私の大好きな人を紹介します(ミスミソウ様へ3000HITフリリク)


今日は何て事の無い、極普通の平日の朝。何時も通り早起きをし、顔を洗い服を着替え髪を整えたアイリスは、これまた何時も通りに自分の手持ちのポケモンとシャガのポケモンにご飯を与え、その後シャガと一緒にご飯を食べシャガと一緒に片づけをし仕事に行くシャガを送り出そうとした時、ふと思いついた事があった。
何故このタイミングかは誰にも解らないしアイリスにも解らない。唯思いついてしまったのだ、思いついたら行動せずにはいられない、それはアイリスだからではなくアイリスが子供だからだ。

子供は本能の塊だ

大人とは正反対のもので出来ているソレを大人が理解するのは大変な作業だ、だかそれでも子供は大人の過去の姿だ、理解出来ないと言うのは唯の逃げだ。そう考えているシャガでも流石に今日のは理解が追いつかなかった。

「アイリス、仕事に行ってくるぞ」
「うん、アイリスもおでかけしてくるよ!」
「ほう、そうか。今日は家庭教師も、ジムも休みだからな。気をつけて言って来るんだぞ?」
「うん!だいじょうぶ、アイリスあぶないところにはいかないよ?」
「そうか…で、何処に行く予定なんだい?」
んとね、んとね、と諸手を上げて飛び上がりながら喜んで今日の予定を伝えてくるアイリスに、シャガは微笑ましい感情で胸をホコホコにさせながら返事を待ち

次の言葉に凍りついた。

「アイリスのすきなひとのおはなしを、みんなにしてくるのーーー!」
そう言い放った次の瞬間にはアイリスの姿は消えていた。子供は弾丸だ、鉄砲玉なのだ。言葉の足りない説明でも、説明できたと言う達成感で満足して次へ突進してしまう。思考が単純なのだ、それを解っていた筈のシャガもあまりの唐突さに驚愕し意識が飛んでしまったがそれでも直ぐ様次の質問をアイリスにする程には衰えてはいなかったが…後の祭り。アイリスはもう飛び出してしまった後だった。
「アイリス、誰だそれは!アイリス何処のどいつの話だ!!戻っておいで、おじいちゃんに説明しておくれ!アイリスーーーーー!!!」
ソウリュウシティジムリーダー兼市長、シャガ。見た目と発言より随分と血の繋がらない孫を愛している男であった…

*

まずどこからにしょうかな〜、アイリスはお供のオノノクスを連れながら道を行く。取り敢えず思いつくところの思いつく人達には言って回りたい気分なのだ、あんなに優しくて格好よくてハンサムで頭も良くて、素敵なお兄ちゃんを皆に自慢したくてしょうがないのだ。

ああ、たのしみ!おにいちゃんのはなしをだれかにできるなんて!
アイリスの足下は実に軽やかで、地面から浮いてしまいそうだった、こんな好きは初めてだとアイリスは考えていた。

おじいちゃんをすきとはちがう、キバゴやオノノクスをすきともちがう…でもわるいものじゃないのは、なんとなくわかる。きっとこれはとってもいいものだ、だからみんなにつたえてあげなきゃ!このふわふわのほかほかの気持ちを皆に別けてあげなきゃ!と幼い使命感に燃える内に、アイリスはセッカシティに辿り着いていた。
ここはハチクがジムリーダーをしている町だ、ジムの前で踊っている人達の輪に混じって一頻り踊って歌っている間にハチクがジムから出てきて大きなくしゃみをした。またあの格好でジムにいたんだろう、アイリスは寒いのが苦手なのでハチクが何故我慢してまであの服装で氷漬けのジムの中に頑張っているのかが全く理解できなかった。

