声涙、倶に下る


※オーバ視点のレン+カト+オバと時々デント
※ギマレンだけど、ギーマさんは不在でデンオだけどデンジさん不在




イッシュ地方、サンヨウシティにて俺はイッシュリーグ四天王であり世界有数の貴族のお嬢様であるカトレアと優雅に茶を飲んでいる。
カトレアの隣には彼女のボディガードなのかなんなのか知らないが、同じくイッシュリーグの四天王だと紹介された褐色の肌を持つ筋肉質な男(筋肉質というよりムキムキなマッチョである)が見た目にそぐわぬ優雅な仕草で茶を飲んでいた。
その仕草からレンブと名乗った男は案外育ちがいいのかもしれないと推察した。

どうぞ、と俺にも店内にいた赤青緑のウェイターの内、緑のウェイターが丁寧に茶を出す。その出されたカップがこれまた高級そうでじっと見ていると、何かを勘違いしたウェイターはぺらぺらとその紅茶の特徴を話し出した。俺は、それをはぁ、とまったくわからない様子で聞いていた。

お口に合えばいいのですが、と飲んでみてねと促され、俺は優雅さの欠片もなくぐいとそれを一気に煽った。紅茶はほんのりとモモンの実の甘い香りがした。

アンティークらしき机が置いてあり優雅な音楽が流れている店内。
ただの喫茶店にしては優雅で高級な様子を呈しているその空間は庶民の庶民たる俺にはふさわしくないような場ではないかとさえ思う。
おまけにてっきりリーグで話し合いなのかと勘違いしていたため、いつものラフすぎる黒のズボンに黄色のシャツ姿である。まぁ、それは目の前のレンブという男も大差ない格好なので、ドレスコードというわけもなく(喫茶店にドレスコードなぞあってたまるか)気にしなくてもいいのかもしれないが、何故か場違い感がすごいのだ。
もしかするに洋服でなく、常々暑苦しいだのむさいだの文句を言われるこの赤々としたアフロがこの場から浮く原因かもしれない。
まぁ、そんなことどうでもいいんだ。
問題は一向に会話が進まないということと本題に中々入れないという点であった。
というのも、お嬢様の方は眠そうに、マッチョの方はむっすりと不機嫌そうに黙って紅茶をすすっているからだ。



――あぁ、帰りたい。


俺は心底そう思った。


−−−−−−−−



そもそも、俺がイッシュくんだりまで来て四天王と茶を飲んでいるのには訳がある。
俺の所属しているリーグのチャンピオンたるシロナが今目の前にいるカトレアの別荘で長い長い休暇を過ごしており、その休暇期限が終わったのに一向に帰ってこないということが今回の俺のイッシュ行きの直接的な原因である。

戻ってこいと再三言っても戻ってこない自由人に堪忍袋の緒が切れたらしく、連れ戻してこいとの言葉を上からいただいたわけだ。
まぁ、彼女がいないとリーグを開けないのだから仕方ないっちゃ仕方ない。

で、何故俺がイッシュにいるのかというと、その迎え役を仰せつかった(実際はじゃんけんに負けた)のが何を隠そう俺であったのだ。

そもそもじゃんけん、弱いんだよなぁとぶつぶつ思いながら、茶を飲んでいるとお嬢様が思い出したように、あぁと口にした。

「そういえば、貴方何か用事があるとか?」
「ああ、うちのチャンピオンがあなたの別荘に泊まっているからその件で今日は来ました。」


真実をありのままに伝えると彼女はふうんと興味がなさそうに呟いたのだった。
ふうんじゃねぇだろ、と思いつつもお嬢様にそんなこといえるわけもなく口をつぐむ。

お嬢様は俺のその様子にどう思ったのか、シロナに言っておきますわ、と続けた。

「あぁ、ありがとうございます。」

ではこれで、と席を辞そうとした時、お嬢様が待ったをかけるのだった。
なんだよ、帰れそうだったじゃんかと思ったがそれを口にすることはやはりできなかった。お嬢様にそんなこと言えないということとお嬢様の隣に座ってるマッチョの視線が怖いことと、お嬢様の放った発言からだった。


「そういえば、この間貴方の“ご友人”に会いましてよ?」
「うぇ!?デ、デンジと?」
「えぇ。」

確かそんな名前だったような気がするわと言ってからカトレアは何かを思い出したように顔をしかめる。
いつもいつも失礼極まりない態度ばかりとる奴のことだからここに来てもろくなことをしていないのだろうと頭が痛くなる。そのフォローというか尻拭いが俺に回ってくるのだ。何も出掛け先でも問題を起こさなくてもいいじゃないか。

「カミツレの知り合いだから会ってみたのだけど、貴方よくあんな方と付き合ってられるわね。」
「まぁ幼馴染みですから。」

慣れたものですよと笑いながら答えるも、少し苛々した。何も知らないのに少し会っただけであいつのことを嫌な人間だと判断するなんて。確かにデンジは初対面の相手にも臆することなく失礼な発言をするし、そもそも興味がないという態度をとるが根はいい奴なのだ。

暴力をふるっても後でちゃんと優しくしてくれるし謝ってくれるし、家から閉め出されることもあるがそれは相当機嫌が悪くない限りそうそうないのだ。それに問題ばかり起こして俺に処理させるのは互いに忙しくしていてあまり会う機会がなくて寂しいのだと知っている。

