おねだり万歳(まりもさん誕生日祝いマツミナ)


「マツバ!突然だが先週の今日、私の誕生日だったのだ!」
「うん、知ってる、その時君は何処に居たのか、自分の胸に聞いてご覧?」
「…はい、スイクンを追っかけて滝つぼに落ちた後野性のポケモンの群れに追いかけられて、ポケモンハンターにポケモンと間違えてハントされそうになって頭にきてとっちめた後斜面から足を踏み外して病院に搬送されて三日間入院してました…」
よく言えました。そう言いながら洗濯物を畳んでいるマツバの前に仁王立ちで立ったミナキは、削がれた勢いを取り戻さんと胸を張ってマツバにこう言った。

「だからマツバ、私にマツバをちょーだいな!」

・おねだり万歳

このまるっきり子供の様に直球且つダイナミックなねだり方に、流石のマツバも一瞬所か数分固まった。タオルを畳む手は止まり、ミナキの発した言葉裏を考えるが見上げる先のミナキの顔の一寸の曇りも無い眼に、嗚呼冗談じゃないんだなと直ぐに気付いてしまい自分の洞察力とミナキへの対応力の高さに自分に自分で溜息を吐きたくなった。
全く、自分の恋人の突飛な行動に慣れてはいるがまさかこう出てくるとはね……流石ミナキ君、僕の千里眼ですら読めない男だよ
「…ミナキ君」
「何だ?」
「何でだからなの?」
「無事に退院したし、快気祝いと誕生日プレゼントをかねて、私がこの世でスイクンの次に欲しいマツバが欲しいんだ!!」
「はいブブー、やり直しー」
「何で!?」
腕を顔の前でクロスさせて拒絶、駄目出しをしたマツバに仁王立ちから素早く正座し何で何でと連呼してくる。
「本当に解ってないの?」
「解らん」
即座に返してくるミナキ君は相変わらず嘘を吐いていなさそうなので深い深あーい溜息をわざとらしく吐きながら、マツバは洗濯物を畳み終えてミナキの方へ体事向き直るとと子供に言い含める親の様に真摯にゆっくりと紡いだ。
「あのね」
「おう」
「恋仲の相手は普通、世界で二番目なんて言われて面白い訳ないんだよ」
「へ?」
「世界で二番目に大好きって言われても二番目に欲しいって言われても、僕全然嬉しくないんですけどミナキ君」
「…………は!?しまった、うっかり正直すぎた!!」
本当だよ君、僕じゃなかったら顔に一発貰っても可笑しくない状況だよ。寧ろ僕だって一締め、いや一関節、一投げしてあげたいところだよ。寧ろ次の言葉如何ではどれかか全部かするつもりだよ、全く検査の結果以上は診られなかったっていうけど、どっか可笑しいんじゃないのミナキ君?
じゃあじゃあ、とずずいっと膝行って益々近寄ってくるミナキ君は更にじゃあと言った後
「っじゃあどうお願いしたらお前はお前を私にくれるんだ?」
なんて聞いてきた。んー、まだ怒るところじゃないし本意が解らない。もう少し聞き出さなきゃ年の瀬、締め納め投げ納めも出来ないな…
「そもそも僕を貰って如何しようと言うの君?」
「そりゃまずはだな」
「…何する気だよ君」
水色の瞳を爛々と輝かせ、指折りながらミナキ君は最早僕を貰ったつもりの様に僕にしてもらう事を語りだす。
「まずお前にぎゅーって抱き締めてもらうだろ?それでな、二人でくっついてテレビ見て、夕飯の用意も二人でして、ポケモン達と一緒にテレビでも見ながら食事を摂るだろ?」
片付けも二人でして、テレビ見たり話をしたりして、風呂にそれぞれ入るだろ?布団引いてまた話をいくつかして
「それで寝る前にまたお前にぎゅーってしてもらうんだ。それでな…うん、まあ、夜には夜にしか出来ない事があるだろ?それを―だな、うん、偶にはうんちゃんとだな、したいと言うかだな」
…………うん?
「え、君…お誘いしてるの?」
「な、なんだと思ってたんだお前は!」
「あんまりにも回りくどいから何かに取り憑かれているのかとも思って君をそのような眼で見ていたよ」
「どんな目だ、どんな眼なんだ!?いや、見るな見ないで怖い!」
じっとり、すわりきった様な眼差しでミナキの肩越しに背後を覗き込んでいるマツバに、上半身を仰け反らせながら止めろ止めろ両腕を大袈裟に振るミナキはその儘ぱたん、と畳の上に寝っ転がると
「今回は、流石に自分でも冷や冷やしたんだ」
と呟きだした。
「…」
「滝壺や斜面くらいなら何時もの事だし、ポケモンの群れもいつもの事だけれど、ポケモンハンターは流石に怖くてな」
「逃げなよミナキ君」
「悪人に捕まったポケモンをそのままにして逃げる事は出来ない、どうにかのしてやってジュンサーさんを呼んだ後腰が抜けて斜面からまっ逆さまに落ちてしまったんだ…」
「……」
「怖かったぞ、怖かったんだ」
目を覚ませるのか?記憶を失ってないか?どれ程の怪我か?お前に会えるのか?不安と疑問が頭の中を走馬灯の様に駆け巡り意識を失い―病院で目を覚ました時、本当に
「お前の顔を見て、本当に良かったって………安心できたんだ」
そうっと両手で目を覆い震えそうな声を堪えるように、何かに耐えるように鼻に、喉に歯に力を込めるミナキを唯静かに見守っているマツバとミナキの間に暫しの静寂が訪れ流れる。
どれ程か、そんなに長い時間ではないだろう。手を顔から外したミナキは、まるでスローモーションの様にそろりそろりと腕を広げ前へ―マツバの居るだろう方向へ突き出すとまるで情けない、震えの混じる声を出して
「だからマツバぁ」
今日だけでいいから

