まりも様へ(3000HITフリリク)


※こちらの手違いで頂いたリクエストのカップリングが解らなくなってしまい、その後も連絡がいただけなかったのでこれでは!と思うカップリングで複数書かせて頂きました。コレジャナイ、若しくは地雷ありましたらまりも様、ご遠慮なくお申し付け下さい!



▼酔いは深く愛も深く(マツミナ)


「聞いてるミナキ君!」

何故、こうなったのだろうか


・酔いは深く、愛も深く


「マツバ…私が居ない間に何があったんだ?」
「らからミナキ君!僕の話聞いているのかい?」
居間へと続く襖を開けた瞬間、真っ先に飛び込んだのはその場面でもテレビの音でもない、ニオイだ。凄い……酒臭いのだ、部屋中が。そして卓袱台にへばりつきながら何の前触れも無く冒頭の言葉を口走ったマツバに、同じ言葉を繰り返すマツバに、私は最もな言葉を叩きつけていた。

「マツバ…お前どれだけ飲んでいたんだーーー!」
出るわ出るわ、空になった缶やら瓶やらが卓袱台の下からごろごろと。しかも瓶は可愛いサイズじゃなく、大瓶だ一升瓶だ、日本酒だ焼酎だ泡盛だ!こんなに酒を隠していたのかマツバ!何時の間に宴会してたんだ!ズルイぞマツバ、俺だって飲みたかったんだぜ!って違うちがう、今はマツバを落ち着けなければ。
「飲んださ、飲んだとも!君がなかなかお風呂から帰ってこないからその間中くだ撒いて飲んでたさ!」
「僕が銭湯行ってる間中飲んでたのかお前ーーーーー!」
因みに今、マツバの家の風呂は壊れている。
僕等は銭湯へ行った、マツバは一足先に行っていたので入れ替わる様に私は銭湯へ行って…現在に至る。こんな言い回しをする程の時間の経過も無いのに…本当に何があったマツバ!

「因みにポケモン達にくだ撒いてました」
「手持ちのポケモノが可哀想だ!」
今この部屋にポケモンがいないのはマツバのぐだぐだした言葉に耐えかねての事だろう、それでも主の肩にタオルケットをかけておいてやる優しさに、素直に良いなーと思ってしまう。そして自分も逃げればよかったと、後悔した。

「君が悪いんだ、いっつもいっつも人への迷惑を考えないで、あっちへふらふらこっちへふらふら!」
「マツバ落ち着け」

「年がら年中スイクンスイクンスイクン…君のライフワークへケチつけるつもりはないけれどね!」
「もうつけてるんだろお前!?」

「僕は何でも屋でも君ん家の分家でも君の舎弟でもないんだよ!昨日の真夜中に突然ピンポン連打しやがって、驚いたし最近悪戯しにくるヨノワールかと思ってモンスターボール(ダークボール)投げちゃったじゃないかよ!くそ、安くないんだぞダークボールは!!」
「あれは世間で言う深夜テンションとか言うやつだ!色々あって私ハイになってたんだ、ピンポン連打と玄関をバンバン叩いたのは謝る!でも顔面の真ん中にめり込んだボールは痛かったぞ!」
「其の儘抉れろや」
「えぐっ?!」
「ゲンガー達けしかけられないだけましだと思ってくれる?玄関の引き戸のガラスはヒビが入りました、何の説明もなしにいきなりただいまも言わず上がってきたかと思ったらドロドロのずるずるの格好の儘で家ん中じゅう走り回って、何とか捕獲して押し込んだ脱衣場ですっ転んでボイラーに体当たり、ボイラーを駄目にして本人は残り湯で無事入浴。人様の布団に勝手に入って昼迄爆睡、」
「挙句君の服を洗ってやろうとおもって洗濯機回したら、パイプと羽が詰まって故障」
「トドメに今日は日曜日で電気屋は休み……ふふふ、この夏手前に洗濯手動ってなんなの?ねぇなんなのかなミナキ君?何で僕は洗濯板に向かって君の服を洗っていたんだろうねぇ、何で君の傷の手当てしてご飯食べさせて薬飲ませて…母親じゃないっての!!友達って何?此処って君の体の良い民宿??それとも集りかこの野郎!」
ぐだぐだとくだを撒き続ける(しかしもっともな事ばかりだが)マツバに、流石のミナキも頭にきた。売られた喧嘩は時価でお返し、がミナキの持論である。

