及第点ですが、もう一度やり直しましょう


「貴殿をお慕い申し上げている」

ズミ殿、といきなりのことにぽかんと呆けているカロスの水タイプ使いの四天王ズミ殿の方へ己が出来うる限りの優雅な仕草で小さくて可愛らしい花を差し出しながら恭しく跪いた。
白昼堂々、しかもいつ誰が来てもおかしくもないリーグ内の廊下で男が男にお慕い申し上げていると言っている光景はある種シュールであるが、言っている己も言われている本人もそれらを気にする余裕というものは存在していなかった。

まだ、ぽかりといつもの仏頂面を欠片も感じさせないような間の抜けた、それでいてどこか愛嬌のある顔(そう見えるのは惚れた弱味なのかもしれない)をさらしたズミ殿を見て己は再度、まさに主に仕える騎士のような仕草で恭しく礼をしてから跪いたまま花を差し出した。

「貴殿を一生守る権利を我にくれまいか?」
「え?ええ?それはなぜ?」
「先程も言ったように、我は貴殿をお慕い申し上げているからだ。慕った相手を守るのは騎士の務めであろう?」

違うか、といって首をかしげる己の様子を見て混乱の途にいたズミ殿はああそういうことかと呟かれた。なにやら納得していただいたようで心底安心する。

「それは私が爵位で貴方より高位だから私を守りたいということですか?」
「うん?貴殿を守りたいと思うのは、貴殿をお慕い申し上げているからだ。」

にこりと笑ってありのままを告げたが、どういうわけかそれはズミ殿には気にくわなかったのか、ズミ殿は一瞬だけ痛みを我慢する子供のような顔をした。
己としては爵位だとかそんな些末な事象など関係なしに本心から彼を守りたいと思っていた。己はそういう意味で彼を慕っていた。言うなれば、我はズミ殿のことが好きだった。それがいつからのことなのか思い出せないが、ズミ殿のことが好きだった。好きな人間は守りたいと思ってしまうのが、己の騎士たる所以であり、己の己らしいところである。
ただ、いきなり好きだ守らせろと言われたら引かれてしまうと思ったので、なんとか引かれない方法を己なりに考えた結果としての“お慕い申し上げている”発言であったのであるが、その過程というものを全く知らないズミ殿には我の真意というものが伝わってなかったようである。
仏頂面に逆戻りして、それどころかさらに険しくなった顔を見て悲しくなる。やはり男が男にそんなことを言うべきでないのかもしれない。騎士だとしても元は一人の男である。守りたい人を守りたいと思うことは罪なのだろうか。

「…やはり、我に守られるのは嫌であるか?」

眉根を下げて問いかけると、ズミ殿は嫌悪感の欠片もない表情で首を振ってくれた。ただ、それが演技でないと確証をもって言うことはできない。ズミ殿は優しい人間なので我に気を使って本心を隠してくださっているのかもしれないのだ。

「いえ、それが貴方の仕事でしょうし、私にはなんとも言えません。ただ、私の他にいくらでも守るべき人はいるでしょ?」
「確かに男が男に守られるなどおかしな話であるし、男ならば守られるより守りたいのかもしれない。でも、我が騎士として守るべきだと、守りたいと思っているのは貴殿だけだ。」

貴殿の他に誰を守ればいいのだ、と暗に貴方しかいないということを伝えてみるがやはりズミ殿に伝わらないよう(いや、もしくは伝わっていて嫌悪感によって)で眉間にシワを寄せて怖い顔をされた。そんな顔をさせてしまう己に腹が立った。

「それは貴方が私を慕っているからですか?」
「無論、そうである。」

それ以外にないと笑って見せるとズミ殿はふ、と息を吐いてとても綺麗な笑みを浮かべてくれた。それに思わず見惚れているとズミ殿は注意して聞いていないと聞き逃してしまうほどの声量と早さで我に告げた。

「私も慕ってますよ」

そう言って己の手に持たれたままになっていた小ぶりで可愛らしい花を受けとるために手を伸ばした。己は彼のその発言に天にも登る気持ちでぼんやりと彼の行動をただ見ていた。彼は花を受けとる振りをして己の腕を掴み、我のことを固定してから形のいい綺麗な唇を己のそれに噛みつくように重ねたのだった。
いきなりのことに目を白黒させると、ぼんやりと霞んでしまうほどの視界で彼がふと笑うのが見えた。
ゆっくりとその唇を離して、またにこりと笑ってみてたズミ殿はぽかんと花を差し出した体勢のまま固まる己を一瞥して自嘲した様子で語りかけた。

「私はこういう意味で慕ってますが、貴方はちがうんでしょう?」

だから、貴方の申し出は受けられませんよ、と諦めたように薄く笑って己に背を向けて足早に立ち去った。
頬が燃えているのではと思うほど熱い。確認するように塞いだ掌の下でどうしても唇が弧を描くのを止められない。え?どういうこと?とさんざんっぱら考えてやはり答えが出ずにその背が遠ざかっていくのを見ている。ズミ殿が言っている意味が全く理解できずに唇を手で塞いでどうやってもにやける口元を隠しながら、ぽつりと落とすように呟いた。

「えぇ?我もそういう意味でいってたんだが…?」

どういうこと?と言った我のその発言は当然ながら走り去ったズミ殿には届かなかった。


《及第点ですが、もう一度やり直しましょう》

(どっちがやり直しなのかわかってます?)





月飛びのミスミ様からキリ番3456hitでリクエスト頂戴しました。
まず、読み直せば興奮するので落ち着きます。ガンピさん可愛い格好いい、ズミさん落ち着いて、走らず背後を見て振り返えって。ガンピさんもそんな事してないでがしゃんがしゃん言いながら追いかけてっ
どちらが及第点でも続きを探さずにおれない内容にまたわがたましいはしゃいで…になりそうだ。
ミスミ様、本当に有り難うございました!

14/9/23





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