助けてなんかやらないよ


ズミガン


 

※ズミ←ガン+パキ
※鈍いガンピさんとわりと鈍いパキラさん



深刻な顔をしてちょっとよろしいかと言われた。どうしたものかと考えてから、面倒だがこの場で恩を売っておけば後々役に立つかもしれないと打算的な考えで別にどうぞと告げ、頭の中のこの後の予定をざっと変更する。
四天王の鋼鉄の男はよかったと心底安心したようにへにゃんと締りなく笑って、「別にどうぞ」の「どうぞ」を中へどうぞと勝手に拡大解釈してずかずかと私の部屋にあがりこんできた。その時点で腹立たしいのに、ヒトの部屋を勝手に見てほーだかへーだか感嘆の言葉を言いながらコロコロと表情を変えた。
奴は鋼鉄の男などと呼ばれながら、目まぐるしいほど表情を変えるし、態度も柔和である。“鉄”というような硬さや刺々しさというものは全く持ち合わせていなかった。それがいいことなのか悪いことなのか私には判別できそうもなかったが(そもそも興味がない)、実害が伴うその無駄な馴れ馴れしさというものは改善した方がいいと思うのだった。

「で?」

あがってしまったものは仕方ないと思いながら一応(勝手に入ってきたのであるが)客人なので、茶(出がらしである)を入れてやると奴は一口それを飲んで、ズミ殿が入れてくれたものはおいしかったと暗に私の入れたそれが不味いとでもいうようにつぶやいた。

「悪かったわね。不味くて。」
「いや、パキラ殿。美味しいよ。」
「そんなお世辞とかどうでもいいから、何か言いたいことでもあるなら早くどうぞ。」

早く言って帰れと暗に促してみるが、この鈍感すぎる男には当然ながら伝わらない。どうぞと言ったのに何を恥ずかしがる必要があるのか、もじもじとしだした。
結構ないい年をした大人(しかもむさくるしい男)が恥らっている様子など見せられても気持ち悪いだけだ。だからなんなのだと思いながら、奴を見やると奴は照れたように顔を赤くして、もごもごもごもご十分近く口ごもった挙句、どうすればいいのかと全く持って抽象的極まりない言葉を口にした。もしかして、私を怒らせたいがためにこのように時間の無駄遣いをしているとしか思えない。普段ならば、十秒でも私を待たせようもならポケモンをけしかけているところだ。

「どうすればとは何を?」
「あの…それはだな。」
「早く、具体的に、そして簡潔に述べなさい」

またもごもごと口ごもりそうだったので、びしりと告げる。奴は困ったというように眉根を下げてからズミ殿がと目の前にいる男よりも百倍は“鉄の男”という言葉が似合いそうな無愛想極まりない水タイプ使いの名前を口にした。
彼がなに?と私が呟けば、その名を出したことによってどこかのたかが外れたらしい男はべらべらと話し始めた。

「ズミ殿を見ると胸が苦しいのだ。それに動悸も激しくなり、上手く息ができなくなり、大量に汗が出る。彼を直視できない上にズミ殿だけが輝いて見えるし、ちょっと会話ができただけでその日一日はいい日だったと思えてしまう。機嫌が悪くともズミ殿とあってしまえば途端に機嫌が直ることもある。夜も眠れないし、顔も妙に熱い。あと、ズミ殿が用意してくれた食事の味が分からなくなることがあるのだ。」

そこで男は言葉を切って、だん、と机が壊れそうなほどの勢いで机を叩いて立ち上がった。そして私にずいと己の顔を近づけて、なあと心底困り切った顔で告げた。

「これは病気だろうか?」

動悸、息切れ、発熱、多汗、めまい、不眠、情緒不安定…例を挙げていくに二つの可能性が見えたのであるが、もう一つの方はあり得ないので、結局一つの可能性しか見えずに、心配そうな奴を安心させるように大丈夫という。