「黙って聞いてれば言いたい放題言ってくれやがってだぜ!マツバ、其処まで言われる程の事俺はしてないんだぜ!!昨日はしたかもしれんけど!」
「昨日所か毎度してらあ!きみはぼくがどれだけ心配してるかわからにゃいんだ!」
「そんなの解るわけにゃいだろ!」
くっそ、伝染ったじゃないか語尾が。何で良い歳した大人がにゃいにゃい言わなきゃなんにゃいんだ!ってまだにゃいにゃい言ってる、こんなところで躓いていては話の先が見えない…そうか、マツバにはアレがあるじゃないか!
「じゃああれだ、君の能力でなんとかなるだろ?あれ、何でも視えるって言う…」
「できれたらやっひぇる!」
興奮した所為か、回りだしたアルコールとは逆にマツバの呂律が回らなくなっている。でも付き合いの長さの所為か言ってる事は判別が出来た。嬉しいやら嬉しくないやら、今はそれよりも頭に来ているので、ミナキは切り口上で返事をする。
「じゃあやったらいいだろうが!」
「むり!」
「無理なもんか!君の能力の凄さは俺が一番知ってるんだぜ、その眼で心配なときにちゃちゃっと見ればいいだろ?」
「できにゃい!!」
「何で!」
「僕の眼は…いまふあんていになってるんら!!」
「は?」
「霊能力はけっきょく使う人間の精神状態にさゆーされうから、ぼくのきもひがちゃんとしてないときに使うと…さいあく眼がつぶれう」
なんて事だ、千里眼や霊能力やらは便利そうだと思っていたけど、マイナスな面もしっかりあるんじゃないか。
「だから心配なんら!」
「俺の心を読むな!」
「もし君が崖から落ちても、川に流されても海で溺れても、ポケモンに襲われても密猟者に間違って狙撃されても悪の組織に拐されてもぼくはっぼくは…っ」
こんな眼を持っていながら、こんな眼があるのに、こんな、こんな役立たずな眼なんかいらない!しかも今迄あった事だから次に遭遇しないなんて言い切れない事ばかり…
「なんでそんな不安定なんだよ…」
「……ひみがむちゃすうららら」
「は?なんだって?」
「きみがむちゃばっかりすうからら!」
俺が無茶するから?それでマツバが不安定?なんのこっちゃ?確かに危ない目に遭った事は沢山あるけれど、この通り五体満足だ。何を不安になる事があるんだ?
そんな己の心を、また読まれた様な呻きをマツバが零し、それによって頭に血が回って単純な発想しか生み出さなかったミナキの頭はさぁっと覚めていく。

「しんぱいんなら、君が好きらから!大事なんだ、なのに…君は、きみはじぶんをらいじにしようとしないっどんなおもいできみをおくりだすか、むかえうか君は…しりもしないれっ」
何度も何度も言うのに、その度に君ははいはい、解った解ったと適当な相槌ばっかり。僕が過保護気味なのかもしれない、その自覚はある。でも不安は汲めども汲めども尽きぬ、溢れるばっかりだ。
もしこれが最後の会話になったら?もしこれが今生の別れになったら?そんな事ばかり頭を掠め胸を締め付ける…それを顔に出さず、苦言程度に抑え続けた日々の積み重ねはついに限界を迎えている。主に酒の力の所為だが
そして今それ等の感情が瞬間、マツバから噴き出した!
「ミナキ君のばか、ばかばか、ばかぁあ。でんわもてがみもほとんどよこさないくせして、なんのとくしゅのーりょくもらいくせに、たまたまうんがいいかあ、いままでぶじらっただけらないか!それらのに、らにがぶじらったからつぎもぶじにひまってる?らって?そんらかしんばっかり!すこしはまたさえうひとのひもちにもらってみろ!!」

