頼むから、待て(六花様1万HTi)


私と彼の関係が少しばかり違う路線に変更になったのはそう遠い昔の話ではない。
でも、だからと言って何が変わったとか特別何かをしなければならなかったとか、と言う事は一切無かったしこれからもないだろう。私とマツバはそう言う親しい間柄で、その親しいと言う意味が若干別の意味をも併せ持っている、ただそれだけだ。
なんだが…

最近マツバが少し可笑しい…気がする。

*

私とマツバはお互いの交友関係から見ても極親しい間柄と言われる部類に入る知人、と言うか古馴染みだ。互いの人生の四分の一は一緒にポケモンバトルしたりエンジュの町を遊びまわり、人生の三分の一は寝食を共にし人生の半分以上は面識のある、ありきたりな表現をすれば親友と呼ぶに相応しい友達だった。
過去形なのは別に喧嘩別れしたとかどちらかがこの世に居ないとかそう言う事じゃない、私とマツバの関係が若干変わり親友と言う言葉だけで括る事が出来なくなったからだ。

最初に述べたとおり、私とマツバは親友から恋仲、と言う間柄に進展したのだ。その際のやり取りは詳しく思い出さないがお互いの関係から延長的にそうなった訳ではないし、そんな雰囲気や流れがあったかと聞かれるとあった、とは全く言えない。
そんな突拍子もない時に素っ頓狂な感じでお互いの間柄が変わり私は大分混乱したものだった。その混乱の極みをもたらしたマツバ本人は外見上全く変化も無しに私の慌て焦り、混乱する様を楽しんでいた(様に私には見えた)くらいに余裕があったのか、何時までも混乱していられないと意識をしっかり持つ事にした。つまり、切り替えたのだ。
解らない事に何時までも悩んでいる時間は私には無い。何たって私はスイクンを追い求め続けなければならないのだ、些細な事、どうしようもない事は些事として切り捨てなければならない事だってある!常にそう考えてきたじゃないか、落ち着くんだミナキ、お前なら出来る………よし、大丈夫だミナキ!

と前置きはこのくらいにしておいて本題に入ろう。私よ、落ち着いて考えるんだ。

マツバは確かに変わった奴だ、

エンジュのジムリーダーと言う肩書きを考えてもオカルト過ぎるところや事なんか数え切れないくらいあるし、時々人間やめそうだし人生の終止符を打ちたがったりするし、よく塞がるし気が滅入るし目に生気無くなるし…とまあ考えるとキリが無いがそれでも私にとっては大切な古馴染みで親友で……恋人だ。
そんなマツバは私に対してはかなり雑な態度と言うか、私はひとつの事に集中すると周りが見えなくなるタイプなのでそれを制止する為にはアレくらい過激な方法を取らざるを得なかったんだろう。それは解るし私を押さえる上での扱いに長けたマツバならではの方法だったんだろう。
スイクンの話しに熱が入りすぎて真夜中迄スイクントークをかましたある時は顔面にお茶漬けが飛んできたり、マツバの話を聞かずにドロドロのずぶずぶの格好の儘熱も冷めやらぬ調子でスイクンが、と言おうとした瞬間流れる手付きのバックドロップを喰らい、調子に乗って大怪我しかけた時はラリアットで庭の池に落とされその他様々事をやらかしてはマツバのサブミッションの餌食になってきた。
解ってる、全部自分が悪いのだ。お陰で関節技には若干耐性がついたし受身も取れるようになったし空気も読めるようになった。マツバの卒塔婆も墓石も三回に一回ならかわせる様になって…いや、こんな成果を嬉々として考えている時じゃない。
ミナキ、可笑しいと言うのは今挙げた状態の事じゃない、マツバが……マツバが、
私に、優しすぎると言う事だ!!

まず、お茶漬けを投げられなくなった。これは私も時折時間を見て考える癖をつけたからで、別に何も不思議じゃない筈なんだが前までは何かあればマツバがお茶漬けの準備をしてたのに、それどころか最近はお茶が出てきて「喋り疲れたら一息入れたら?」とお茶菓子迄セットしてくる始末…どうした、マツバ!