「ハチクのおじさん、おはようございます!」
「む…お早うアイリス。元気で良いな」
「うん、アイリスげんき!おじさんまたさむいの?」
うわっても、うでもつめたいよ!と言いながらハチクの剥き出しの右腕を捕まえ自分のポケモンや茂みから出てきたポケモンと一緒に息をかけたり擦ったりしていた。その幼い優しさに、無表情が板についてしまったハチクの顔は知らず知らずに綻び、柔く笑みを浮かべていた。
「…今日は、シャガさんは一緒ではないのか?」
「うん、そーだあのねハチクのおじさん、アイリスねすきなひとがいるの!」
「っ…そうか、それは良かったな。でもアイリス、シャガさんの前ではあまり言わない方が良い」
「えー、なんでー?」
「うむ、まとめづらいが………シャガさんは、アイリスの好きな人を気にするからだ」
「きにするって?」
「…その人がアイリスに変な事をしないか、アイリスが危ない目に遭わないか沢山心配するからだ」
「おにいちゃんはそんなことしないよ?だってあいりすがおじいちゃんがまいごになってさがしてるとき、いっしょにさがしてくれたんだもん」
「そうか、一緒に捜してくれたのか」
多分迷子のアイリスを保護したんだろう、今時の若者?もしくはアイリスよりも幾ばくか年上の子供かもしれないが、それにしては良い心掛けの持ち主のようだ
「アイリスがね、がいとーのうえでキバゴと一緒におじいちゃんさがしてたときに、はじめてあったの」
そりゃ降ろすわ、慌てて降ろす。この子は相変わらず野生的だな…
「それでも親切なおと…はっくしょい!はっくしゅっきしっきし!」
おじちゃん、かぜひいちゃったの?!と慌てるアイリスとくしゃみを連発しまくるハチクの前に元気で弾けそうな声が響いた。
「おりょー、珍しい組み合わせだ〜」
「フウロおねえちゃん!」
フウロ、と呼ばれた彼女はフキヨセシティのジムリーダーであり、イッシュでは珍しい飛行機乗りと言う職業を歳若ながらに持つ闊達な女性だ。ぴろん、と伝票を差し出しながら
「ハチクさんお荷物お届けにきましたよ〜、」
と明るい声でサインを求める。仕事は確実に、それがフキヨセエアラインの信条だ。
「ああすまない、今サインを…ぃいっきし!」
「ありゃりゃ、こりゃ後でもう一回風邪薬でも届けなきゃ」
「おじさんおだいじにね?っていうんだよね?」
「…よく出来たねアイリス、偉いぞ」
「アイリスちゃん良く覚えてたね!そうだよって、何話してたんですか?」
「……アイリスに好きな人がいるらしい」
「えー、ほんと本当?すっごい聞きたい!でもあたし仕事だった〜、これからチャンピオンリーグ行かなきゃ行けないんだった〜」
「アイリスもきいてほしかったけどおねえちゃんおしごとなんだね…ざんねんだな〜」
「…そうだ!アイリスちゃんが良かったらあたしの飛行機に一緒に乗っていかない?」
「ひこーきのっていいの!?アイリスひこーきはじめて!」
「うん、乗って乗って!人を乗せるの久し振りだから私も楽しみ!」
「嗚呼頼む…アイリスの事も頼んだぞフウロ君……い〜〜っきしぃぃいん!」
「おじちゃんまたこんどあそびにくるねー!」
「ハチクさんお大事に〜〜」
ハチクのくしゃみが響くセッカシティ、今日もいい日和だ。そして空高くから眺め降ろしたフキヨセシティは向日葵が咲き誇ってとても鮮やかだった。

*

「アデクおじーちゃん!」
「アイリス、よう来たの!」
アイリスの突然の来訪にも驚かず、嬉しそうに飛びついてくる彼女を抱き止めたチャンピオン、アデクは一頻りアイリスをハグした後
「今日は遊びに来たのかの?今お茶の時間だからの、一緒に飲んでいくか?フウロ君もどうかね」
と、アイリスを抱えたまま器用に受領書にサインを書きながら、午前中のティータイムにフウロを誘う。カトレアが四天王入りしてから、イッシュリーグは何故かティータイムを二回も取るようになってしまった。まぁ、暇だからいいけれどとメンバー全員があまり気にしていない所為もあるが…
勿論、おじゃまします!荷物運んでおきますからね!
とお誘いを断らず遠慮もしない、気取りの無さがジムリーダーとチャンピオンリーグの面々との繋がりを垣間見せる中、アイリスが爆弾発言をかました。