「うわーーーーんっ」

おいおいと泣き続けながらこれでもかと、日頃の鬱憤を晴らすべく胸の内全てを喚き散らすマツバに、冷静さを取り戻したミナキは逆の意味で頭が沸いた。
「ま…マツバ、そんなに俺の事を心配してくれてたなんて!しかも俺が好きだと!」
い、今、さり気なく告白しなかったか?日頃そう言った事を滅多にも本当に言わないマツバが今迄一回も言わなかったマツバが!俺を!!好きだと!!!!
「ミナキくん…ミナキくん……しんぱいなんら、そそっかしいきみがまた崖からおちらってどっかのシティの病院かられんわがかかって来るかとそうぞうしたら……もうきがきらにゃくて」
「もういいマツバ!よく解ったぜ!俺もちゃんと気をつけるから………今日は飲もう!!お祝いだ!祝いたくなったぜ!君が、恋人なのに今迄好きだと俺に言わなかった君が好きだと言ってくれた記念に乾杯だ!」
「………うん!!」

そうして、一晩中浴びる様に酒盛りを続けた二人が翌日、布団の中で二日酔いと羞恥心に身悶えながら先日までの色々に関して謝罪と告白を繰り返し続けたと言うのは、また別の話である。



▼柔い一撃(デンオ)


もふっ

と、軽い感触の後にごづん!と痛烈な痛みが俺の鼻目掛けてやってきた。寧ろやりやがったこの赤アフロ野郎!
今の時間差、と言うか間隔が奇妙な感じだがオーバのアフロブレイク(笑)は爽やかなニオイとなんとも言えない毛触りの後に強烈にやってくる。しかも速い、しかも今日は鼻だ、鼻血は出ていないが大分痛ぇっ

くそ、くそ!もう頭の中は鼻への強烈な痛みと目の前の幼馴染の腐れ縁のマブダチの後頭部への罵詈雑言と苛立ちしか無い。
よって、口から零れるのもその様な口汚いもので。

「っっってぇえな!この馬鹿アフろ…」
言葉が途切れる、目の前の背中が揺れ、猫背気味に前屈みの姿勢で、左耳に両手の指先を添えるような仕種で、耳を隠しながらそろりそろりと音も気配も無いような静かな動作で、俺の方にゆっくりと振り返るアフロは、赤い髪に負けない程顔中、それこそ耳や首迄も真っ赤に染めていた。

「…………首迄赤くしてんじゃねーよ、アフロ」
した俺が恥ずかしいじゃねーかよ、馬鹿じゃねーの?俺が馬鹿だったんだけど、好奇心に勝てなかった俺が悪いんだけど

噛んでみたかったんだ、齧ってやりたかった。すっきりした、その割りに俺よりも凹凸のはっきりしたその耳を噛んだら、その耳に歯を立てたら、ちょっとでもお前がビックリして、普段の説教する母ちゃんみたいな態度を取り乱すんじゃないかって、ほんの悪巫戯気で思いつきだったのに―

更に感想を言えば、さらっとした歯ざわりの皮膚とすっきりとしたニオイの髪の毛は好みだったけれど、ぐにぐにとした耳の感触はいいもんかどうかはよく解んなかった。でもな、

「こっこんなまっぴるまから…なん、なん、なんつー…こ、こ、こ、ここ事を………おま、えは…………デンジぃ」
こんなに免疫無かったなんて、俺知らなかったぞ…

目の前の幼馴染腐れ縁マブダチは、実はジョブチェンジを果たし幼馴染腐れ縁マブダチで恋人になっているのだ。日頃やってる事は今迄と全く変わらないし恋人同士のアクションもした事が無かったが、別にしたくない訳じゃない。ただ照れ臭くて出来なかったんだ、だからこれを期に弾みをつけて進んでやろうと思ったのに…なんだろう。胸やら腹の中じゅう、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになっちゃったんだけど…
そんで、あんまりにも真っ赤だし、取り乱してるから可愛いよりも何だか可哀想になってきて、妙な罪悪感もっ湧いてくるからつい謝っちまった。
「……わりぃ、」
「ちょ、ま……て、今、おつつ、おちつつ……おちつく、か、ら」
その謝罪が拍車をかけたのか、呂律の回らないオーバは到頭床に四つん這いを崩したような格好で蹲って頭も抱えてしまった。これはオーバの恥ずかしさ、若しくは悩みの最上級のポーズだ、本気で恥ずかしかったらしい。
アフロに埋まる腕がアフロの奥に隠れる頭をしっかり抱えている、屹度いい形の頭に違いない、可哀想で慰めのつもりで、撫でてやりたいし肩を叩いて大丈夫か?なんて声を掛けてやりたい気持ちになったけどそれをやったら益々オーバが混乱しちまうだろうから、俺の両腕両手はなんとも言えない角度でふらふらと宙を掻く。

