キリ番リクエストオマケ


※キリリクのオマケとして頂戴した作品です。


※ズミ→←ガン
※ズミさん視点
※花吐き病ってのが流行ってるらしいので


片思いをこじらせて花を吐くという奇病が世の中には存在している。
最初にそれを知った時、恋心という目には見えない心の機微というものが花弁となり体外へ放出されるというプロセスが擬似的な告白行為のように思えた。その花を吐くという擬似的な告白行為は押さえがたい恋心というものの象徴のようでひどく美しいものに感じていた。両想いになる以外に治療法がないそれは言っては悪いがある種の脅迫にも似たものを持っていた。
花を吐くという擬似的な告白行為の異様さと両想いにならなければ治らないという強迫性はアバンギャルドで暴力的なモダンな芸術のようであった。例えるなら、絵の具を撒き散らすことで感情を表現している絵を見た時のような感覚だ。
甘酸っぱい感情がもたらす甘美で儚げでいて、その中に凶悪さを潜ませている優美な病。それが私が抱いていた花吐き病という奇病に対するイメージだった。

だが、実際にはそんな優美さなど欠片も存在してはいなかった。
ただただ苦しいのみだ。次から次へと沸き上がってくる苦痛。胸を突き刺されるような痛みが次々に襲い来る。苦しいと呟いてみても解放されないし、苦しい胸の内を吐き出してみたところでなにも解決しない。次の苦しさが来るだけだ。
嗚呼、そんな顔して笑わないでくれ。
また花を吐いてしまいそうだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

私がそれに気付いたのは偶然だった。
ある日の朝食の席で、ガンピさんが青白い顔をして現れたのだ。いつも早起きで快活な彼からは想像がつかないような様であった。最近調子が悪そうだなとは思ってはいたものの、ここまであからさまに具合悪いですというような様子を見せなかったので、私たちはひどく驚いてしまった。

「ガンピさん。顔色悪いですが、大丈夫ですか?」
「う、うむ。ちょっと寝不足なのだ。」

にこ、と年齢の割に幼い笑顔で笑って見せられると何も言えない。惚れた弱みなんていうが、私はまさにそれで、彼が誤魔化すように笑ったり、困ったように眉根を下げて見せただけで、それ以上突っ込んで聞くことができない。だから、彼の綺麗な笑顔をみせられる度に私はなんだか言いようもなく負けた気がするのだ。彼を心配する気持ちもあるし、恋する感情を勝ち負けで判断するのは少しおかしな話であるが、私は彼の笑顔にはいつも負けてしまうのだ。
どう考えても誤魔化しでしかないその笑顔を見てもなんだか誤魔化したように感じるしかないのだ。
誤魔化さないでくださいと強気に言ってみても、調子が悪いんですかと問いかけてみてもあいまいに笑って見せるのみでそれ以上多くを語ることはなかった。彼は頑固であり、一度言わないと決めたら梃子でも動かない。彼のそれは長所であり同時に短所だ。それを知っているので私たちはそれ以上追及することはできなかった。言いたくないと本人がいっている以上、無理に追及はできない。
我々は家族ではなく他人なのだから、必要以上の踏み込みはいけないのだ。一定の線引きから踏み出さない関係性は居心地よくもあり、その実不便でもあった。私たちの関係性が赤の他人ではなく恋人というものであったのなら、もっと踏み込んで質問できたのだろうか、と考えて自分のあまりにもありえない妄想に馬鹿馬鹿しくなって小さく笑って首を振った。
それをガンピさんが青白い顔で不思議そうに見ていたので、誤魔化すように口元を歪めて笑って見せて言葉を落とした。
その誤魔化しの表情があまりにも酷かったからなのか彼は一瞬眉間にしわを寄せぐ、と息を詰めてから誤魔化すように口元を引き攣らせただけの笑顔にも分類されないような笑顔を浮かべた。

「食欲はありますか?軽いものの方がいいですか?それともお腹に優しいものですか?」
「食欲はあまりないから、軽いもので…。ズミ殿がせっかく作ってくれたのにかたじけない…。」
「何を言っているんですか。あなたの体調の方が大事でしょ?」