「おちゃのむ〜、あのねおじーちゃん!アイリスすきなひとがいてね、それをみんなにおしえたくてねフウロおねえちゃんにひこーきのせてもらったの!!ひこーきたのしかった!」
「…ほう、アイリス。何処のどいつかな?おじいちゃんに教えてくれんかの?今からおじいちゃん、そいつに挨拶をしに…」
「師匠止めて下さい、みっともないですよ」
アイリスを下ろしながら指の関節を鳴らし始め肩を鳴らし始めと、ウォーミングアップをし始めるアデクを弟子であり部下であるレンブが呆れ半分で諌める。自分の孫にも甘いのに、他人の孫にも甘いとはどう言う事だこのじいさんは。赤の他人だったら屹度言ってしまったであろう言葉をレンブは一応飲み込んだ。一応師匠だし
「だってレンブ!アイリスにか…彼氏が!何処の馬の骨ともしれぬ男が!」
「…師匠、アイリスだって女の子です。誰かを好きになる事もあるでしょ?」
「アイリスにはまだ早い!!寧ろ儂が許さん!」
「別に師匠の許可を得なくてはいけないと言う訳では…」
「アイリスを貰っていくというのなら、儂を倒してからにしてもらう!」
「だからまだそんな仲ではないでしょうと……」
何を言ってもだってだってと言う事を聞かないアデクを持て余すレンブに、助け舟が差し出される。

「おやおやアデクさん、アイリスだって立派なレディだ。恋の一つもするもんだろ?それにまだ彼氏と決まった訳じゃなしに」
「ギーマお主、レンブの肩を持つのか!」
「だってレンブは大切な仲間だし同僚だし、友人ですから。ね?レンブ」
「師匠の居ない間支え合った信頼のある友人だからな」
「お主等何故その友人を強調しあっておるのだ!」
「そりゃ強調します!師匠がぶらぶらしてる間の掛け替えの無い”友人!”ですから!」
「私も便乗して強調しましょうか?友情と親愛を捧げるに値する”友人”ですよ私達は!」
「お主等一体何を儂に隠しておるんじゃ!」
アデクの関心がアイリスの好きな人から弟子と古株の部下の妙な関係にシフトした頃、ティータイム基い女子会はアイリスの好きな人の話で大輪の花が咲いていた。

「―でね、おにいちゃんそのあとアイリスをうちまでおくってくれたの。おしごとあるのに、アイリスがさきだっていってくれて」
「なかなか の紳士の…ようね、その とのがた、は。ごうかくにしてさしあげても、よろしくてよ?」
「おにいちゃんごーかくなんだ!やっぱりおにいちゃんすごい!」
「本当、なかなかいないですよそんな人!ね。フウロさん」
「うーん、聞いてるだけでドキドキしてきちゃうな私〜」
「私も胸がうずうずしてきます〜」
「あなたは手が、うずうず しているんじゃ なくて?シキミ?」
う、何で解ったんですかカトレアちゃん!…あなたの手、デスカーンの様にうごめいて ましてよ?と寸劇を挟みながらもマイペースなカトレアはマイペースに話題を振っていく。
「アイリス、レディはね とのがたにちゃんと エスコートされるような しぐさも必要ですのよ?」
「エスコートってどうするの?」
「ドアを開けて いただいたら会釈しながらお礼を言う …椅子からたちあがる時はさしだされたてに、優雅に手を乗せて殿方に 引き上げてもらう…」
「キャー!えほんのおひめさまみたい!!はずかしいよぉ〜」
「カトレアさんしか出来ないですってそんなの!」
「流石カトレアちゃんお嬢様!」
キャーキャーと、黄色い声を上げてはしゃいでいれば時間はあっと言う間に過ぎ、フウロはそろそろ次の場所行かなきゃ、と席を立った。
「アイリスちゃんどうする?私ホドモエシティ迄いくけれど、乗っていく?」
「うん、アイリスもいく〜、」
ぴょん、と椅子から降りフウロの後を着いていきながらアイリスはチャンピオンリーグの面々に見送られた。