まるで新手の宗教の儀式の様にぎこちない、挙動不審をアピールしまくってる俺に気付かず、オーバは頭を抱えた儘うぉぉおお〜、だの、ぬぅぅぅうう〜だのと唸り声をあげて何かを考え続けている。否、落ち着こうとしているんだろうけれど如何せん蹲って唸っているだけみたいに見える、その内ころがる使いかねない。
本当に、オーバにとってはとんだ不意打ちだったようだが、こうなったら俺にもやれる事が無い。
なので宗教儀式を取りやめ、その儀式を引き継ぐが如し唸り声を上げ続けているそんなオーバを見下ろしながら、次からはもう少し突拍子の無い行動は控えてやろうと俺にしてはまともに思ってしまった休日の昼下がりだった。



▼壁に罪は無い(ギマレン)

「好い加減にしろギーマ!」

その怒鳴り声と共に、壁に穴が空いていた。

自分の顔はいたって冷たく、相手の非を責めるような表情だったが内心とても焦り、ビビっていたし余裕を表したふうに壁に凭れかかっていたけど本当はレンブが少し恐くて腰が引けそうなのを堪える為に寄りかかっていただけだ。

レンブまじ半端ねぇえ!!

「お前なぞもう知らん!!」
足音を荒げ去っていくレンブの拳によって穴、基い抉られた壁の瓦礫が先程の余韻の様に足下にパラパラ…と細かく崩れてくる。本当に、壁が崩れた…寧ろこの壁がもう少し薄くて脆かったら貫通していたんじゃないか?レンブが本気で壁ドンしたら漫画みたいに腕貫通するんじゃないのか?
とまぁ、意識を明後日の方向に逃がしているけれど兎に角今更ながら恐ろしい…これで殴られていたらと思うと背筋が心寒いばっかりだ。その件のレンブとの喧嘩は、別にこれが初めてと言う訳じゃない。今迄色々あったから、喧嘩は数え切れないほどしてきた。そのどれもが、そう大した理由でもなかったし。
今回の喧嘩の原因もそう、最早頭の中には無い。とても些細な事だったと思うが其処まで怒らせる様に煽ったつもりも、嗾けた気も、増してや貶しても無い。何時も通り舌先で丸め込もうとしただけだった、そうだその筈だ。
なのに、今回は上手くいかなかった。その結果がさっきの壁ドガン、だ。壁ドンじゃない、壁ドガン。

何もそんなに怒る事無いじゃないか、

そう考えながらすいっと、レンブが歩いていった先を視線だけで追うと、点々と。まるで動物の足跡の様に赤いものが床に滴っている、ま、何って勿体つける事でもない、血だ、壁を殴った時に怪我をしたんだろう。そりゃ壁が砕けたんだ、手だって無事で済む筈が無い。

あーあ
「しなくてもいい怪我なんかしちゃってさ」
彼が意外と気が短いのは知っていた。しかし先程みたいに手を上げられた事は今迄一回たりとも無かった。どうやら余程我慢していたんだろう、何かを。でも何をだろう?そんなに酷い事を言ったつもりもないし彼のプライバシーを侵害したり劣等感やトラウマを煽ったつもりも無い。
一体何がそんなに……

其処まで考えたところで、人の気配を感じたギーマが視線を動かすと少し離れた所に所在無さ気に立つレンブが居た。何の用?とテンプレートにも程がある台詞を吐いてやろうかと少しだけ怒りの尾を引いた心根で考えているとレンブは、気まずそうに、でもはっきりと尋ねてきて、それに対しギーマはつい素っ頓狂な返事をしてしまった。
「………無事、か?」
「はぁ?」
何を今更、と呆れを滲ませた声で言ってやろうとしたがその前にレンブの自白めいた言葉が滑り出し、ギーマの言葉は遮られた。

