我がもの顔のしたり顔(ウチこしさんへ誕生日祝い・ズミガン)


足音高く、背後から私を追ってくるその人が誰かなんてここに勤める人で解らない者はいないだろう。
声を掛けられる前にその人は私の肩を押さえ、自分の方に向かせる様に掴む肩に力を入れて腕を引き

「ず、ズミ殿、先の発言は如何お考えであるのか!?」
と開口一番悲鳴の様に叫んだ。

「どうって、知れた事です」
なんだ、そんな事か。と拍子抜けしながらも、言葉を飾る事無く端的に述べた。

「貴方が私のものだと、あの方に宣言しただけの事です」
さっきのあれか。どうにも女性に言い寄られ、秘密と言うつもりはなかったが彼が恥ずかしがるのでリーグ内のみに伝えていた事をその女性に面と向かって言ったのだ。

『私はこの人とお付き合いしているので、貴女と関係を持つ事は出来ません』
そして、彼がやっかみを買うといけないので
『この人に手を出したら、ただで済むと思わないで下さい』
とも付け加えたら、その女性も泡を食っていたが何よりも驚いて顔を真っ赤にして、腰を抜かさんばかりにしていたのは他でもない、ガンピさんだった。
何故そんなにも驚く事があるのか、全く持って理解出来ない。

「なんと大それた…」
我は眩暈が止まらぬ…と大袈裟な態度で眉間を押さえる頭を左右に振るガンピさんは
「其方、自分の立場と我との関係を解って発言なさったのか?」
と私を問い質してきた。立場?はて?なにか今回の事と関係があるだろうか?
「この国には同性同士の恋愛を罰する法律はありませんよ?」
「そうではない!こう…外聞というものがあるではないか?」
「その様な些事、全く気に留めていません」
「ズミ殿!」
「私の仕事においての地位と責任に、私個人のプライベートは関係ありません」
それ故、
「貴方と恋仲であると言う事が仕事に関係し私のマイナスになる等と言う事は有り得ません」
「ズミ殿…なぜ貴殿はそう自分の物差しだけで計ろうとなさる。我は世間一般の事ではなくその、我の考えをもう少し汲んでいただきたいと」
「貴方が私をどの様に捉えているのか、今その議論をする気はありません」
ぴしゃり、とガンピの話の出鼻を挫くズミの一言にガンピは僅かに肩を竦め、眉根を下げる。年長なのだからもう少し強気に出てもいい筈なのに、彼は優しいのかそれとも私に譲歩しているのか、私が言葉を重ねればあまり畳み掛けてこない。遠慮しなくても良いと常日頃言っているのに…この人は

自分の意見と私の意見が平行線である事に気落ちしたのか、しょんぼりと肩を下げ俯いたガンピの頬に両手を添え、ズミは唐突に囁く。

「ガンピさん、貴方はこのズミのものです」
「!?な、なんとその様な事いきなり、この様な場所でっ」
「黙って聞いてください」
「う…」
話の腰を折らせず、ズミは頬の紅潮冷めやらぬガンピに続けて囁く。
しかし、
「貴方が私のものだと言う事は、逆も然りだとはお気付きになられませんか?」
「え?」
「ズミは、貴方のものなのですよ?」
「ズ…ズミ殿?」
先程とうってかわり棘の落ち始め柔らかさを覚えるようなズミの物言いに、首を傾げ始めたガンピに
「何故今日この様な事をズミが言うのか、お解かりになられていないようですね、ガンピさん」
とズミは尋ねた。
「今日…え?」
ああ、やはり忘れていたか…想定内の事に然程怒りや苛立ちは覚えなかったが、最早口癖になった言葉を口の中で放ちつつもズミはなるだけ優しく、心を込めてガンピを言祝ぐ。

「お誕生日、おめでとうございます」

「…ああ、そうであった。つい失念しておった」
「この痴れ者が!自分の誕生日をつい、で忘れる人が何処にいますか!」
「ズミ殿だって人に言われなければ忘れておるくせに、我にだけ怒るのは卑怯である〜」
私はいいのです、と自分を棚に上げながら僅かにはにかみはじめ緊張の解けてきたガンピに愛しさが募りきり、ズミの口は日頃よりも流暢に愛を歌う。

「Mon cheri.Je t'aime plus que tout.」
愛しい人、何よりも貴方を愛していますよ

そうそう言われる事の無い言葉に目を丸くし、顔を真っ赤にしたガンピはただただズミの名を呼ぶしか出来ずにいる。
「ズミ、殿…」
「貴方の生まれた好き日に告げずに如何するのです?」
こんなに好い日に貴方を言祝がずして何時言えばいいのですか?と尋ねれば観念したのかガンピさんは大人しく腕の中に納まりごにょごにょと何か言っている。
「…かたじけない」
「言うべき言葉が違いますよ」
「……有り難う、ズミ殿。貴殿の心、とても…嬉しく思う」
よく出来ました、と言わんばかりに腕に力を込めると更に耳が赤くなった気がしたが構うものか、このズミを本気にさせたのだ、精々自覚してもらわなければ割に合わない。
だが何時も逃げてばかりのこの人を今日と言う日に託けて目いっぱい恥ずかしがらせ、喜ばせるのも一興だろう。
とよく解らない納得をしながら、ズミは白昼堂々の抱擁を暫く止めようとしなかった。



「でも、色々もう少し場を弁えて言って欲しかったのである」
「くどいですよガンピさん」





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