呼ぶ声を確かに聞いたと思う。
りんこ、と。
気の緩まった手から載せていた茶碗が零れ落ちた。声を上げるよりも台所の床に叩きつけられる方が早い。
「あっ!」
音を立てて真っ二つ、破片が白と青の粉になる。
もう一度、りんこと今度は強く呼ばれた気がする。
声の主の顔が、いくつもの表情がりんこの脳裏を駆け抜けていった。
「……ブルー、ファイア」
棚の中、おそろい柄の赤だけが静かに鎮座している。横はなにも残っていない。
あるのは、りんこの茶碗だけ。
胸に渦巻く予感は、いい予感ではなかった。
このままでは夕飯の仕度もできない。しゃがみこんで、手を伸ばして破片を拾い集める。
「つっ!」気をつけていたのに。
反射でひっこめた指先に盛り上がった血は、表面張力を瞬く間に崩して床へこぼれた。
青く、ばらばらになった茶碗の上。
青と白と、赤のコントラスト。
ブルーファイア、
「まさか…ね」
まさかだ。
ブルーファイアが困惑している。目の前で巻き起こった茶番にどう声をかけていいのかわからない。
全部見てた。
最初から同じ部屋にいた。
なにやってんだこいつ。
「……そろそろ絆創膏巻いていいか?」
声をかけるとりんこは素直に顔を上げてうなずいた。
普通の顔だった。
今まで、「愛用食器が割れたけどあの人になにか…?」ごっこをやっていたとは思えないごくごく普通の顔だった。
「ごめん、また割りました」
「早く傷を洗え!」
「はい」
一撃