次に、サブミッションをかけてこない。何か私が調子に乗ったり行き過ぎた真似をすればゲンガーやゴーストポケモンも真っ青なくらいに気配を断ち背後を取って私を3カウントノックダウンしてきていたマツバが全くそんな事をしてこない。眉を顰めたりやんわりと声で諭してくる事が多くなった、普通はそう言う風に諌め、窘めるだろう。だが、その程度じゃ私は止まらないとマツバは知ってる筈なのに…何があったマツバ!?

卒塔婆も墓石も、モンスターボールも投げてこない、それどころか無茶をした私を気遣う言葉ばかり投げかけてくるしほうほうの体でエンジュに戻ってきた私に小言に一つ言ったかと思えば直ぐに労ってきたり湯を勧めてきてくれるし、風呂から上がれば服は洗濯されてるしお茶や食事は出してくれるし、それを口にしている間ずっと傍に居てくれるしぽつぽつと零す私の話を頷きながらちゃんと聞いててくれる。
否、今迄もしてくれていたにはいたが、此処迄まめな態度ではなかった。意外とぞんざいで、足で指示してくる事もあったのに今まるで天と地の違い……

一体全体如何したんだマツバぁあ――!!!

「如何したのミナキ君、百面相して」
卓袱台に肘をついて頭を抱えるミナキを正面から覗き込んでくるマツバは心配げな顔をし、声を出す。
そのお前の態度について悩んでいたんだ!と声を張り上げる前にミナキはマツバの顔をしかと覗きこむ。マツバが入れ替わった訳ではない…筈だ。マツバ以外のマツバなんて見た事ないし、と何だか訳の解らない推論を展開し始めたミナキはかなり混乱してきているようだ。
そんな自分の態度を棚に上げ、ミナキはマツバに思い悩んでいる事を打ち明けようと口を開いた。さっき述べた様に、私は長く思い悩む性質ではない。悩みは解決できる時に解決するのはモットーなのだ、それゆえ、何とも聞きづらいと感じているこの問いも何とか口にする事が出来たと思っている。
「マツバ…」
何?と聞き返してくる声も心なしか優しく聞こえる…マツバ、どうしちまったんだ?
「私、何かお前の気に障る事をしてしまったか?」
だからそんな…今迄通りじゃない態度になったのか?そう続けると、マツバはきょとん、とした顔で
「否全く?」
なんて簡単に否定した。おい、えらくあっさりした返事じゃないか!
何で?と全く解っていないマツバにミナキは自分の考えを少しずつ伝えていくがマツバの答えはミナキに微妙に納得が出来ないものばかりで。

「最近お茶漬け投げてこないし」
「必要なかったらぶぶ漬け投げたりしないけど?」
「サブミッションしてこないし」
「それもお仕置きする必要が無ければ、普通しないんだけど?」
「それは…反省しているつもりなんだぜ…」
「だから必要ないんだって、君だって馬鹿じゃないんだからちゃんと反省して治してるんならバックドロップも逆海老もロメロスペシャルも要らないんだよ」
「卒塔婆で叩いてこないし墓石もモンスターボールも殆んど投げてこなくなったじゃないか!」
「卒塔婆で叩く程の怨念も墓石を投げる程の怒りも憤りも呆れもないし、第一、モンスターボールは君が僕に勘違いさせたから投げたんじゃないか。君が夜中にピンポン連打なんかするから、悪戯しに来たポケモンだと思ってボール投げたんだよ?よく見たら君だったし」
アレは痛かった、でも深夜テンションの私も確かに悪かったが、
「あの後何度か投げてきたじゃないか!」
と食いつけば
「ボールに収納すれば大人しくなるかと思ってたんだけど…人間は入れられないから諦めたよ」
なんて本気の顔で言われた。こいつ…私を持ち歩くつもりだったのか??
顔に大分出ていたみたいで、マツバは今はそんな事しないよ?と先程の諦めたと同じ意味の言葉を繰り返しながら私の頭をぽんぽん叩いて、
「ま、あの夜は興奮しきっていたんだろうけどさ。もう同じ事してないんだし、いいじゃない」
なんて言って来た!ホラ来た!!
「ほら此れ!」
「はい?」
「前はもっと愚痴愚痴言ってたのに、最近はちょっと言ったらすぐ慰めたりいい方向にシフトしていこうとする!」
「何、愚痴愚痴してほしいの?ミナキ君ドM?」
「そうじゃない!!なんか急に態度が変わったみたいで、こう、なんだ?納得がいかないんだ!」
「別に急って訳じゃないと思うけれど」
埒の明かない会話の展開にミナキは、ミナキ本人としては核心的と思っている事を言い始めた。