「また遊びに来てねアイリスちゃん、」
「こんどは…ポケモンバトルもしましょうね あたくし、楽しみにしていますわ…」
「アイリス、気をつけていくんだぞ」
「危ない場所へは行かないようにね、変な人には着いて行かない様に」
「うん、わかった〜おちゃごちそうさまでした!おじーちゃん、ばいば〜い」
「アイリス、おじいちゃんは、おじいちゃんはっ」

おじいちゃんは認めんぞー!絶叫するアデクを押さえるデカイマッチョと細長いイケメンの二人、手帳に向かってぶつぶつ言いながらストーリーを書き込み続ける眼鏡っ子とマイペースにお茶を飲み続けるお嬢様。そんな個性豊かな四天王がいるチャンピオンリーグへ奮って起こし下さいチャンレンジャー!

*

チャンピオンリーグから数十分、フウロの運転する貨物便は、何事も無くホドモエシティに到着した。
「はい到着〜、気をつけてねアイリスちゃん!」
「フウロおねーちゃんありがと〜」
冷凍コンテナを後にしたアイリスはどうやっても目立って仕方無いカミツレを発見した。帽子を被ってはいるもののどう足掻いても漏れ出るオーラが半端じゃないカミツレは颯爽と歩いていて、アイリスは空気も何も読まずカミツレを呼び止める。
「カミツレおねーちゃんだー!」
「あらアイリス、珍しいわね。こんな所に居るなんて」
カミツレも何の気なしにアイリスに返事をする。事務所に言われているから一応顔を隠しただけだ、どうせバレているのは解っている。いざとなればゼブライカに跨って逃げれば言いだけの話だし、と気楽に考えているカミツレにアイリスは先程と同じ事を話す。