「さっき…壁を壊したから、その、お前に何か飛んだり当たったりしてないか?」
壁を壊した自覚はあるのか、此方は対して怒ってはいないがそれでもまだ、怒りや呆れの余韻を残した心地ではあった為不機嫌な声音を崩さない儘
「まぁ、怪我はしてないよ?」
と言ってやるとそうか、と安堵した声で言ってきて、何故かそれが頭のどこかに引っ掛かる。何か可笑しい、彼が安堵するのが可笑しい?可笑しくないだろ?だってこっちが若しかしたら怪我したかもしれないんだ。あっちの所為で…あちらの非?どうも認識の齟齬があるようだが上手く考えが組み上がらない。どうやら思いの外怒っていたようで、私も単純なものだと少しがっかりした。
「頭に血が上ると、手が付けられない。だから何時も、よく考えるんだ。考えて考えて、努めて冷静さを保とうとするんだ。なのに、さっきはそれも出来なくて…」
「まだ何かぐだぐだ言いたいの?私も暇じゃないんだけど?」
言い訳めいた懺悔を、冷たい声が遮る、でもこれは八つ当たりだ。己へのがっかりした気持ちを、彼へ転嫁しているだけだ、みっともないな、いい大人なのに…そんな私の胸の内等解らないレンブは、まだ何か言いたいようだったが続けられる雰囲気ではないと悟り、
「一つだけ…いいか?」
と言葉を絞り出した。絞り出す、と言う表現が正しい程心苦しそうに声を出していて、ギーマの胸の中の罪悪感が騒ぎ出す。が、口は正反対にレンブを批難するような声を吐き出していた。

「…何?」
冷たく言い放ち、見下ろした先の手は握り締めた所為か、傷が開いたのだろう、また床に血が落ち始めていた……アレ?今日のレンブは…何か、足りないな?何時もより色が足りない、むき出しの二の腕、其処に嵌るトルコ石みたいな青緑のリング、むき出しの上腕、むき出しの手の甲………!?
そうだ、何故彼は何時ものグローブをしていない?グローブさえつけていれば怪我なんかしない、壁は砕けても彼の手が傷つく事なんか無い。何故外していたんだ?
何故何故を繰り返すギーマの変化に気付かず己の傷の加減にも注意を払わない儘、レンブは謝罪の言葉を口にした。

「怪我をさせなくて、良かった…それだけだ。お前を何故怒らせたかも解らないが…すまなかった。暫く……手は隠すから」

手?何で手を隠すとかって……嗚呼、なんて事無い。勿体ぶる程の内容でも過去でもない、私の所為だ。
纏まらなかった考えは、糸口を掴んでしまえば後は速い、あっと言う間に原因に行き当たっていく。


手を繋ぎたい、と言ったんだ。私が、彼に

だからグローブ外してよ、と彼に強請ったのだ。日頃素手を見た事が無いから、偶には外してよと言葉巧みに彼のグローブを取り上げてその手を取ろうとしたんだ。しかし、あの外見からは想像出来ないだろうが彼はとてもシャイなのだ。人前で手を繋ぐなんてとんでもない!と常日頃から真っ赤な顔をして拒絶する程の恥ずかしがりで最近迄色々お預けを喰らっていた私はこの度のゴーサインに内心とても興奮した、けれど此処でまたブレーキをかけられた。やっぱりまだ心の準備が、と。
日頃は焦らしプレイ上等!等と買ってしまうその行動が、何故かさっきだけはとても頭に来た。それで彼を詰った、そこからは売り言葉に買い言葉、あっと言う間に険悪なムードに陥り、壁ドガン。で、今に至る訳だ

そうだ、些細な事だ、全ては私の所為だった、

私の些細で小さな我が儘の為に彼は、しなくてもいい怪我を負ったのだ。そして自分が悪いと、でも私を傷つけずに済んだと心から反省しているのだ。しなくてもいい反省をしているのだ、しなくてもいい謝罪をし、抱かなくてもいい罪悪感で胸をいっぱいにしながら今私の目の前から去ろうとしている。

この儘、私の元から去ってしまうかも、なんて言う妄想が私の頭の中を埋め尽くした。
今呼び止めなきゃ、彼を失ってしまうかもしれない、
今謝ってお互いの誤解を解かなければ、元通りの関係に戻れないかもしれない!

