嗚呼、伝わらない恋心


嗚呼、伝わらない恋心

 

※ギマ→レン♀
※ちょっと気持ち悪い感じのダメ男ギーマさん視点



本当に唐突な話なのであるが、私には好きなヒトがいるようだ。
ようだ、と表現したのは私自身が恋心というものを他人に抱く経験というものをまだしたことがないからである。そもそも私は恋心というものをきちんと理解しえないのだ。
私という人間は感受性がとても鈍いのである。ないとは断言はできないのであるが、これがいいとかこれは悪いとかそういう人間が感じてしかるべき感情というか感性というかそういったものを感じたとしてもそれを真に理解することができないのである。私は人から叩かれているポケモンを見たとしてもそれに対してひどいと感じる心は持っているのであるが、とりわけそれが本当に糾弾されるべき行為なのか判別できないのである。“虐待”という明確な罪状がつき、裁かれたのならば、それが悪いことだと理解することができるのであるが、そのような行為を目の当たりにした時にその行為がどのような名前がついてどのような場所にカテゴライズされる行為なのか私には全くわからないのである。誰かの裁量の上でしか私は物事を判断することができない人間なのである。だから、私は正義だとか悪だとか愛情だとかという曖昧なモノを理解することができないのだ。私は生んでくれた両親にも愛情とやらを感じたことは一度もないのである。

だからと言って私が女性との関係を人生で一度も持ったことがないというわけではない。生憎のところ人を好きになったことは一度もないのであるが、見た目も強さも地位も抜群の私を世の女性が放っておくことはなく(自分で言うのもなんであるが)私はたいそうモテた。そりゃあもうモテた。
両手に花なんて次元ではなく後ろにも前にもなんなら頭上にも花がいたというわけである。ハーレム状態が常であった。
というのも、四天王という大層な肩書を持つ男がイッシュでは私しかいないという点も私の希少価値を高めて、そういったブランドに目がない女性から私はもてはやされ、女性に困るということはなかった。まぁ、そもそも私自身、これまでの人生の中で女性に困ったという経験が全くないのである。その話を男にすると相手が激昂するのであまり言ったことはないのであるが、私はさほど必要としていないのに女性の方がわんさかと私の元へ集まってくるようだった。
私は別段、誰に対しても愛情などという理解しえない感情というものを欲しているわけでないのに、誰しも彼しもが私に対してほしくもない愛情というものを押し付けがましく言ってくるのだ。私としてはそんなものには別段なんの興味もそそられないが、それに付随してくるその場しのぎの快楽を求めてしまってそういう不健全な関係性を続けてしまっていたのだ。
私としては別段何にも感じることはないその関係性であるが、寄ってきた彼女たちにはなにがしか感じるものがあるらしくずるずると言われるままに恋愛の真似事としか思えない非合理的な付き合いというものをすることにいつもなるのだった。だが、やはり彼女たちの求めていた本物の愛というものを理解しえない私では彼女たちの理想を叶えてやることはできず、残念ながらその恋愛の真似事は長く続いたためしがないのだった。だからといって私が落ち込むわけでもなく(だって最初から求めていなかったから)けろりとしてまた寄ってきた別の女性と同じような関係に陥るという悪循環を毎度のごとく繰り返していたところ全くの不本意ながら私という人間に対する周囲の評価が四天王の悪タイプ使いというものから四天王の女たらしに変化したのである。
これまでは別段、その不本意な周囲の評価に関して別にどうとも思っていなかったのであるが、これほど痛いことはないと最近になって痛感している。

つまるところ、私に好きな人ができたからである。

最初は全く気が合わなかった。自堕落でその場しのぎの快楽に流されがちな私と清廉潔白でそういったものが嫌いそうな彼女とでは気が合うはずもなかったのである。私は彼女は他の人間と同様に興味の対象にない人物であったし、彼女にとっての私は気に食わないチャラ男だったわけである。というか、彼女の認識は未だに変わってないのであるが。

ともかく、彼女はショートを更にショートにした(ベリーショートというらしい)くすみのない金の髪に、獲物を射止めるように鋭く光る強い瞳に、滑らかな褐色の肌、私なんかよりも筋肉がついているはずなのにそれを全く感じさせないようなしなやかなすばらしい体つきを持つ彼女、レンブはある日、私のこの自堕落きわまりない不毛な人間関係をくだらないと一蹴したのである。

「お前はなぜそんなくだらないことをしてるんだ?」
「なにがだい?」
「女を取っ替え引っ替えしてるじゃないか」
「ああ、あれね。…別に意味はないよ。相手が言い寄ってくるからね。」
「意味がないならやめろ。相手に悪い。」
「まぁ、そうだね」
「それにお前も自分を大切にしろよ」

“自分を大切にしろ”、私にはとても衝撃的な言葉であった。この不毛な人間関係についてなにがしか苦言を呈する人間というものは何人か存在はしたのであるが、かけられた言葉の数々のなかで私のことを思っていってくれた言葉などひとつもなかったからである。相手にあったのは嫉妬ややっかみ、あきれに侮蔑そういった類いの明らかに敵意を伴ったものであったからである。
私はそれからレンブのことが気になって仕方なくなってしまったのである。
どん底のような恋愛もどきしかしてこなかったから吊り橋効果的にレンブのことがよく見えるのかもしれないと思ってみたりもしたのであるが、どう考えても吊り橋効果だと判ずるには私の目にはレンブが輝いて見えすぎるのだった。もう、光っているなんてもんじゃない。
レンブが何をしているのにも気になるのだ。アイリスやカトレアやシキミに向ける柔らかな視線や顔だとか勝負の時のキリリとした顔やアデクさんや手持ちといるときに見せるくったいのない笑顔なんて見た日には私は心臓が止まるかと思うほどドキドキする。ああ、笑顔だけでなく、普段私に向けられるごみを見るような厳しい視線も確かに好きだ。
なんというか、視界の端に彼女が入るだけで心臓が壊れたようにバクバクなるのだ。病気かと何度も思った。だって、こんなことになるのは生まれてはじめてだったのだから。
でも色々な文献を読み漁ってたどり着いた答えは最初の通り、“好きなひとがいる”ということだ。


「つまるところ、君が好きだというわけだ。」

だからさ、付き合ってよ、と洗いざらい話して笑って告げれば、レンブはいつもの三割増しで冷たい瞳で私を見て、険しい表情のまま私に鍛え上げた拳から放たれる殺人級のパンチをお見舞いしたのだった。


≪嗚呼、伝わらないこの恋心≫


→ちょろそうなレンブ♀さんにするはずが、ギーマさんが暴走の結果、ガードが固くなってしまった(´・ω・`)





こちらも月飛びのミスミ様のサイト四周年フリー企画のお話です。
もう、二人がどんな顔をしているかも目蓋の裏に描ける程の…悶えっぱなしでした。
有り難うございました!

14/12/30





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