「アイリスね、すきなひとがいてね!そのおはなしをみんなにしたくてね、きたの!」
「まぁ、可愛い惚気屋さんね、じゃあおっさんにも若い子の恋バナ聞かせてあげなきゃね」
おいで、と促される儘アイリスはカミツレに手を引かれヤーコンの事務所へと進んだ。ヤーコンの執務室へ辿り着き、ヤーコンの顔を見てアイリスは漸く、此処はホドモエジムだと言う事を理解した。まず、挨拶をとアイリスは元気いっぱいにヤーコンへ挨拶をした。
「ヤーコンさんこんにちわ!」
「おっさん、来て上げたわよ」
「誰も呼んでねー、…おう、アイリスか」
何時もの不機嫌顔ではあったが、アイリスの姿をみとめるとそれでもヤーコンの言葉尻は柔らかさを感じる声音になっていた。
「珍しいな、なんか用か?アイリス」
「うん、アイリスすきなひといてね、そのひとのおはなしをヤーコンさんにしたくてきたの!!」
「んなっ、色気づきやがって!」
あからさまに不機嫌な度合いを上げたヤーコンに、カミツレは茶々を入れ始める。
「おっさん、古臭いわよ。女の子は何時でも恋をしたいものよ」
「けっ火傷した後じゃなんだって遅ぇんだぞ、火傷しねーのにこした事ぁねーんだ」
「やけど?おにーちゃんはアイリスにやけどなんかさせないよ?だってとってもやさしいもん!」
「優しいだけなんで、世の中吐いて捨てる程いらぁ。アイリス、世の中オメーさんが考えてるよりも、悪い奴なんかごまんと居るんだぜ?オメーさんの好きって奴も、器が知れねーな」
「ちがうもん!おにいちゃんはとってもいいひとだよ!アイリスがまちがったことしたらちゃんとおしえてくれるし、しかってもくれるもん」
「そんなのフリじゃねーのか?俺様には信じられねーな」
「ヤーコンさんだっていいおじさんだよ、アイリス、ヤーコンさんがやさしいのしってるもん」
「はっ、俺様のどこが優しいってんだ!」
「ヤーコンさん、このまえアイリスがまいごしたときも、おしごといそがしいのにアイリスをうちまでつれてってくれたもん。あのあと、おしごとがいっぱいになってたってシャガおじいちゃんがいってたから」
「それはおい、大人の常識ってやつだよ…うん」
「カミツレおねーちゃん、ヤーコンさんはどうしてじぶんがやさしいってしんじてくれないの?」
なかなかに手強いヤーコンの相手はアイリスには難しかったようで、カミツレのコートの裾を引っ張りながら疑問を口にする。それを受けたカミツレは少し意地の悪い顔をしながらしゃがみ、アイリスとヤーコンを交互に見ながらアイリスの問いに答えた。
「おっさんはね、素直じゃないの」
すなおじゃない?カミツレの言葉を反芻したアイリスにカミツレは続ける。
「おっさん歳だから、アイリスみたいに正直に気持ちを伝えられないの。だからね、ワザと怒ったふりするのよ?照れ隠しなの」
はずかしがりやさんって事?とアイリスの自己解釈に頷きながらカミツレは一言、とびっきりの笑顔で零した。
「私はおっさんのそんなところもすごい大好き、」
その笑顔が言葉が何故だかとても恥ずかしく感じて、アイリスは頬を染めて目線を明後日の方向に逃がすと、帽子をつばを引っ張って顔を隠し始めたヤーコンが視界に入った。
「……っけ、ガキが吠えてんじゃねーよ、カミツレ」
その声は、少しだけ上擦っており何時もの不機嫌とは何かが違うと、アイリスは思った。それを察知したカミツレがアイリスに「アイリス、アレがツンデレって言うのよ、覚えておきなさい」
と囁けば、
「子供に妙な事吹き込むんじゃねえぞカミツレ!」
と弾ける様な言葉が返ってくる。
「ヤーコンさんつんでれってなぁに?」
「っガキが覚える事じゃない!これでも食って帰れ!!」
ポイっとヤーコンが投げてきた何かを受け止めると、それは老舗の銘菓、チョボマキマドレーヌだった。
「わー、チョボマキマドレーヌ!アイリスだいすき!!ヤーコンさんありがとう!」
「おっさん、気が利くじゃない」
「テメー等の為に買っておいたんじゃねーぞ!仕事の邪魔になる前に帰れ、今日は雨が降るかも知れねーからさっさと家に帰っちまえ!其処の傘使ってでも帰りやがれ!!」
「ホラ、ツンデレよ」
「つんでれー?」
「ツンデレツンデレうっせぇ!とっとと帰りやがれー!!」
「ツンデレおっさんが怒ったわ、退散よ。また来るわねおっさん」
「ヤーコンさんばいばーい」

ホドモエシティ、今日もヤーコンの怒声が響く通常運行。でも、何時もとの違いはカミツレが嬉しそうに、ニコニコしながら部屋を出て行った事とその扉の向こうで満更じゃない顔を帽子を深く被って誤魔化すヤーコンがいた事。

*

「アイリスこれからどうする?この後私は仕事があるからヒウンシティまでなら送るけれど……あら、珍しいのがいるわね」
勢いで橋を越え、ライモンシティに到着したアイリスとカミツレがマドレーヌを食べながらゲートに向かっていると、地下鉄ターミナル入り口へと向かっているサブウェイマスターの二人を見つけた。地下鉄で会う事はあっても、地上で出会う事は中々無い二人も此方に気付いたのか声をかけてきた。