加速する想像に頭の先から爪先まで占拠され、口よりも先に体が動いた。遠ざかる背に追い縋り、軽く握られている大きくて節榑れたその手に自分のを絡ませて。その動きに驚いたのか、彼の歩みは止まった。

捕まえた手は、自分の体温が低い所為もあるだろうが思ったよりも温かくて硬くて、でも愛しいなと思えるもので。こんなシチュエーションで手を繋ぐつもりはなかったんだけどなぁ、と自嘲する。もっと幸せな気持ちで、手を繋ぐ筈だったのになんでこうなっちゃうかなぁ…

過去を悔やんでも仕方ない、泡を食ったように顔を赤くして目を白黒させているレンブにまず言わなきゃならない事がある。

仲直りをしなくちゃ、この先の為に。繋いだ手を離さない為に…


「傷付けてごめんね」



▼たったの一口(ズミガン)

食事、それに何を見出すかは人それぞれだ。しかし、世間一般的な感覚としては「出来る事なら食事は楽しんでしたい」だろう。穏やかに、和やかに、好きなものを食べたい。人として当然の気持ちだ

だが、今この食事風景は、それとは正反対の模様を描いている。

「このズミの作った料理が食べられないと仰るのですか貴方は!」
「ズミ殿、ご勘弁を!どうか、どうか後生だからそれだけはっっ」

修羅場だ、正しく修羅場。ゴシップ好きな人間が喜ぶドロドロなものではない、文字通りの意味合いの「修羅場」だ。

方や食べる側、テーブルの上の皿は料理が盛られていた痕跡はあれど綺麗に平らげられ満足の育食事であったと推察されても可笑しくない。
方や調理をした側、手には美しく磨かれ輝くフォークが握られている。そのフォークに乗せられているたった一口の料理がこの修羅場の根源であり主役である。
この一口は…食べる側ガンピがこっそり残した分だったのだ、そして作った側のズミに呆気なく見つかり修羅場開催、の流れが今に至る。「貴方いい歳して好き嫌いがあるなどと!」
「歳は関係ないであろう!苦手なものは苦手なのだ!」
「苦手なだけなら食べられるでしょう!食べなさい!!」
「言葉のあやである!食べられぬ、食べられません!」
「好き嫌いしてはいけませんとご両親に教わらなかったのですか!」
「教わりはしたけれど!それとこれは違うではないか!!」
「違わんわ!いいから、あと一口なんだから口を開けなさい!」
ずい、っと鼻っ面に差し出されたフォークに乗る料理は所謂付け合せであり、個性的な味付けがなされている訳ではないし量も一口程度のもの。しかし、それをこっそりとフォークの下にさり気無く隠していたのを皿を下げに来たズミに見つからないと思ったのだろうか…この男は。
甲冑の肩部分を押さえ付けられ椅子から立ち上がれないガンピは、半分泣きそうな顔をしながらぶんぶんと頭を左右に振って拒絶の言葉を吐き続ける。
「うぬー無理、無理、無理であるー!我食べられない、それだけはっその悪魔の如きものだけは食べられぬ、飲み込めぬのだーー!子供の頃から食べられた気がせぬ、本当なのだ!本当なんだったら!!」
まるで子供のような良い訳を繰り返すガンピに、ズミは呆気無くキレた。

「貴様、農家に謝れーーー!」
「っひ、おっかない!ズミ殿がおっかないである!」
「農家の皆さんが晴れの日も雨の日も雪の日も、風の日も嵐の日も台風も日も地震の日も、雷の日もかんかん照りの日も野生のポケモンに荒らされた日もストライキの日もテロの遭った日ですらもっ、汗水たらしながら朝早くから夜遅く迄休みなく働いて、時間と日にちと手塩をかけて漸く市場と食卓に並ぶ野菜に無礼な!!貴様の我が儘如きで悪魔と罵られる為に皿に乗ったわけではないわあ!」
ズミが一息に生産者の苦労を捲くし立てると、呆気に取られながらもガンピは感心した風に口を開く。
「こ、この歳で食育されるとは思わなんだ」
「私も貴方のようなおっさんにするとは思いませでしたよ!」
「でも苦手なものは苦手である!」
「ならば最初から申告なさい、言ってくれていれば最初から皿にのせません」
「そ、そうなのか?言えばよかったのであるか?」
「私も鬼ではありません、度が過ぎない程度の好き嫌いでしたら考慮いたします」
アレルギーやヴィーガンの為の食事を作る機会もあったのだ。食材の差し引き等、ズミには何の造作も無く行える。しかし、それは前情報があればの事だ。何の情報も無ければ手の打ちようがない、だから事前に申請しろとズミは以前にも言っていたのだがこの男、屹度言い出せなかったのだろう。いい歳したおっさんだから!溜息を吐きながらズミは続ける。
「…では次回からはその様に取り計らいます。が、今だけはお食べなさい!!!」

