずれる。簀巻きにされていた保冷剤がこぼれてつむじに滑った。ソファに横たえられている。丈が足らずに膝から下は肘掛けを乗りこえぶらりと垂れて、ちょっとつま先がしびれていた。


「お前の家か」
「そう。駅まで徒歩十五分家賃六万八千円でユニットバスにIHのコンロつき」
「聞いとらん」
「でもここペット不可なのにお隣さんウサギ飼ってるのよ」
「人の話を聞け」
「……」
「なぜ急に黙った」
「なにか聞いて欲しい話があるんじゃ」
「あるかっ!」


 ぶん投げた保冷剤が予想をはるかに上回るあっけなさでリンコの顔面にぶち当たった。ぎゃっと悲鳴を上げてコケてあまつさえしりもちまでついて、


「話聞けって言われたのに……」


 調子が狂う。


「まあ時間が時間なので夕飯どうぞ」


 じゃねえ。
 ソファの前にいかにもリサイクルショップ上がりの小さくて足の固い折りたたみちゃぶ台を立てているリンコはスーツから部屋着らしいこれまたぼろいTシャツに着替えていた。どう考えてもいつでも殺せそうな穴あきシャツの背中を、ソニックは黙りこくって見つめている。ここまで隙だらけだとあほらさに毒気を抜かれて立ち去る機会すら逃す。


「いただきます」


 両手を合わせて夕食に挨拶をしてから箸を取ったリンコの向かい、なんとなく正座してしまったソニックは、見たこともない食べ物を見たような目つき。
 マジックのかすれた跡やカッターの縦線がいっぱいに入ったしょっぼいテーブルの上の、今夜のご飯を紹介しよう。

 お茶碗にふっくら盛られた白いご飯。
 鮮やかな紅色が目にも美しい梅干し。
 ごろり、生卵。殻つき。
 以上。


「飯を炊く、は料理に入らないだろう」


 つややかな白が上げる湯気から目も上げない。


「ああこれはチン。レトルト」
「米さえ!!」


 猛然と立ち上がったソニックは抹殺対象であるリンコがもっさり口に白米詰め込んだ真横を通りすぎワンルームのお部屋の壁にどっかり鎮座した、一人暮らしにはでかすぎる冷蔵庫を勝手に、とても乱暴に開ける。
 そうだろうと思った。
 ムナゲヤのレジ袋には大根やら発泡スチロールパックやら牛乳やらが入っていたのを、ソニックだって見ていたのだ。
 冷蔵庫の中、三日四日は持ちそうな量の食料がそれはもう腹がさらに立つほどきちんと詰め込まれている。


「こんなに食材ため込んで! 食事くらいきちんと作れ!!」
「お米二膳くらい食べればおなかいっぱいになるよ」
「栄養かたよってるぞデブ!」
「ひどい」
「いいか!」


 許可も得ずにステンレスの包丁をひっつかんだ。


「手料理というのは」


 IHコンロに小鍋を置いて


「こう!」


 大根は向こうが透ける薄さでかつら剥きにジャガイモは薄い短冊さらに電子レンジにたたき込みタマネギは縦の繊維と平行に包丁を


「こう!」


 沸いた鍋に手づかみでこぼれるたっぷりの鰹節を、


「こう!!」


 半額シールの貼られた柵の刺身を、


「こうだ!!」
「わあ」


 ……いったい何をやっているんだ俺は。
 菜箸を振るう度に小鉢におかずが盛り上げられ包丁を舞わせる度に材料が食事へと姿を変える。ソニックの脇からリンコがのぞき込んで、お母さんの料理にまとわりつく子供じみた顔で、「すごい」だの「いい匂い」だの「早い」だのと。
 拍手までしやがる。
 味噌を漉しながら「ふんっ」と不機嫌装って漏らす鼻鳴らしは、本人が思うほど本心を隠せていない。実に照れくさそうな響き。





そしてソニックの料理を「すげーうめーすげーー!」って誉めまくって調子にのったソニック「こ、これからはちょくちょくお家にお邪魔してご飯作ってあげないこともないんだからね!」「やったー」っていう二人になる予定だった。

一撃

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