私は貴方のためならいつでも食事など作りますよとにっこりと笑って言ってみるがやはり彼は一瞬先の表情を作り、先の笑顔にならない笑顔ですまないと言った。
いつもと違う彼の様子に辟易としながらもいつもの手順通りに完璧に料理を作る。料理を作るのはいい。自分のこの無謀ともいえる思いもなにもかもを忘れることができるからだ。完成した料理をいつものように飾り付けながら、ぼんやりと彼は本当に大丈夫だろうかと考える。その時になぜか胸の内がムカムカした。

どうぞと恭しくそれを差し出せば、彼はやはり眉根を下げてすまないといった。謝ることじゃないですよと返しながら彼が私が作った料理を食べるさまを観察する。
人が自分が作った料理を食べている様子を見るのは好きだ。美味しそうに、それでいて幸せそうに食事をする人々の姿はどんな芸術にも勝って美しいものである。その喜びの様が大きければ大きいほどその様は美しい。私はそれが見たいがために料理人になったと言っても過言ではない。
彼の食べ方というのはまさにその典型であった。私が理想とする美しい食べ方そのものを彼はしていたのだ。だから私は彼が自分の料理を食べている様を見るのが何より好きだ。

だが、今日はそうではなかった。
体調のせいもあるのか、いつもの所作の端々に育ちの良さをうかがわせるような綺麗な食べ方はなりを潜めて、ちびちびと所作は綺麗であるものの、あまり食欲がありませんというのを表現したような食べ方であった。食事を口にしても、顔も上げることなくただ義務的作業のようにそれを口にしていた。いつもの晴れやかな空のような澄んだ瞳を輝かせて顔の筋肉をすべて使用して表情をつくるその様からは想像がつかないさまであった。
彼のそのある種の素直さというものは彼の長所であるし、私はそんな彼が好きだ。なにも食べ方だけで彼を好きになっただけじゃないのだ。私は彼のその性格も容姿も考えも彼の手持ちに向けられる愛情も何もかも好きだ。たとえ食べ方がとてつもなく汚かったとしても私は彼のことが好きだ。
そう改めて思いながら彼を見ると彼は何を思ったのか、にこりと笑ってこう告げた。

「体調が悪くともズミ殿の料理は誰が作ったものよりも美味しいよ。」
「そうですか。作り手としてこれ以上の褒め言葉はありませんね。」

私はそれに、にこりと笑ってそう返しながら、また謎の胸やけを感じていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ガンピさんの体調はその日から次第に悪くなっているようだった。
彼は何も言わないが、時折真っ青な顔をして口元を抑えている様をよく見るようになった。チャンピオンも他の四天王の方々も何も言わないが、ひどく体調の悪そうな様子の彼を本気で心配していた。医者を進める者もいたし、民間療法だがと薬草を煎じてあげている者も彼の仕事を肩代わりしてやっている者もいた。皆、彼を気遣っていたし、彼もそれに気付いており心底申し訳なさそうにしていた。
私はというとやはり自分にできることをしてやろうと食事面でのサポートをしてやろうと思うのだった。
とりあえず、今日の夕飯は何がいいですかなどと聞きに行こうと思い彼の部屋へ向かった。その途中で廊下に立ちすくむ彼を見つけた。話しかけようと口を開いたが、そこから言葉が出ることはなく私は目の前の光景に目を奪われるようにただその光景を見ていた。

顔色悪く、廊下の壁に手をついたガンピさんは、ううと唸ってから耐えきれないというように下に向けてぱっくりと口を開いた。その彼の口からはらりはらりと出てくる色とりどりの花弁。吐き出しているというよりは、開けた口から次々と出てくるというようなそういう印象だ。汚いとかそういう考えなど欠片も浮かばなかった。むしろその光景はある種の芸術のようで美しいとすら思った。

巨匠の描いた絵画を間近で見た時のような感動を覚えながら、私は思わず彼の姿に見とれた。

彼は私の存在など気付くことなく、はらりはらりと口からとめどなく出てくる花弁をそのままにぐったりと壁にもたれながら自室へ入って行った。
私はやはり彼に声をかけることもできずに呆然と突っ立っていた。

