愛すべき×××(かむとさんリクエスト、デンオ)


「デンジー、アイス買ってきてやったぞー」
そう言いながら勝手知ったるデンジの家にお邪魔するオーバは、それこそ実の弟の人生よりも長い間付き合っている幼馴染の腐れ縁の男、デンジが休日のこの時間に何処で何をしているかなんて解りきっていたのでサンダルを脱ぎ散らかしながらデンジの部屋へ一直線に向かった。

「おーい、生きてるかー?」
そう声をかけた先で腐れ縁兼幼馴染のデンジは想像通りの格好で伸びきっていた。設計図や組み立て途中のメカを器用に避けながら、どうにか涼を得ようと日陰へ日陰へとイモムシの様に床に這い蹲っている。寧ろエアコンをつけろ、扇風機を回せ。そう何度も言ってるのにやれ設計図が飛ぶだの僅か風で部品が転がるだのと、言う事を聞いた試しはない。
「ん…あちい」
そりゃそーだ、そう言いながらデンジの腕を掴み引き起こしてやると確かに熱の籠った体にまたカンヅメしてやがったなと頭の中でだけ悪態を吐き、口からは小さく気付かれない程度の溜息を零しながらデンジの腕を握っていない手にぶら下げられているビニール袋の存在をさもさもと言わんばかりにデンジの鼻先に突きつけた。

「ほれ、アイス!」だからしっかりしろ、とでも言うんだろうか…等とデンジが考えたかどうかは解らないが、虚ろな眼差しを床に向けていたデンジの焦点は次第に鼻先のビニール袋とそれを携えるオーバに合わせられていく。
「……あー、アイスか」
「アイスだ、よし食うぞ。ほら部屋から出る」
と言いつつもオーバはもうデンジの腕を引きながら熱の籠りっぱなしで息苦しいデンジの部屋を体半分は出ている。こんなところにいたら俺なんか半日もたねーよとかなんとか戯言を言いながらデンジが描き掛けの設計図や組み立て途中の機械に気を取られないようにそらしつつ、サウナの様に茹だったデンジの部屋を二人で無事に脱出した。

*

「なんでソーダバーなんだよ、」
リビングに引き摺りエアコンの風を浴び水を飲ませ、なんとか朦朧とした意識を飛ばしてやったデンジは開口一番こう言った。うん、流石デンジ言うと思ったよ
「安いし半分こ出来ンだろうが」
「いや…お前その半分苦手だろうが」
「今年こそ出来る、今年のオーバさんは一味違うんだぜ」
「…毎年言ってねーか?それ」
「オーバのオーバーヒートが火を吹くぜ!」
「いや、止めろ。アイスが台無しじゃねーか!」
甘くてべたつく水なんか生成しなくていいんだよおいオーバ!そう声をかけた時には既にオーバはオーバーヒートを発動しアイスの棒を泣き分かれさせていた――

「ほんと、一味違ったわ」
「最高記録だぜ…くそ」
俺の手に握られているダブルソーダバーは一本と1/2個分、対してオーバの手に握られているソーダバーは上半分が丸見えでしかもハズレと焼印が押されている。オーバ、お前期待を裏切りすぎて面白すぎるぜ?と隣に腰掛けるオーバに目線だけで伝えてやると、拗ねているのかあからさまにオーバは視線をそらした。

「次からパピコにしろよ、どんな人でも上手に半分こに出来る」
「次からオーバは生まれ変わるんだ!アイスを半分に出来る子に生まれ変わるんだよ!」
「俺に割らせろと何時も言うのに、何でお前は率先して割りたがるんだ」
「だって、俺がアイス食おうって誘ったんだから俺が割るのは当然だろ?」
「その理屈が当然じゃねーよ」
俺のとっては当然なんだよとぶちぶち呟きながら、オーバは惜しむ様に半分しかないアイスをしゃりしゃりと齧っていく。
そして唐突に変な事を呟きだした。
「デンジ、お前は確かにだらしない奴だ」
「うっせー、今更だろが」
「でもお前が頑張ってるのは半分は自分の為でも、残りの半分はナギサの為だ」
「…」
「だらしなくて変人で、とんでもなく駄目な奴ででも、お前はすっげぇいい奴だ。それは俺が保障する」
お前の保障ってなんかこえーな、と思った儘口にするとイイところなんだから口チャックしとけ、と何故か釘を刺される。いい話のつもりなのか?意味が解んねー。
「そんなお前を気遣うのに理由はいらねーって事、だ。うん、オーバさんの理屈は正しいんだ」
そう自己完結したオーバは溶け滲み出したアイスを一息に口に頬張ってうんうん、と何かに納得している。口チャックしながらも食べ進んでいた俺の手元には残り1/4程のソーダバーが残されていて、若干溶けかけている、今の俺の頭の中みたいに中途半端に溶けている。

「なぁ、オーバ」
「ん?」
「オーバも馬鹿で変だよな」
「うっせー、オーバさんは普通だ」
全然普通じゃねーよもじゃもじゃ、とアイスの棒を惜しみながら口にくわえているオーバに言えばもじゃもじゃじゃねえ!と的外れな反論をしてくるあたり、やっぱりオーバは馬鹿で迂闊な奴なんだと思った。
「こんな暑ぃ日に態々俺の家にアイス持参で来る馬鹿はオメーしかいねぇよ」
「だから、普通だってそんなの」
「だってもなんでもかんでも、お前しかいねーんだよ。オーバ、お前だけなんだって」
俺の面倒看ようなんて、俺に気遣おう何て、俺の事をこんなに考えているなんて

お前だけだ、

その言葉を発した時に、溶け出し滴り、べたつく水色の液体が手首まで滑り、滴になって足の甲にぽつっと落ちた。たったそれだけだ、それだけの事だけど、それがすべての事を繋げる切欠だった。

そうだオーバ、
お前は気付いていないだろう。でも俺は気付いた、この感触を、この知覚を逃す事が出来る程俺は鈍くない。

「オーバ、今取って置きの事に気が付いた」
溶けかけ丸みを帯びたアイスを口に入れながら、思う儘に口を動かす。言葉を選ぶなんて考えつかない程、一度冷えた筈の頭が熱を帯びている。

「俺、お前が好きだわ」
「あー俺も俺も」
「そーじゃねーよ、内股叩くぞ」
何だよその脅し!アイスの棒をゴミ箱に投げつけながら叫ぶオーバは実は微妙にコントロールが悪い。その証拠にアイスの棒はゴミ箱の縁にぶつかって床に落ちた。
くそ、外した。
俺の言葉が日頃の戯言や口慰みの意味の無い言葉と片付けているらしいオーバがソファーを立とうとした瞬間、座面についた腕を俺は捕まえて。ぐ、と引き寄せて……

熱い、冷たい、やっぱり熱いの感覚が交互に襲ってきて、甘酸っぱい味なんかしやしなかった。食ってたアイスの味だけだ。後、なんと言えばいいか解らない充足感。でも屹度なにもかも解っちゃないオーバは唯唯、コイキングみたいに真っ赤な色して口をパクパクしてる。

「な、…んな、な」
「ただの好きじゃねえ」
ダチどころじゃねえ、なあオーバ
「こんな事が出来る程に、お前を愛してる」
でもオーバ馬鹿だから伝わんないな、

ああ、こう言えばいいんだ。オーバ、お前は愛すべき―





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