やっぱり貴方がひとり勝ち


「レンブ、僕と勝負してくれないか?」

四天王という職業柄好む好まざるにかかわらず、どうしても人とポケモンバトルをする機会というものは多い。だからこそ、リーグ内で四天王同士、チャンピオンと四天王がポケモンバトルするということは少ない。ポケモンバトルが好きで仕事をしているという人間は多くいれども、やはり勝ち負けというはっきりした結果が出る勝負事をおいそれと職場でするものではないし、ほぼ一緒に暮らしているようなものなのだからリーグでの人間関係に支障をきたしては困るということでリーグ内での四天王、チャンピオン同士のポケモンバトルは相当なことがないとしないということになっている。
規則としてそうなっているわけではない。暗黙の了解としてそのルールというものが存在しているのだ。私としてもそのルールは大いに賛成だ。私も人とバトルをするのは好きであるが、やはり勝ち負けのつく世界であり、リーグにいる面々はそれぞれとても負けず嫌いだ。仲間内で勝ち負けがするものをしてギクシャクはしたくないのだ。それゆえ、リーグ内ではトランプもあまりしない。他のリーグはどうなっているのか知らないが、私のいるリーグでは勝負事を避ける風潮というのが確かに存在していた。
なのに目の前のこのギャンブラーの男は暗黙の了解というものをあっさりと破ったのだ。

「どういうつもりだ?」
「どういうもこういうもないよ。僕はただ単に君と戦いたいから、戦わないかと誘ったまでだ。」
「私はそんな誘いには乗らないぞ。」
「まあまあ、そんなこと言わずに。僕だって何もただで君を誘おうなんて言わないさ。」

怒ったように(実際怒っている)眉を寄せた私に対してギーマは諭すように言った。その含みを持たせるような言い方に一層苛ついた。なんだか自分がケチだと言われているような気がしたのだ。
そもそもその頃の私とギーマはとにかく折り合いが悪かった。
規則を守れとうるさい私と規則なんか知ったこっちゃのギーマであるから折り合いが悪くてしかるべきである。ギーマは私のそんな性格も見越したようにニコリと笑ってから、一度だけでいいからと言った。

「それでもう二度と誘わないから。僕が勝ったら、僕と一緒に食事にでも行こう。君が勝ったら君の言うことをなんでも聞く。」

それでどうだい?とさも自分はまけませんよと挑発するように言ってきたので、自分の中のもうなくなったとばかり思っていた闘争心というものがむくむく頭をもたげてきて、むっすりとした表情のまま答えた。私の元来の負けず嫌いな性格が災いしたとも言ってもいい。

「…いいだろう」

私の答えを聞いた瞬間ギーマはいつも獲物を狙うように鋭く尖らせている瞳をキラキラと輝かせた。それを見て私は心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。思えば、その時から私はギーマに惚れていたのかもしれない。
まあ、結果から言うと相性的に勝つと思っていた私は接戦の末に敗れた。それで私はギーマと食事に行くことになり、そこから奴の思うままにあれよあれよという間に仲良くなり、今では完全に友人と言えるほどの仲になった。
ただ、私がギーマに抱いている感情は友情でもなんでもなかったのである。

私は恋愛感情からギーマのことが好きだ。

いつ自覚したのかとんと忘れてしまったのであるが、気付いたら好きになっていた。もとより人よりそういうものにとんと疎かった私がそれに気付くまで時間がかかったが、気付いてしまったらもうその感情を止められそうもなかった。格闘家は直情的なのだ。例にもれず私も直情的である。
なんだかんだと視線が気付くとギーマを追っているし、話しかけられるだけで機嫌がよいし、隣にいるだけで馬鹿になったくらい心臓の音がうるさいのだ。
だから、この隠し置かなければならない気持ちをいつまでも隠しておくことはできないと判断せざるを得ない。一緒にいればバレる可能性が高いので私は自分のこの感情を消し去ってしまうことに決めた。私だって自分のような男が自分を好いているとわかったら気持ち悪くて仕方ないのだ。ギーマが同じ気持ちであるに違いないのだ。
だからこの感情がバレてしまう前に早く奴との付き合いをやめておく必要があるのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・