どうやらズミは鬼ではなく、悪魔であったらしい…と、ガンピは恐ろしいものを見る眼差しでズミを見ながらまた、頭を激しく左右に振って拒絶を繰り返した。
「無理無理無理無理っっっ」
「既に手をつけておいてその言い種!往生際が悪い!!」
「そ、それはそれ、これはこれであって」
「黙れ下睫毛!白々しい言い訳をしおってからに!!」
「し、下睫毛?!我の睫毛を責めるとは、ズミ殿ひきょ…」
「ならば何故手をつけた!食べられないなら何故手をつけた!!」
話を聞いてくだされ!と叫ぼうとしたがあまりのズミの顔の恐さにガンピは抗議が出来ず、目を逸らしながら理由を言わなければならなくなった。まるで親に叱られる幼子のようだ
「き…今日こそは食べられるかと思ってトライしようと思って……やっぱり出来ません、でした」
そう正直に話すと、少しだけ表情を緩めたズミが
「なら後一押しでしょう、口を開けろ、放り込む!」
とフォークを構え直したのに対しガンピは驚きのあまりズミの最後の言葉をただ繰り返した。
「放り込む?!」
「味わえとは言いません、本来ならば言いたい所ですが好き嫌いを無くす学習と言う行為の過程ですので、飲み込むだけで宜しい」
「の、のみ、ノミコム?」
「噛まずに飲み込め。チャレンジ精神があったのなら弾みをつければ出来る、さぁ口を開けろ!」
「鬼ではないと言いながら、ズミ殿まったくの鬼ではないか!無理無理、寧ろヤダヤダ!」
「駄々を捏ねるなっ貴様それでも騎士かーーーー!」
「好き嫌いがあっても騎士は騎士であるーーーー!」


はぁ、はぁ、はぁはぁ………


互いの怒声が響いた後、静まり返る場に、漸く心を落ち着けたガンピは己の非礼を詫びた。
「………我が儘を言ってすまぬ…折角ズミ殿が作ってくれたと言うのに、大人気なかったである…」
そう言われたズミも肩で息をつきながら、何とか気を落ち着け冷静さを取り戻す。「…私も言い過ぎました、こちらこそ大人気ない事をしてしまい申し訳ありませんでした………食べられないものは、仕方が無いですね」
皿を下げ様と伸ばした手をそっと金属に覆われた手が押さえる。顔を上げたズミの前には俯きながらも「……食べる」と言ったガンピの姿がはっきりとある。
「無理なのでしょう?」
「めっ…目を瞑って口に入れれば、なんとか」
「………そう、ですか」
じゃあ、と先程と同じくフォークを手に取ったズミはきつく目を瞑ったガンピの口許にフォークを持っていくと、恐る恐る空いた口にフォークを差し入れ乗ったソレをガンピの舌が受け取りそっとフォークが抜かれたのを確認した様に少し俯いて、ほんの僅かな時間の後
ごくり、と喉が大きく動いた。

「……の、のめたっズミ殿、我飲めたである!」
「やれば出来るではないですか!」
「うわー!我食べた、30年以上食べられなかったのに!」
「これでこの次からはご自分で召し上がれますね!」
「うむ、努力してみせよう!」
「その意気ですガンピさん!!」

………

少し離れた席で食事を取っていた他の四天王メンバー、つまりパキラはテーブルに肘をつきながらネタにもならない二人のやりとりをうんざりとした顔で眺めていた。
「………この世で一番色気の無いあーんを、見せられたわ。なんか、不快だわ」
「あらあら、パキラちゃん。まぁまぁ、お残しはいけないわぁ」
「っこ、これは」
バレた、と言わんばかりに焦りを見せたパキラの隣に陣取ったドラセナが器用にスプーンを操り残した食事を掬い上げると、ほらほら
「おばさんがあーんしてあげるからお食べなさい?」
容赦の無い声音でスプーンを差し出し、お決まりの一言を吐いた。

はい、あーん





まりも様のリクエストで喧嘩から仲直りと言うお題でした。まりも様、こちらの不手際、本当に失礼致しました。ご連絡お待ちしております!そしてお待たせ致しました。取り敢えずBL4組でと考えたら何だか大半下らない理由で喧嘩し始めました、しかもカロスに至っては無自覚のろけだよ!


14/4/30





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