小説 | ナノ





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テーマは「最後の晩餐」


・デンオ
望んでいいのなら、この男の作ったものを食べて死にたい。毒殺とかそう言うのじゃなく、最期の晩餐ってやつか?そういう意味合いで

ナポリタンとかオムライスとか餃子とか、鍋焼き饂飩や炊き込みご飯と味噌汁とか、焼きそばとかカレーとかシチューとか野菜炒めとか…ああ、

今のは全部、彼奴の思い出がある、俺と彼奴と他の誰か、そう言った具合の思い出の詰まったメニューばかりだ。

俺は…彼奴の思い出を食べてから死にたい

なぁオーバ、今何作ってんだ?腹減ったよ、珍しく腹減ったって思ったんだ。俺もなんかするからさ早く飯にしようよ、

思い出を食べさせてよ



・ギマレン
「アップルパイかな」
「は?」
「…何?」
「いや、意外だと思って」
最後の晩餐だから、もっと手の込んだ物とか小難しい料理名を告げてくるのかと思った。こいつなんだかんだ言って育ちは上流階級の様だし
「昔の食事の思い出なんて殆んど無いよ、唯一人ぼっちで口に入れては胃に詰め込むだけさ」
「それも…寂しい思い出だな」
「だからアップルパイなのさ」
「何がだからなんだ」
「気付かない?」
「何をだ?」
「だって、アップルパイは君が初めて手作りしてくれた料理じゃないか!」
「んなぁあ!?」
まだあんな前の事を覚えていたのかお前は!しかも作ったとは言え中身煮ただけだぞ、パイ生地は買ってきた、中途半端な手作りだぞ?その後ちゃんと作ったの渡したじゃないか、まだアレを覚えてるなんて…お前の食事の思い出の価値観が解らん
「ちょっと焦げたパンケーキでも沁み込み過ぎてぐでんぐでんのフレンチトーストでもいいよ?」
「ぐああ〜もう止めてくれ、思い出すだけで恥ずかしい…」
なんでこっ恥ずかしい思い出が着いて来るメニューばっかりチョイスしてくるんだお前は!

「まだ解ってないの君?君と一緒に食べたメニューだよ?最期迄一緒にいたいアピールだったんだけどなー」
どうなの?ね?
子供の様に強請りながら人の顔を覗きこむお前は、空想の未来の終末すら俺との約束を取り付けようとした。



・マツミナ
「筑前煮とカステラとおはぎとお抹茶」
「…なんともお前らしいチョイスだな」
「だって最期なんでしょ?末期の食事なんだろ?なら思いの丈の儘言うに決まってるじゃないか」
「しかも調理の手順が意外とめんどくさいもんが三品も並んでるじゃないか」
「うん、だからミナキ君頑張ってね」
「は?」
「カステラとおはぎは買って来てね、筑前煮は教えてあげるから作ってね。マツバの筑前煮を覚えておくれ?」
「…私が供するのかよ!」
「お抹茶は僕が点てるし、代わりに君の最期の望みは僕が聞いてあげるから」
「じゃあシチューだ!白味噌は無しでだぜ!」
「美味しいじゃない、隠し味に白味噌」
「この前のシチュー隠れてなかったぜマツバ、全然全力全開だったぜ白味噌!」
「可笑しいな…酒糟と間違えたかな」
「異物ノー!シチューに異物ノーノー!!」
「はいはい、和素材無しのシチューにしてあげるから、買い物に付き合ってね。今晩の食材買って来なきゃ、冷蔵庫に白味噌しか入ってないよ」
「何で白味噌は入ってるんだよ!」
「僕の白味噌への愛は生半可じゃないのさミナキ君」
くそぅ、白味噌王子がっ私の体が白味噌で埋め尽くされちまうじゃねーか!
絶対今の買い物でシチューのルーをカゴに入れてやるんだ!そうだぜミナキ負けるな、色が一緒だからって白味噌inシチューを許してはいけない!

「でも最期かー、凄く嫌だな最期の晩餐とか最期の日って!」
「どうしようもないよ、全ては必ず終わるんだよ?今日も明日も、僕の命も君の命もこの世界も時間と言う概念も、全てには終わりがあるんだ…そう、白味噌にも」
「好い加減白味噌から離れろマツバ!ええい、こんな会話も嫌だけれどそれよりも、こうやってお前と話せなくなる最期なんてやっぱり嫌だぞ!」

「…………突然の天然且つデレ発言にマツバは対応していません」
「お前本当に今日どうした!?」



・ズミガン
「ふむ、最期か…シュケットもパンペルデュもマドレーヌもクラフティも好きだし、ルバーブのタルトもクレープもブラマンジェもクレームランヴェルゼもサブレも捨て難い…」
「デセールのメニューしか聞こえませんが?」
「オートキュイジーヌ…コースを所望出来るとは限らぬ」
「貴方に望まれれば吝かではありません」
「へ?」

「まずアペリティフに軽めのシャンパン、アミューズは無花果が旬なので無花果とマスカルポーネのカナッペにアントルメは野菜とエイディブルフラワーとパテの一皿、スープは人参とグレープフルーツの冷製ポタージュかコンソメを。パンはハードとデニッシュを三種くらいで、ポワソンは白身魚のポワレにソルベがシトロンとハーブのミックスでヴィアンデゥは鶉か鴨等のジビエのコンフィ、ラムでもいいかもしれません。レギュームは新鮮な方がいいので朝の内に庭をチェックして出来のいい野菜を収穫しておいて…」
「フロマージュは少な目にして、少し変化球ですがデセールをプティフールで数を多くして、ディジェスティフは貴腐ワイン、カフェは酸味を押さえて華やかなアロマのものと紅茶は味のしっかりした茶葉を、ハーブティでもよさそうですね―…以上です」
唯の雑談で、凄まじいフルコースのメニューが完成してしまった…いやはや
「相変わらずのお手並み、恐れ入ったである…」
「何も特に、通常運行の発想です」
「本当、其方の頭の中は宇宙よの。しかし、そう言うコースなら皆で食べれば楽しかろうな!ズミ殿もな!」
「いえ、私は調理がありますので…………あ」
しょぼーん

最期の日に、一緒に食事出来ないって…淋しいにも程があるである…
「あの、ガンピさん?例え話にそんな真剣にならないで下さい」「そうだ、ちと反則ではあるがカフェオレにしよう!」
「へ?」
「夜、二人でワインかカフェオレでも一緒に飲もうではないか!それなら手間もかからぬし、長い時間一緒におれる!」
「なっ……貴方、自分の発言に責任は取れるんですよね!取っていただきますよ!」
「へ?」
口説かれたのなら、応えなければなるまい

でも我、ポトフもロールキャベツも好きである

好き嫌いな無くて大変結構です。