――私は無力だ。

自室に戻ると彼のあの様子を思い出してひとりごちる。
彼の症状は昔聞いた片想いを拗らせて花を吐くという奇病そのものだった。解決方法は両思いになるしかないと言われる奇病だ。美しくも残酷なそれは明確に彼に好きな人間がいるということを私に示していた。

――そうか、彼には好きな人間がいるのか。

そう思うとその美しい光景がひどく惜しいものに思えた。なぜそう思うのか考えてみても答えはひとつしかない。私が彼を好きだからだ。
ずっと前から心に秘めていたものがあの美しい光景によって粉々に砕かれてしまったから私は惜しいと思っているのだ。私が好きな人には私が見知らぬ好きな人が存在していた。

「…そうか、彼には好きなヒトがいるのか」

ぽつりとつぶやいた時に自分の胸の内がムカムカとした。胸の内から何かが突き上げてくるような感覚と共に食道を伝ってこみあげてくる不快感。なんだこの気持ち悪さはと思いながら、この場で吐くわけにもいかないのでバタバタと美しさの欠片もない所作で洗面所に駆け込む。
ぐえ、というつぶされたカエルのような声を上げてせりあがってくるものを吐き出す。咳き込みながら私の口から出てきたのは、くしゃくしゃに丸まった花弁だった。なんだこれは、とゾッとしてから同じように花を吐いていた彼の姿を思い出す。
彼の姿を思い浮かべる度に体の底から込み上げてくる吐き気。洗面台につかまりながら、すべてを出してしまえと言うようにかぱっと口を大きく開いて下を向く。口から出てくるのはやはり私が食べたものではなく、色とりどりの花弁だった。

はらりはらりと次から次へと出てくるその花弁は如実に自分のその醜い恋心というものを表現しているようにどす黒い枯れかけのような色をしていて、彼のと違いひどく醜く汚いものに見えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最近、大丈夫かと声をかけられる機会が増えた。それは私がいつかの彼と同じように青白い顔をしているからに他ならない。
私を心配してくれる心優しき人々の声に対して大丈夫ですよ、といつかの彼のように答える他ない。だって私のそれは失恋してしまった今、もう絶対に治ることはないのだ。込み上げる吐き気に耐え抜いて、自らの吐き出した花弁に埋もれて死んでしまうのがお似合いなのだ。

「大丈夫か?」

ぼんやりとそんなことを考えていたら、彼に心配げに覗きこまれた。大丈夫というように頷いてみるも彼の表情は晴れることはなかった。それどころか、さらに聞いてくる。もしやこの奇病のことや彼への気持ちがバレているのだろうかと考えて少し青くなる。

「最近、顔色が悪いけど大丈夫か?」
「あなたの方こそ大丈夫ですか?」
「む?大丈夫だ!この通り体はピンピンしてるからな!」
「青白い顔でそんなこと言われてもても説得力ありませんよ」

ニコッと笑ってそう主張して見せる彼にくすりと笑い返そうとして失敗する。
ああ、バレてなくてよかったとホッとする半面、こみあげてくる胸を突き上げてくるようないつもの不快感。グッと言葉につまってしまい、そのせいで彼に心配げな顔をさせてしまう。

「…大丈夫です。」

大丈夫ですよ大丈夫、と安心させるように言う。微笑むことはできないし、貴方のせいなんですけどね、と言うこともできない。玉砕を覚悟もできないし、同情もされたくない私にはただ耐えることしかできない。


「そうか。でも辛いならいつでも頼ってくれ。我がいつでも貴殿を助けるから。」

その彼の言葉を聞いても勇気のでない私は心配してくれる彼に対して、本当に大丈夫、ありがとうございます、と微笑んで少しだけ吐き出された数枚の花弁を握りつぶして彼から見えぬように隠すことしかできなかった。



《そうして僕らは花を吐く》

(素直になれば治るのにね)




これも読む度に興奮するので感想が…落ち着いたら此処の欄書き足します。本当に有り難うございました!

14/9/23





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