「大丈夫でしょう」
「というと?」
「それはただの更年期障害だと思うから、ホルモン打ったりすれば改善するでしょう。」

そう告げてやると奴は心底安心したように、ああよかったといった。

「いやあ、ズミ殿のことを好きになってしまったのかと思って焦ったよ」
「そんなことあるわけないでしょう。」

男同士なんだからと口にすれば、奴は確かにそうだと上機嫌に茶を飲んだ。万事解決と二人して和やかに茶を飲んでいたその時はまさかその奴のそれが更年期障害ではなかったとは私も奴もつゆほども思わなかった。


《助けてなんかやらないよ》

(病院は自分で探しなさいよ。)

*


マツミナ


海の中に沈んでいる。
本当に沈んでいるわけではないが、心持的に海の中に沈んだような気分というだけだ。嫌なことがあったわけでも、悲しいくらいやりきれないということはない。ただ、いつも底なしの海の中に沈んでしまっているというだけである。
にっこりと笑いながらもいつもいつも僕の半身は僕を離れて海の底に沈んでいる。苦しくて息がしにくい。でもできないわけではない。だから僕は死ぬこともなく、海の底に沈んでいるのだ。

誰も僕がそのような気分であるなどということには気づかない。気付いたのはそれこそ伝説と呼ばれる彼らだけだった。だから僕は彼に選ばれることなく、空を飛んでいるように軽やかな心を持っていた彼らが選ばれたのだ。
ホウオウに選ばれなかったことについて本家の面々には口々に失望したといわれたが、僕は選ばれないこともとっくの昔からわかっていたから失望されてもとひどく冷めた心持で海の底から騒ぎ立てている本家の人々を見ていた。
やがて僕はその光景にも飽きて自分の部屋に戻った。
部屋には呼んだ時は来ないのに、どうしてかこんな時だけは僕のところに来るミナキ君がちょこんと部屋の中央でいつもなら絶対にしないように大人しく座っていた。

「マツバ。大丈夫か?」
「大丈夫」

開口一番に僕の心配である。
他の本家の人間とは大違いだなと思いながら、その心配性な友人に微笑んでみせる。いつもの通りの笑顔である。それに対してミナキ君はいつもは快活な様子であるのにそれを微塵も見せることなく、ちょっとちょっとというように僕のことを手招きした。
なんだろうと思って近づいてみると、ミナキ君はよしよしとまるで子供をあやす時のように僕の頭を撫でた。

「何だい?」

いきなり、と言ってみるとミナキ君は大丈夫だといった。

「私はマツバを責めたりしない。」
「は?」

別に責められる理由もないし、そもそもそんなことで落ち込んでないからとか言いたいことがたくさんあるのであるが言葉が出てこない。そんな僕の様子をいいように解釈したミナキ君はにこにこと笑って言葉を続ける。
いつも思うにミナキ君は人の話を聞かない。その上に、早とちりをしていつもいつも僕の真意をくみ取ってくれたためしはない。それが彼の可愛いところなのであるが、どうにも調子が狂うのである。海の底に沈んでいる僕が海面にあがって声を大にして彼に対してだけは突っ込みを入れたくなってしまうのだ。

「私はマツバが誰よりも頑張っていたのを知ってるぞ?」
「あのね…」
「大丈夫だ!私がついているぞ!泣いてもいいぞ!」

彼はほら、と言ってわかっているのかわかっていないのか全く分からない、いつものような調子でぽんぽんと僕の頭をいささか乱暴に撫でた。それがどうしようもなく暖かくて、冷たい海の底にも光は届くのだなとぼんやり思った。


《助けてなんかやらないよ》




*

ギマレン



※ギマレン
※色々謎

助けて欲しいと今更ながらに言われてもどうしようもない。
何とかして欲しいと言われても、どれを何とかしてあげればいいのか検討もつかない。そもそも、彼が何故私に助けを求めたのか理解できない。彼が何がしたいのか全くわからない。
ただ、ひとつだけはっきりとしているのは彼が助けを求めてきたのは実に今更だということだ。