「おや、これはこれはカミツレ様にアイリス様。お久しゅうございます」
「カミツレちゃんアイリスちゃん、こんにちわー」
「ノボリおにいちゃん、クダリおにいちゃん。こんにちわ〜」
「今日は如何なさいましたか?」
「んとね。アイリスがだいすきなおにいちゃんがいてね、そのひとのおはなしをみんなにしてまわってたの!」
「それはそれは…クダリ、椅子と机とお茶とお菓子を、何故セッティングし始めているのですか?何処から出したんですか、しかもここは道端でございますよ。皆様の迷惑になりますのでおしまいなさい」
通常運行でクダリの奇行(主に何処から出したか解らないテーブルと椅子とお茶菓子類一式の事)をさらっと流すノボリに、クダリはうきうきとした様子(見た目じゃ全くわからない)で噛み合わない返事をする
「ノボリ、恋バナだよ。恋バナ聞かなきゃ男じゃないよ」
「仕事中でございます、おやめなさいまし」
昼休憩中とは言え仕事中に変わりはない、と真面目なノボリはクダリの脱線を許さない。そもそも脱線等許せる筈が無い、脱線即ちダイヤの乱れは命取りだ。
「ノボリ、ノリ悪い」
「お諦めなさいまし、そろそろダブルトレインの方に動きがあるやもしれません。早く戻って二人で待機、でございます」
「う〜聞きたかったよ〜アイリスちゃん、また今度。是非聞かせてね?」
「うん、またくるね〜」
バイバ〜イ、と元気に手を振りカミツレに手を引かれていくアイリスをノボリはクダリを引き摺りながら、クダリは引き摺られながら見送った。ライモンシティ、今日も平和でございます。

*

カミツレと別れヒウンジムに入ったアイリスはジムの入口でだらだらしていたアーティをいきなり見つけた。床の上でぐでんぐでん、と芋虫みたいに転がっているアーティは凄くやる気がなさそうだった。

「アーティ、ぐあいわるいの?」
「ありゃ〜、アイリスだ〜うぬぬ、具合は悪くないよぉ〜退屈なだけ〜ん」
「おしごといいの?」
「いいのいいの、だって今日のジム暇なんだもん。アイリス暇?お話ししようよ〜」
「うん!あのね、アイリス、アーティにきいてほしいことあるの!」
「えー何々?どんな話〜?」
等と、二人が嬉々として会話しているのは蜂蜜ジムと渾名されているヒウンジムの蜂蜜の壁のドまん前だ、其処にクッションを一つ置いて、それにアイリスは座り、アーティは仰向けに寝そべってぐねぐねしている。それでいいのか?!、と言われても仕方ない。だがこれがアーティの通常運行なのでどうしようもない。ヒウンジムの洗礼は蜂蜜の壁から始まるが、最後のジムリーダーへの対応すらも試練の一環なのだ。

………

「いいな〜、アイリス好きな人がいるんだ〜」
アイリスの話を一通り聞いたアーティはによによと口許を緩めながらアイリスの恋心を羨ましがった。微笑ましい幼い愛情は、変人の心を緩ーく温ーく蕩かしていたようだ。
「いいことなの?ギーマもカミツレおねえちゃんもいいことだっていってたけど」
「そりゃいい事だよ〜、だって好きな人の事考えてるだけで、ボクはすっごい幸せだなぁ〜」
「うん、アイリスも!」
「好きな人の事考えると、胸がポカポカしてでも最後はキューっとなってさぁ〜、ちょっとせつない気分になるんだけれどねん?それでもボクはそう感じれるのが幸せだなぁ〜」
だって好きな人がいないと、その気持ちも感じれないんだもんねー?と首を傾げるアーティに同調してアイリスも首を傾げて反芻する。
「ねー?アーティはいますきなひといるの?」
「うぬむぅうう!鋭い!実はいるんだけどねん?好きな人はあんまり人に好き好き言われるの得意じゃないみたいでね、言うと怒るんだ〜、僕はいっぱい言いたいほうなんだけどさ〜恥ずかしいみたい」
「アイリスもいっぱいいいたいよー、でもはずかしいひともいるんだね」
「そだよ、やっぱり人ってそれぞれだからね〜、いくら大好きでも押し付けちゃ駄目駄目だよー」
こんな時に、アーティがやっぱり大人なんだとアイリスは感じ、自分の好きなお兄ちゃんも大人なんだよなーと自分との差を感じてしまうがその差を忘れてしまう程アイリスは好きな人の話をしアーティはうんうん頷きながらそれを聞きあっと言う間の時間が経ち―
「アロエさんにもおしえたいからアイリスそろそろいくね!」
と座っていたクッションからアイリスは勢いよく立ち上がった。それを見上げていたアーティも
「ボクも行くよ〜ぅ、ガレージにおいてある絵を持ってきたいからね〜ん」
と、漸く立ち上がってはい今日は閉店〜とジムの電気を勝手に落としてしまう。あんまりにも自由なアーティに「アーティさん、勝手に閉めないで下さいよ〜」とトレーナー達が苦笑いをしてそれでも、「後お願いね〜ん」「おじゃましましたー」と呑気で元気な挨拶をするアイリスとアーティを見送ってくれた。
ヒウンシティ、今日も皆それぞれの流れを受け容れ受け流す街であった…


