▼プロデューサーと嫁


※ デレマスプロデューサーをこじらせた結果がこれだよ!



 もはや新婚とも呼べない年数を夫婦として過ごした。
 夫に話しかけられて、ふと、

「敬語抜けないんですね」
「……君だって、今でも敬語じゃありませんか」
「私はあなたより年も立場も下ですから」


 結婚して私もこの人も移動になって接点が減ったものの、346プロの先輩後輩であることに変わりはなく、かつ、年も少しだけれど離れている。夫婦だというのに敬語が抜けないのは私もこの人も同じとはいえ、敬語を続けているのがおかしいのはこの人の方だろう。
 が、


「……」


 ほんの少しだけむっとされた。


「どうかしましたか?」


 大きな犬のように穏やかな人なので、むっとさせてしまったことにたじろいでしまう。何か、言ってはいけないことを言ってしまっただろうか。

 かなりの不意打ちだった。


「!」


 まるでうっかりぶつかっただけのように一瞬だけ、照れくささが全面に押し出されたキスをされた。


「立場が下、ということはないでしょう……夫婦なんですから」
「はい」


 自分からキスをしたのだから、照れてそっぽを向くことないと思う。
 かわいい人。








「Pの奥さんってフツーの人だね」
「……彼女には、アイドルとしての資質はたしかに、ありません」
「かわいい子いっぱい見てるのにどうしてあの人を選んだんですか?」
「……」
「わー」
「真っ赤だ!」








「ご飯できましたよー」
「はい。いただきます」
「……」
「おいしいです」
「相変わらず敬語ですねー」
「……すみません」
「謝ることないです。結婚したのに敬語なところも、お箸の使い方がとってもきれいなところも、毎回おいしいって言ってくれるところも、全部好きですよ」
「……!」
「あ、うそ」
「!?」
「愛してます」
「……」
「おかわりは?」
「……お願いします」





 君、と、あなた、で互いを呼ぶ二人だって、たまには名前を呼びたくなる。



 いつも通りの帰り道、急に名を呼ばれた。

 数年前に同じ名字になったのだし、婚前のように名字で呼ばれることはないだろう。しかし下の名で呼ばれたことなどつきあっている最中にもついぞ無かった。新鮮さにいたく驚いた。
 とはいえ、常日頃からさして変化を見せない鉄面皮になにがどう動揺が現れるということもないのだけれど。


「はい」


 返事をしながら見下ろせば、いたずらが見事目論見通り成功をおさめた子どものような顔で見上げ返された。ふぬけ切った満面の笑みとともに。

 また呼ぶ。


「はい」


 飽かず呼ぶ。


「はい」


 しつこく呼ぶ。


「……」


 弱った。
 連呼に目的がないことに察しがついてしまった。首裏をさわりながらどうしたものかと思案する。
 別に何回呼ばれたところでかまわない。
 けれども少し気恥ずかしい。

 黙した所をあまりいい風には捉えなかったらしい。


「ごめんなさい、つい呼びたくなってしまって」


 困ったような苦笑いで謝られてしまった。


「早く帰りましょう。あなた、ブリとサワラならどっちが食べたいですか?」


 君、とあなた、で呼び合う間柄であっても、たまには名前で呼びたくなる。
 名前で呼んだ。


「はい?」


 なるほど。もう一度呼ぶ。


「はい」


 これは、楽しい。
 また呼ぶ。
 いい加減に意図に気づいたらしい彼女が仕返しするような笑顔になった。
 呼び返される。


「……」


 一拍怯んだ。怯む間にまた名前を呼ばれた。
 呼び返す。
 呼ばれる。
 呼び返す。
 手を絡めて無意味に名前を呼び合って、ただそれだけなのにいつもの帰り道が楽しい。




(武内Pってのがかなり通った通称になってますけどあくまで公式には名無しのプロデューサーですから!)(ネームレス!)

デ/レ/マ/ス

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