おくうのあい


レベルが上がった。
別にポケモンのことではない。だから進化も新しく技を覚えるなんてこともない。レベルが上がったのは俺とデンジの関係性のレベルである。ただの友人から恋人というものへと変化したのである。
ちなみに俺もデンジも男同士である。なんでそんなことになったのかと聞かれてもどうこたえていいのやら答えに迷う。
ただデンジが俺を好きと言って俺もデンジを好きと言った。付き合うかと言われて付き合うと返事をした。ただそれだけのことである。そこには色気もなにも存在していない。
そもそも男同士でそんなことを求めるのが間違いなのだ。ましてや俺とデンジである。殴り合いの喧嘩はすれども、街中にあふれかえっているカップルと同じように人目を憚らずいちゃいちゃなどしないしできないのだ。だから、俺らのレベルの上がった関係性は所詮そんなものなのだ。
それでいいのだ、健全健全。むしろ人目を憚らずいちゃいちゃしていたら公害すぎる。俺とデンジだ。四天王とジムリーダーだ。それに男同士だ。講習の面前でいちゃいちゃしてたら気持ち悪いだけだ。デンジは面がいいから様になるのだろうけど相手が悪い。

ちらりとこたつの方に目を向ける。
俺としては少し早いかなと思っていたのであるが、デンジが昨日からどてらを着込んでガタガタ震えていたのを見てしょうがなく出してやったのだ。
冬に入ったとはいえ、まだまだ寒さもそこまでするほどじゃないのにデンジは昨日からその様子だ。俺に至ってはいつもの半袖のTシャツにデンジから借りた(といっても薄い寒いと言ってデンジは一回も着たためしはない)パーカーだけだ。こたつなど暑くて入っていられない。
デンジは俺の方に目もくれずにミカンと格闘している。
それも当たり前である。昨日喧嘩したのだ。何でかミカン片手にこたつに一緒に入ろうなどと言ってきた(寒いかの気配りだったのかもしれない)デンジと大喧嘩を繰り広げたばかりである。仲直りはしたけど、デンジは喧嘩を引きずるタイプなので今日は朝起きてから一度も俺の目を見ようともしない。俺もそれに意地を張って朝から口を利いてやってない。お互い様である。
付き合いはじめてからもそこは変わってない。
いや、逆にほぼ変わってないといった方がいいのかもしれない。とにかく変化らしい変化はないが、(強いて言うならば、デンジが俺のことをアフロではなく名前で呼ぶようになったということくらいである。)俺らは恋人となったわけである。俺の勘違いでなければ。

「おい、大丈夫か?」
「おわっ!」

長考に耽っていたからいきなり肩を掴まれて、大丈夫か?と心配げに至近距離でデンジに覗きこまれて心臓が飛び出るかと思った。俺は朝からの意地も何もかも忘れて普通に、大丈夫大丈夫と返事をしていた。デンジはそれを見ていつもの読めない表情でそうかと言った。
恋人になったが、こいつの思考回路はさっぱりである。親ですら読めたためしのないこいつの頭の中を理解するのには骨がおれるのだ。

「なんかようか?」
「今日の夕飯なに?」
「…鍋だよ鍋。最近さっみぃじゃんか。こたつはいらんがな」
「…買い出しは?」
「まだだけど?」

それがどうしたと言うとデンジはふん、と言ってどてらを着込んだままこたつに戻っていった。それが新種のポケモンみたいで可愛いと思ったのは付き合い出したせいで頭が毒されているからだと思う。

・・・・・・・・・・・・・・

つまらんワイドショーを二人で無言で見ていたが、それにも飽きてしまったのでそろそろ夕飯の買い出しにでもいこうかな、と思いながら立ち上がると同じく飽きたらしいデンジもこたつから這い出して素早く準備をすると玄関から出ていった。冬はほぼ冬眠状態のデンジには珍しく出掛けるらしい。
なんか急な用事もあるんだろうか、と思いながらのそのそと準備をして(といっても、ジャンパーを羽織って財布を取り出すだけなのだが)玄関を出ると何枚着てんだと突っ込みたくなるような格好をしたデンジがいた。

「あれ?用事は?」

どっか行くんじゃないの?と問いかけるとデンジは相変わらずの無表情でお前と買い出しにいくと言った。なんか買いたいもんでもあるんだろうか、と首をかしげるとデンジはムッとしたようにさっさと行くぞこのアフロといった。

ナギサの街はちらほらと雪が舞っていた。おお、冬じゃんとなめくさっていた己を少しだけ呪った。首もとが寒い。
ちらりとデンジを見る。マフラー貸してくれないかなと視線で訴えてみるとデンジはひとつため息をついて俺にマフラーを巻いてくれた。

「え?いいの?」
「いい。」
「デンジ、寒くねぇの?」
「寒い。」
「じゃあ、」

俺いいからと言おうとしたらそれを遮るようにいいからと言われた。何でだよ、と食い下がろうかと思ったがデンジがああまで言うってことはいいってことかなと思いなおして口を閉じた。

「なら、借りとくわ。ありがとな。」
「別にいい。早く行くぞ。寒い。」
「そうだな。」

首もとが暖かい。
紺のマフラーを身に付けながらにこにこ笑う。なんか恋する乙女の発想で思っててキモいが、デンジの匂いがするのでデンジに暖められている気分である。
そんな俺の気を知ってか知らずか、デンジは両手をポケットに突っ込んだままずんずんと俺の前を進む。
いつもなら手を出しているデンジが珍しくポケットに手を突っ込んだままなのが気になって少し離れた距離を詰めて問いかける。

「デンジ。手、どうしたんだ?」

さみぃのか?と問いかけた俺にデンジは少し赤くなった鼻をすすりながら、頷いてポケットに放りっぱなしの手を出して見せた。寒い寒い、と言いながらもデンジは素手だった。

「手袋は?」
「どっかのアフロに捨てられた」
「あ、マジで?俺捨てたっけ?わりぃ。」
「悪いと思うなら、お前が暖めろ」
「は?」

手袋なんか持ってないけど?と思って、買えばいいのかと告げるとデンジはムッとしたように顔をしかめて、舌打ちをひとつ落として、俺の手をつかみ、そのまま歩きだした。

雪の降りしきるナギサを手なんか繋いで歩く四天王とジムリーダー。
完全に不健全な公害であるが、その手を振り払うことは俺にはできそうもなかった。
おいおい、といきなりのことに驚いたと言うのも確かにあるが、デンジからのわりとはじめてのスキンシップに喜んでいるのだ。おお、レベルが上がったと他人事のように思った。

「今日は水炊きの気分だ」
「お?おお。別にいいけど、デンジあんま食わないじゃん水炊き。」
「今日は食べる」
「嘘つけ。そういって前も食べてなかった」
「オーバが食うからいいだろ。」
「それもそうか」


たわいもない会話にしっかり繋がれた手。すれ違う人々から送られてくる奇異の目にさらされながらもそれが気にならない。
これが恋人ってことだな、とデンジに同意を求めようとして、デンジを見る。
そこでデンジが寒さのせいだけじゃなくて耳まで真っ赤なのを発見してどうしようもなくにやける口許をデンジから借りたマフラーで隠すのだった。






ミスミソウ様のサイトのキリリクで付き合い始めた二人と言うリクエストをさせていただきました!そしたらデンオが、デンオを頂けました!もう…最高だ、これからもどんどんレベルあげてっていただきたい二人です、本当に有り難うございました!


14/11/12








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