*

走ったり歩いたり歌ったりを繰り返している内に、あっという間という感じでシッポウシティに辿り着いた二人はアロエに会う為にジムでもある博物館へ足を運んだ。館長でありジムリーダーでもあるアロエは蔵書の整理をしていたのか脚立の上で作業をしている所だった。アロエを驚かさないようにと、アロエの視界に入るように回り込んだ二人は館内に利用者が居ないのを確認して元気な挨拶をする。
「アロエさん、こんにちわ!」
「こんにちわアイリス、いい挨拶だねお利口さん」
「アロエ姐さん、ただいま〜!」
「アンタ迄来たのかいアーティ」
「うん、きちゃったよ〜。用もあったしアイリスだけだと心配だしね〜、それに話の続きも聞きたいし」
「話の続き?」
「アイリスのね、すきなおにーちゃんのはなしなの!!」
恋バナってやつだよ姐さん!と大袈裟な身振り手振りでアピールするアーティと嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるアイリスを、はいはい解った解ったと宥める様に落ち着かせながらアロエは作業の手を止め脚立から降りると別室へと二人を促した。今日は暇だとは言え、ヒートアップするだろう会話をするには博物館内は相応しくないからだ。

別室で二人にお茶を出しながら
「で、どんな奴なんだい?アイリスが大好きだって言う男は」
とアロエが切り出すと、待ってました!と言わんばかりにアイリスがはしゃいだ声で話し始めた。
「うんとね、おにーちゃんはねとってもやさしいの!」
「おじーちゃんがまいごのとき、いっしょにさがしてくれたりあいりすがまいごになったとき、いちばんさきにみつけてくれておしごとのとちゅうなのにおうちまでおくってくれたり、」
「アイリスとてをつないでいっしょにうたをうたってくれてね、ほかにもおんぶもだっこもかたぐるまも、きのぼりもターザンごっこもかわぎゃくりゅうごっこもポケモンバトルもいっしょにしてくれるしね、」
「いっしょにおちゃもしてくれるし、えほんもよんでくれるししゅくだいもわかんないところみてくれるんだよ!でね、おにいちゃんがいれてくれるこうちゃがとってもおいしいの!あとね、おにいちゃんのポケモンもさわらせてくれるんだよ!ヤナップかわいいの!あたしのキバゴもオノノクスもかわいがってくれるし、いっしょにあそんでくれるんだよ!オノノクスとオノンドとキバゴと!!あたしのポケモンといっしょにあそんでくれたの、おにいちゃんがはじめてだからアイリス、すごいうれしかったよ!」
野生児アイリスのハードライフに振り回されている様だが、なかなかどうして。根性がありそうだしそもそもアイリスを大事にしているんだろう。じゃなきゃ此処迄付き合いきれまい、と紅茶を一口含みながらアロエはその相手の事を考察し、またアイリスがとても懐いているのを確信し
「そうかい、アイリスはよっぽどそいつが好きなんだね」
とアイリスの心に理解を示した。
自分の話しを肯定され、更に自分の好意を認められたアイリスは何故だか有頂天になってしまい
「うん、アイリス、デントおにーちゃんだ〜いすき!」
と声高らかに、宣言した。