「だいたいにおいて先に断ったのはキミの方じゃないか。」

そうなのだ。私の助けてあげようかの言葉はいらんと今更ながらに助けを求めてきた目の前の彼によって断られたのだ。だからこそ、私は呆れたようにそう呟くしかない。彼は私の言葉を聞いて目に見えて焦りだした。焦ったところで何も解決しないということを彼はいい加減に学習した方がいいのではないかと私なんかは思う。彼は別に頭が悪いわけではないのであるが(時折こちらが驚くほどの頭のキレ、というものを彼は見せたりするのだ)、どうにも学習能力というものが欠如してるようだ。残念なことに。
まあ、彼が学習能力を身に着けたら私がつまらないので、このままで構わないと思ってはいるのはナイショだ。知られたらすごい勢いで拗ねるに決まっている。そんなとこも可愛いんだけど。
今だって若干ふてくされたように唇を尖らせていじけたように私のことを見ている。

「いつでも助けると言ったのは嘘なのか?」

いじけつつも彼はそう口にしてちらちりと横目で私を見る。そういうところはあざとい。
私が彼を好いていると知っていてそれなのだから質が悪いし、それでいて私の気持ちに答えようという気はこれっぽっちもないのだから意地も悪い。

「何?助けて欲しい現状にあるのかい?」
「…別に」

あざとくもできるし私の心情を知った上で弄ぶことも彼には容易いのであるが、彼はそれをしない。しようと思っても途中でやめる。
彼はプライドが高いのだ。
それこそ山のように高いのだ。彼、レンブは結局私に助けを求めなどしないのだ。

「いつでも助けてあげるといったことは嘘じゃない。僕は君をいつだって助けてあげるし、助けさえ求めてくれればお姫サマのピンチにはいつだって駆けつけるさ。」
「私は姫じゃない」
「僕にとってはそうなのさ」
「目が腐ってるのか?」
「腐ってないよ。お姫サマ。」

恭しく、それこそ本物の姫に向かって礼をするように頭を下げると彼は助けてくれと言ったくせに横柄な態度で椅子にふんぞり返ってこちらを見て、姫じゃないと言った。
そのさまが横柄なお姫サマにしか見えなかった。だが、それを突っ込んだところでまた機嫌を悪くするだけなので、優しいフリをしながらにこにこと問いかける。

「で、君は何を悩んでいるのかい?」

私のその問いかけで、何を聞きたいのか思い出したように、そうだと彼は膝を叩いてからいつかの時と同じように怒りに満ちた目でいい加減にしろと言った。

「お前、何度も何度も夢の中にまで出てくるなよ。」
「はぁ?」

想像の斜め三十五度をいく回答に思わず声が出る。夢の中まで遊びにいったりなんかしないし。そもそも出来ないし。もし行けるのなら毎日でもいきたいけどさ。などと色々な突っ込みを頭のなかで繰り広げる。
でも口に出さない。口にしたら怒られるからだ。それこそ拳が飛んでくる。しかも死ぬほどの威力でだ。彼は手加減を知らない。武道家としてそれはどうなんだろうと思うが、可愛いから許してしまう。これぞ惚れた弱味という奴だ。

「毎日だぞ?夢の中でもふざけたことばかり抜かしやがって…」
「へぇ…夢の中でも告白してるんだ。やるじゃないか。それで、夢の中ではオーケーしたのかい?」
「誰がするか」
「なんでさ。夢に見るほど僕の告白を嬉しがってくれたんじゃないの?」
「違うわ!お前が夢の中まで押しかけてきてうっとおしいんだよ!なんとかしろ!」

ただ、どうにかしろと言ってくる我儘姫のそれが照れ隠しにしか見えない。なんだかかわいく思えてポーカーフェイスなどできるはずもなく、ふふと笑ってしまう。
それを見咎めたらしい彼は険しい顔をさらに険しくした。それを見て押さえることなく微笑んでから一言。

「ねぇ、レンブ。君は僕が勝手に夢に出てくるっていうけど、夢ってその人が寝る直前に強く考えていることなんだってね。毎日見るってことは、僕の告白を真剣に考えてくれてるってことでいいかな?」

意地悪くそう告げてやると彼は顔を真っ赤にしながらもうしらん、といつかと同じように叫んだ。


《助けてなんかやらないよ》

(キミは本当に学習しないんだから)





こちらもフリーだったものを頂戴してきました。ギマレンが特に堪りません、ギーマさんあと一押しです!





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