だからデンジは本当はいい奴なんだぜ、とシンオウの四天王に主張した時と同様に主張したかったが、その時に本気でDVを受けてるんじゃと心配された(今は誤解は解けてるから大丈夫だ)ので口にはしない。
それに話を聞く限りデンジが悪そうだったというのもある。初対面の相手にいきなり「ガキは家で寝てろ」なんて言うデンジが悪い。いや、それはカトレアがいかにも眠そうで(今もそうである)、あまりに夜遅くに出歩いていたから心配と苦言を合わせた形で放たれた言であろうが、それでもいきなりそう言うのはやはりデンジが悪い。心意気というか考えていることは悪くないのであるが、何せ発する言葉が絶対的に足らない。


そんなことを思っていると俺が参戦せぬ間に話はどんどんと別の方向へ進んでいっていた。

「あの失礼な態度もそうですけど、シロナに聞いた彼の生活態度をみるとギーマさんに似通ってるように思うのだけど。どう思いまして?」
「ぎーまさん?」
「あぁ、ご存知ありませんの?あたくしたちと同じ四天王の一人ですわ。」
「へぇ。」
「ねぇ、レンブ?そのデンジさんとギーマさんは似たところがあると思わない?」

口から出る言葉の数々は失礼なものが多く、自堕落な生活を送っていて、それでいて立場のある仕事についている。
ほら、似てませんこと?とカトレアは意地の悪い笑みを浮かべてマッチョを見た。カトレアの指摘の数々はもっともで、というか常に俺が思っていることでもあったので特に否定はできなかった。だが、自分で思うのと他人から我が物顔で指摘されるのでは気分がだいぶ違う。やはり口にも顔にも出さないがなんか腹立たしかった。
マッチョは友人だろう相手をこう酷評されどう思ったのか(少なくともいい感情ではない)、眉を寄せ唇を尖らせながらどこか拗ねた様子で言った。

「別に似てないだろう。」
「そうかしら?」
「そうだ。ギーマは確かに自堕落で口も悪いが他人を陥れることはない優しい人間だ。」
「優しい?どこが?」
「ギーマはああ見えてマメだし、気も遣える。俺が落ち込んでいる時はさりげなく傍にいてフォローしてくれるし、俺が苦手にしていることはそれとなく変わってくれる。人のことをよく見ている。それに面がいいからモテるし、何せ四天王であるしバトルの腕もぴか一だ。普段は飄々としているのにバトルになると目つきが変わる。勝負師の顔になるんだ。俺はそれを見るのが好きだ。それに・・・」

それはデンジもそうだぜ、と口にすることはできなかった。訥々と語る彼がほぼ無表情でそのギーマという人のいいところを語っているからだ。随分と仲がいいんだなと思いつつ、その互いに互いを認め合うような友人関係を少しうらやましくも思う。俺とデンジはそんな関係性ではなかったからだ。互いに互いの悪口を言い合う関係性である。認め合ってはいるが他人の前ではそれが気恥ずかしくて言い合うことはない。馬鹿にされたときはちょっと軽く否定するぐらいである(デンジは否定もしてくれない)が、手放しに他人の前でほめあったりするような友人関係ではない。
まあ、もっとも俺とデンジは最早”友人”関係ではなくなってしまっているのであるが。
それは置いておくとしよう。

ちらりと彼の隣にいるカトレアに視線を移すと彼女は早々に彼の話に飽きたのか(自分で振っておいて)はたまたそれに慣れているのか呑気に紅茶のおかわりを緑のウェイターに頼んでいた。
呑気なもんだと思っていると、マッチョの目が俺に向き、ギラリと光る眼光で俺を見据えながらどうしたらいいのかわからない同意を求めてきたのだった。その顔が若干ふてくされているようだから、先にカトレアに否定されたことをまだ気にしているようだった。

「なあ。お前もそう思うだろう?」

そう言われてもそもそも俺はその話題の中心に上がっているギーマという人物について何も知らない。そもそも会ったことすらないのだから、具体的にデンジとどこが違うのかとか似ているのかとかはわからないのである。だから、どうにも答え難くただ引き攣った愛想笑いをこぼすしか出来そうもなかった。それにまた気を悪くしたのかマッチョは眉間にしわを寄せ、ぶうたれた表情で自分の茶のお代わりを注ぎに来た緑のウェイターに今度は同意を求めるのだった。同意を求められたウェイターは、あははとひどく呑気な笑い声をあげて恐れることなく、僕にはわからないですよと言ってから余計なひと言を添えたのだった。

「でも、レンブさんってギーマさんのことが大好きなんですね!」

いやいやいや、そこでどうしてそんな話につながるんだと突っ込みたかったが声が出なかった。というのも、先の衝撃的な発言で現実逃避にと飲んでいた紅茶が気管に入ったのだ。ツーンとする鼻を押さえつつ、彼の姿を見る。
彼はウェイターの言葉にウェイターを殴りつけるでもなく、ただ顔を真っ赤にして叫ぶようにこう口にしたのだった。

「す、好きなわけあるか!」

その生娘のような反応に嘘つけ!と突っ込みたかったのであるが、その突込みはまだむせから解放されていない俺の口から出ることなく咳となって消えたのだった。



《声涙、倶に下る》


(シロナさんが早く帰ってこなかったから俺はあんな目に…)
(え?いいなあ楽しそうじゃない。)
(どこがだ!)






ミスミソウ様にキリ番リクエストさせていただいた「本人の前では言わないけれど他人の前ではぽろっとデレるギマレン若しくはデンオ」と言うなんとも微妙なリクエストをこなしていただきました!やった、凄い、リッチになって返ってきた!!有難う御座いました!ちょ、レンブさん自覚してますか?貴方凄くノロケてます!オーバさんが心の中で喋って口外せず胸の内でひっそりのろけてる時にめっちゃノロケ口から出てますよ!カトレアさんナイスお嬢様!そして小市民オーバに親近感…重ねてお礼を言わせて下さい、有り難うございます!





back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -