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彼女の夜明け(マレ←プル)






あたいにチャンスと切っ掛けを与えた男の一人は、いつも高くて遠いところにいる。小さくて可愛いと公言して憚らない身内の子供とまるで二人の小さな城みたいな場所であたいにはよく解らない仕事をしている。
あたいはそんな事どうでも良かった、与えられたチャンスと切っ掛けを無駄にしたくなかったからがむしゃらに進んだ。前に前に、今まで目を背けてきた事に照準をあわせ何かを掴もうと伸ばそうとして途中で下ろしてしまった手をまた伸ばしたくて前に前にと足を動かし駆け出し始めた。

あたいが気になる男はとんでもなく忙しい。自分と甥っこの城の仕事以外もこなす為に何日も何日も画面に向かい続けてそれでも終わらない作業の中糸が切れた人形みたいに眠り目を覚ましまた仕事をする、そんなに忙しいのにあたいが来たと聞けば席を立って笑って挨拶するんだよしかもさ、
「よく来たね!調度休憩しようと思っていたんだ」
なんて嘯くんだ馬鹿な男だよ。これっぽっちも暇なんか無いんだろ?可愛い甥っこが心配してるってのにさ大丈夫って口にするその胡散臭さ、博士とどっこいどっこいだね。こう言えばククイの方が胡散臭い!なんて反論するんだろうけどどっちが胡散臭いかはあたいにはどうでもいいのさ、稽古をつけてくれる前にあんたはもう一眠りするべきだその為に呼ばれたんだよあたいはさ。

あたいが多分好きになった人は頭の回転がとてつもなく速いのに、何処かぬけてると言うかなんか鈍くて殊更他人から向けられる好意?ってやつが解らないみたいでマーマネがよく愚痴をこぼすんだ、知らないお姉さん達からマーさんにお手紙渡してって言われるの慣れてきたけど声をかけられる時いつもビックリするんだ、自分でわたしてほしいよね。
あたいもそう思うよ、でも鈍いようでいて他人を見て行動してる人だしそもそも忙しすぎるから手渡す隙がないんだろうなって相変わらず自分の城にかんづめ状態の渦中の人を扉越しに見やる。実際厚い鉄の扉の向こうは見えやしないけど背中丸めて画面に食い付いて寝食忘れて働くその姿は容易に想像出来てしまう、休憩時間はとっくにはじまってんだよ本当そこんところは変わんないんだから。

変わる、か……

あの時声をかけられて、丸め込まれたのもあるけれど自分で変わりたいと思って駆け続けた、前と比べて変われたのかはよく解らない。
変わったと自覚出来るのはあの人を見る目と心くらいだろう、考えてたらどんどんこっ恥ずかしくなってきちまうじゃないかっやめようやめやめ。
あの人に伝えるべきなのか胸の中にしまっとくものなのか、そもそもどんな意味の好きなのかもまだ見えてない。答えは遠い遠い先にある、屹度それは進む途中にある筈だからあたいはまだ足を止めないよ、ねぇマーレイン?

何時か見えない先に手を伸ばし続けたら触れるかもしれないなにかをあたいは今度こそ見たいんだ。






マレ←プルと言うかマレ+プルと言うかなんとも言えない微妙な距離感の二人