なんだかんだと私も奴も忙しくて二人きりになる機会というものは早々ない。あるとすれば、週末くらいである。他はだいたいリーグでの仕事にかかりきりになってしまうので、二人きりで出かける機会というものはなくなるのだ。別に私としては皆がいる前でそういう話をしてもいいのであるが、理由を知らないだろう他の面々に迷惑と心配をかけてしまうのは忍びないので、やはり言うのなら二人きりの時がいいと思うのだった。
そして週末になり、やはりチャンスというものは訪れるのだった。
いつものようにギーマが私のことを食事に誘ってきたのだ。
翌日が休日であるからギーマはいつも私のことを食事に誘ってくれるのだ。にっこりと笑って私の方へ恭しく手を差し伸べて、お姫様どうぞ、なんていう冗談を飛ばすギーマに対していつものように馬鹿かお前は、と返してから、はたと今がそのチャンスではないかと気付いてギーマについていこうとした足を止めて立ち止まる。

「どうしたんだい?」

怪訝そうな顔をしたギーマを無視して、私はぐっと拳を握りしめて睨みつけるように奴のことを見た。奴はいつもの不敵そうな笑みを崩すことなく、何か気に障ったことでもしたかい?とどこまでも優しい言葉を私に投げかけた。私はそれに一つ首を振ってから、じっと奴の目を見てずっと考えていた言葉を投げかけた。

「ギーマ、私と勝負しろ。」
「うん?」
「…私が勝ったら絶交だ。」

ギーマは私の発言にいつもの不敵な笑みは忘れてしまったように一瞬だけぽかんと間の抜けた面をさらしてから、爆笑した。私の本気を茶化す気かと少し機嫌が悪くなった私に気付いたらしいギーマは笑いながら、違う違うと言ってから続けた。

「いや、予想外だったからね。君は本当に面白い」
「…で、するのかしないのか?」
「勝負?」
「そうだ」
「うーん、そうだな。ただではできないな。僕にメリットはあるのかい?」
「ないな。」
「…考えてなかったんだね。」

全く君は可愛いんだから、と目が腐っているとしか思えない発言をかましたギーマはいつかのようにキラキラと目を輝かせて私のことをじっと見た。私はそれで鼓動が早まるのを感じていた。やはりギーマは勝負をしている瞬間が一番かっこいい。

「僕が勝った時の条件は僕がこの場で決めていいのかい?」
「ああ。」
「僕が勝ったら、このまま食事に行こう」

素直に頷いた私のことをもの珍しそうに見たギーマは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて私に条件を突きつけたのだった。それに対して私がいいだろうと頷いたのを見て、どこか嬉しそうな顔で困ったように眉を寄せてから、やっぱり訂正させてくれと口にした。

「は?」
「ごめん。僕はもっといい条件を思いついたんだ。」
「は?」
「君が僕らの関係性を変えるような条件を出してきたんだ。僕もそれくらいの条件をださないとフェアじゃないよね。」

うんうんと独り納得した様子のギーマはにっこりと何がそんな嬉しいのか笑って見せたので、一回くらいならいいぞと私も許可を出した。そうしたら、ギーマは何を思ったのか、君も一回なら条件変えていいからねと口にした。条件を変えるわけないだろ、とあきれながらはいはいと適当に返事を返すとギーマはどういうわけか私の両手を掴んでその条件とやらを口にした。

「レンブ、僕が勝ったら僕と恋人同士になってくれるかい?」

ああ、そんなこと言われたら勝負をする前から負けたようなものではないか、と私は顔を真っ赤にさせてこういうのがやっとだった。

「やっぱり、私の条件も訂正させてくれ・・・」



《やっぱり貴方がひとり勝ち》





月飛びのミスミ様にキリ番3553hitでリクエストさせていただいたギマレンで、ギーマに片想いがバレていてもう逃げられない状況で観念するレンブと言うお題でした。
レンブさん、貴方乙女ですか?直情的にもほどがある!どれだけギーマさん好きなの?なにこのギーマさんイケメン!と萌えとにやけと悶えの病まないお話に堪らず興奮しまくっていました。
お怪我なさっていたにも拘わらず仕上げていただき本当に有り難うございました!





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