「「………?!」」

今、耳に馴染み深い名前がアイリスの口から飛び出した気がする…と、二人はアイコンタクトもせずに同じ事を思った。
「で、デント?」
「うん、アイリスがすきなのはデントおにーちゃんなの!はじめてあったときからねだいすきなの!!」
「そうかデント君か〜、デント君っていい人だよねアロエ姐さん、ボクはお似合いだと思うけどな〜ん?」
「そ、そうだね、うん、よ、良かったじゃないか!ねぇデント!!」

…………はい?

アロエが若干裏返った声で、笑いを堪えるように口と腹部を押さえながら肩を震わせ明後日の方向に呼びかけると、声をかけた先には顔を奇妙に赤くしたデントと面食らっている他二人の兄弟の姿があった。
「れれ?デント君若しかして………いたのん?」
「あれ?デントおにいちゃん!おみせどうしたの?」
「…サンヨウカフェのデリバリーランチのお申し込み有り難うございました。当店は器の回収迄一貫して行ってオリマス………」
「……あーそうだったね。はい、態々有り難うねっっっぶは!!!」
「………イイエ、トンデモゴザイマセン」
なんとも言えない棒読みで、我慢の限界を迎え噴き出したアロエからランチを入れていたバスケットをぎこちなく受け取るデントはオオスバメの如くさっと身を翻し博物館を後にしようとしたが、両肩をがっしりと自分の兄弟に掴まれた。肩を掴んだ兄弟、ポッドとコーンは二人共とても良い顔をしていた。
そして良い顔の儘、アイリスの前迄デントを押していくと態々アイリスをお茶に誘ったのだ。

「アイリスちゃん、今日俺とコーンがおやつおごるぜ!」
「…え?いいの?ポッドおにいちゃん、コーンおにいちゃん」
「構いませんよ、アイリスちゃん。今日は面白いものが見れましたからね、うんとサービスいたしますよ」
「な、いいよなアイリスのおにいちゃん?」
「にくいですね、こんな可愛らしいお友達がいるなんて…」
「二人共!からかうのは…やめて下サィ」
言葉尻が萎んでいくデントを尻目に二人は更に続ける。
「いやいや、兄弟の前途を祝せるなんて、今日は実に良い日ですね!」
「ジムに戻ってたっぷり聞かせてもらおうか!二人の馴れ初めってやつをな!!」
「よくわかんないけど、いいことがあったんだね!よかったねデントおにいちゃん!」
「あーあ、デント君がんばれ〜」
両サイドから肩を組まれ、更なるアイリスとアーティの追い打ちで逃げられない状態になったデントは観念したのか益々顔を真っ赤にしながら
「…………………オ手柔ラカニオネガイシマス」
とまた棒読みで返事をするしかなかった。

ここはシッポウシティ、夏の熱気に巻かれながら三人の青年と一人の少女がサンヨウシティへ向かうのを博物館館長と一人の画家が笑顔で送り出す、笑いの絶えない街。

先のサンヨウシティでも、アイリスの大好きなお兄ちゃん自慢は続いたそうだ。






ミスミソウ様からのリクエストでデンアイで、イッシュリーグの面々にデントの自慢をするアイリスとの事でしたが…なんかズレた、デン+アイかデン←アイなのか…そして長い…orzなるべく全員を詰めようとした結果がこれですよ、でも何とか全員集合!になりました。面々と言うからには全員だろうな〜と思って張り切ったらこれだよ!ミスミ様、コレジャナイありましたらどうぞご一報下さいませ、お待たせ致しました!本当は全部の街一つ一つでノロケさせたかったんですが如何せん更に長くなりそうだしアイリスが一日で帰れなくなりそうなので何人かまとめてしまったよ!そして読み返したらギーマとレンブが無意味に絡んでる雰囲気でヤーコンさんマジツンデレでじいさん達がマジ孫ラブだった…すいません、後書きと言う名の言い訳です。


14/4/30





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