「私がお前の家に帰ってくるだろ?」
「なにさ、藪から棒に」
いいから聞け、聞いてくれよとミナキに言われ、黙ったマツバにミナキは続ける。
「そしたら、何時も風呂を勧めてくれるだろ?」
「そりゃ仕立てのよいスーツや外套や靴、常日頃はきっちりとまとめられている頭髪迄酷い泥だらけだったりびしょ濡れだったり埃に塗れてたら、誰だってお湯を使う事を勧めるよ?」
「…ま、まあそうかもだけど、その時だって前はもう少し素っ気無い態度だったのに、最近奇妙に優しい気がするんだぞ!」
「……そう言う風に見えてた?」
「そうだったじゃないか!それなのに、急に優しくされたら普通戸惑うぞ…私がなんかしたんじゃないか、とかお前に何かあったのかとか…色々考えて、悩んでたんだよ」
事の深刻さをアピールしながら、口に出しつつ埒の明かない話し合いの中でもまた思い悩みそうになりミナキは考えを切り替えようと頭を左右にぶんぶん振っていたが

「なんだ、そんな事悩んでたのミナキ君」
あっけらかん、としたマツバの声に、なんだってなんだ!私には凄く重要な問題なんだぞ!!とミナキが噛み付くと、マツバは笑いながら
「そんなの簡単だよ」
等嘯く。
「か、簡単に説明がつくのか!?」
うん、簡単極まりないよ、と笑いながらマツバはあっさりと
「そりゃ君が僕の恋人だからに決まってるじゃない」
なんて事を言い放った。

……………はい?

混乱極まる、と言った顔をしているミナキを他所にマツバはつらつらと一人話し続ける。
「だって、好きな人に優しくしたりその人をむやみやたらと甘やかしたくなるのって当然じゃない?念願かなった相手なら尚更だよミナキ君」
ねんがんかなったあいて?
「やっと君を面と向かって甘やかしたり、愛しいと言祝いでいけるんだ。そう言う態度が無意識に出ていても可笑しくないでしょ?」
むいしきにあまやかしたりやさしくしても、おかしくない?すきだから?
「僕は前から結構そんなつもりで接していた気だったけど、なんか照れ臭くて。それが表に出てたのかも」
……それって、わたしのことをいってるのか?は、え、えええええ!?!?!?!
「それだけだから全く問題は無いよ?」
もんだいない?……そんなこと、、、あるかあぁあ!!!!


*


私はマツバと違う、

オカルトには疎いし人間をやめたいとは思わないし、気分が塞いだりも滅入ったりも増してや人生に終止符を打とうとも目に力がなくなる迄何かに絶望したり悩んだりする事もない。でも、今

今初めて私はマツバの前の前から消えてしまいたいと思った。恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだ。だが近くに穴は無い、穴が無いから腕で顔を頭を隠し卓袱台に突っ伏して隠れたフリをするしかない。
マツバの笑顔が眩しすぎて、マツバの柔らかな声音が耳を擽るのが堪らず胸の中を熱く、口から飛び出す言葉の数々が羞恥心を湧き起こし掻き立て、私を悶えさせてくる。
マツバ、もう止めてくれ、そんなに堂々と私の前で私の事を愛しいと言わないでくれ!

頼むから、少し待て、待ってくれマツバ!!


私に心の準備をさせてくれ!





六花様のリクエストでマツミナでミナキを直接でもこっそりでもあまやかしたがりなマツバでした。
出来てる…といいんですが。大変お待たせしたしすっごく書き直したし、ミナキ視点でお送りしたから思ったのと違う、等ございましたら六花様遠慮なくどうぞ!!この度リクエスト有り難うございました!

14/10/12





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