▼もしもしでカレーの日Aブルーファイア

 ただいま、ではもちろんない。自分の家の鍵を開けるよりも先にインターフォンを押していようが実滞在時間が自宅よりも長かろうがうっかり歯ブラシやスリッパが揃いで置いてあろうが合い鍵を持っていようが。
 あくまでそれはりんこの家だ。ブルーファイアはその隣。
 決して同棲はしていない。
 という、まあ、建前であるから。

「じゃまする」
「おかえり! お疲れさま! ご飯できてるよ」

 なのにいともたやすくりんこはおかえりと言うので参る。
 ああほらまた、そんなに満面で笑うから。

「……」

 ほれみろ、ブルーファイアがにやけてしまったじゃないか。家の外だったらまた通報間違いなしの、とてつもなく不審なにやつき顔だ。
 部屋中に市販のルーのスパイス臭が充満している。今回は焦がさずすんだらしい。

「りんこのカレーか。楽しみだ」
「今日カレーの日なんだよ」
「なんだそれは」

 さあ、という顔で首を傾げた。知らないのか。
 靴を脱ごうとかがんだブルーファイアの先に立って鞄を受け取るりんこに、顔を伏せながらまたにやける。……本当ににやけているのかこの表情。鏡を置いたら割れそうな、とんでもない憤怒の顔に見える。耳までデコまで赤いし。

「1月22日……いーにーに? いーふたふた? ふただからカレー? ふたならお鍋だよね」

 カレーの語呂合わせを必死にこじつけようとするりんこのエプロンを巻いた背中、ブルーファイアの手荷物を持って、鍋を温めようと台所へ向かう。カレーの香り。
 どごっ! と。
 嫌な音がした。びっくりして目を丸くしたりんこが振り向く。
 ブルーファイアが壁に頭を打ち込んでいた。

「!? えええなになになに!?」
「な! んでも、ないっ!」

 1月22日。
 語呂合わせをこじつければ、いー夫婦の日、とか、そんなことを思ってしまった。
 11月22日のいい夫婦の日一回では我慢できないのか。
 できるなら苦労しないか。
 同棲さえしてないくせにな。






「……」
「……」

 りんこの頭からキノコが生えている。もちろん比喩だけれど。しゃもじを片手に三角の膝に頭埋めてすんげえ落ち込んでいる。
 カレーのライスを炊き忘れればそうなる。
 研いでセットはしておいたのに。吸水させている内に忘れた。よくある。
 一緒になって動揺することなどできないブルーファイアは、ただ黙って突っ立ってお玉を片手にりんこのキノコを見ている。どうやって慰めたものか考える内に、ただただ時間は過ぎる。

一撃

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