先程の言葉を繰り返した。
「私にマツバを頂戴な?」

………………


沈黙、沈黙、ただただ沈黙を貫き通すマツバの顔は夕暮れの灯りで翳りミナキの位置からは窺い知る事が出来ない。怒っては…いないよな?と部屋の空気とマツバの気配を察しながらもミナキは尋ねる。
「…………却下か?マツバ」
「……普通に淋しい恋しいって言えばいいじゃない君」
「何時もムードが無いといったのはお前だ、私になりに…考えたんだぞ」
そう、ごめんね。などと素っ気無く謝罪しながら未だ畳みに寝転がるミナキに這い寄るマツバは、ミナキの伸ばした腕を掴むと力いっぱい引き上げその勢いのままミナキを抱きすくめた。腕に閉じ込めるようきつくきつく、唯静かにきつくマツバはミナキを抱き締めている。普段とは違うマツバの行いに面食らいながらもミナキはマツバの真意を問い質そうとする。
「マツ…」
「君の起きない間は、生きた心地がしなかったよ」
「…」
「若し此の儘なら…と僕が何時も君を案じ、不安に駆られているのを君は知らなかったけれど………僕も君の不安を全て知っている訳じゃなかったね」
「マツバ」
「君を…失わなくて、本当に良かった。誕生日、おめでとうミナキ君。生まれてきて今の今迄息災で、僕の…傍に居てくれて、有り難う」
「マツバ」
「本当に僕でいいの?ミナキ君にしては欲が無いね」
だって、お前以外欲しいものが思い浮かばなかったんだ、スイクンは口癖なんだって今更言って信じてくれるのか?本当にお前をくれるのかマツバ?
言いたい事は沢山胸の中に湧き出してくるが言葉にならず、耳元を擽る癖のある金糸と首筋に埋まる頬や鼻の感触に僅か体の芯が震えながらも苦しさを覚える程の抱擁に負けず、漸くミナキもマツバの体を力いっぱい抱き締める。
痛いよ、と掠れた声で言われるが構わうもんか。おねだり一つ目が今叶ってるんだ、もっともっと、マツバが欲しいんだと言葉で行動で示すまでだ。

「もっとお前が欲しいから、私だって私をお前にやるぞマツバ」
だから頂戴?とまたねだると、ふふ、等価交換だなんて何処で覚えたの?と首筋で笑われむずがる子供の様に身を捩りながらもミナキも漸く笑ってマツバを益々きつく抱き締める。

今日はおねだりして正解だったと、ミナキは心底思っていた。






押し付けの連続です


14/12/28







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