インターフォンを鳴らしてしばらく待った。りんこからの返事はないが、中からどんがらがっしゃんと大戦争の音がする。
たぶんボウルやら泡立て器やらが落ちる音だ。
大分経ってから、
「どうぞー」
許可が下りた。
「じゃまする」
ドアを開いた瞬間、充満していたチョコレートのにおいが鼻をつく。……焦がしたな? 湯煎せずに火にかけただろう……。
指摘することもできないのがもどかしい。
台所から顔を出したりんこが、自信満々に「全部隠した」顔をしていたからだ。
よほど長い時間チョコレート臭を嗅いでいたから嗅覚が麻痺しているのか、そもそもアホだから気づいてないから。あるいはその両方か。
「おかえり! ……あ、ごはんできてない」
「かまわない」
「外行く?」
「……そうだな」
いつもなら自分が作ると申し出るところだが幸い冷蔵庫に賞味期限の迫った食材はなかったはずだ。
うっかり試作中のチョコレートを見つけてしまってはもったいない。
いそいそとコートを羽織るりんこのほっぺた、味見したんだろうチョコレートを指の腹で拭ってやる。
だからそんな顔で笑うなったら。
こっちまで嬉しくなるだろう。
まあイベント当日は例のごとく会えないけどな!
一撃