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村斑群(デン→オ)






「突然だがお前にムラムラしている!」
「本ト唐突だよオメー!デンジ!」
デンジの脳回路がまた俺の理解から一歩遠退いた瞬間に、俺は立ち会ってしまった。しかし、其処はナギサのスターデンジ、俺の戸惑いや躊躇なんか気にせず続けていく。

「お前の睫毛が赤いと気付いた!」
「今更ー!?」
「しかも結構睫毛多い!そして太めだ!」
「知らねーよそんなの!誰と比べてんだよお前」
「俺!」
「アホ!?」
お前、どんだけその顔を自慢したいの?顔面偏差値の高さをどれだけアピールしたいの?知ってるし解ってるっての!
「それが瞬きで動くとはたはたしてムラムラっとする!」
「気っしょい!!」
「まるで赤い小鳥みたいで綺麗だぜ、オーバ」
「全然嬉しくねー!そんでもってマジで言われても立つのは怖気、鳥肌だー!!」
チキンスキンだよ今の俺の腕!解ってるデンジ君?見えてるだろ?否…そんなに舐め回す様に見られても困るからほどほどにして…恐いから

「そしてお前の目ん玉は灰色だ」
「瞳な」
「慎ましい灰色と鮮やかな赤のコントラストが無性にエロくてムラムラする…」
「俺の生まれ持ったものにムラムラすんな!」
何故俺は赤髪の灰色の瞳と言うコンボで生まれてしまったのだろう…父さん、母さん、ご先祖様なんで?何色に対しての劣性遺伝なんだよ赤髪って…項垂れ、地面に崩れ落ちたい俺の心を更に揺さぶるデンジのとんでも発言が鼓膜を震わせた。

「因みにお前のアフロすら俺にはムラムラの萌えポイント」
「何故アフロにムラっと出来るんだ、デンジ大丈夫か?お前可愛い女の子好きだろ?お前や俺の可愛い女の子の基準にはアフロ、なんて入ってねーだろ?」
「痘痕も笑窪、オーバのアフロ……そう、愛は盲目だ、愛ゆえのムラムラだ。だからお前のアフロさえも俺はムラムラするんだ!」
「真面目腐って言っても納得なんかしねー!」
納得して堪るか、まるで俺の価値=アフロじゃねーか!このオーバ様、この燃える心根と燃えるポケモンバトル、デンジ程ではないがある程度の事は出来る器用さとデンジと正反対の社交性と常識はアフロと言うインパクトに負けやしないぜ!よっしゃ、言っちゃる!そう意気込んだオーバはまたデンジの発言に出鼻を挫かれる事になる。
「手首のリストバンドとの境目の対比でお前の手首が華奢に見えてムラムラする」
「さらっとキモい事言わないでデンジ!俺のお洒落に口出ししないでデンジ君!?」
「首元の肌の白さにムラムラは増すばかり…」
「来月からアフロ止める!来月からドレッドで止める!!」
「なんて事言ってんだオ−バ!お前からアフロ取ったらお前だと誰も気付かなくなるだろうが!お前=アフロ、お前のアイデンティティ−はアフロだろーが、それがシンオウの常識だろうが!!」
「常識は踏破するもの!そして俺のアイデンティティーは頭じゃない!!」
「そしてドレッドだろーが魅惑のさらさらロン毛だろうーが、俺のムラムラはお前の頭から離れていく事は無い!」
「全て台無しだーー!」
何だかんだ言って幼馴染、そして相棒、腐れ縁。お互いのテンポは解りきっているので、何時の間にか漫才のような掛け合いになってきた。観客が居ればお捻りが飛んできても可笑しくは無い、それ程の素晴らしいテンポだ。
しかし悲しいかな、ギャラリーはいない。此処は夕暮れ時のデンジの家のリビング、赤混じりの鮮やかな橙色の夕日が窓から入り、それはそれは綺麗で。それを見ながら畳んでいた洗濯物が一段落して、うーんと伸びをした瞬間、オーバは不意打ちのように放たれたデンジの発言に反射的につっこんでいたのだ。ナギサのスター様の辞書の「情緒」と言う文字は少し掠れている様だ、後で書き直させないと…と的外れな思考に逃げたオーバの思考はデンジの追加口撃で強制的に戻された。

「チラリズムの足首と足首から足の甲、爪先までのラインにムラムラする!」
「俺の趣味のサンダルにすら性欲を湧かすお前の欲求不満はよぉおく解った!今から表へ出ろ!サシでポケモンバトルだ今畜生!!手加減なんかしてやんねーかんな!」
「そのバトルの際、興奮してきたお前の動きが激しくなるとお前の白い腹がちらっと見える!あの瞬間、俺のムラムラは頂点に達するんだ!!」
「何処見てんだべ変態〜〜!ムラムラムラムラうっせぇ!」
シャツの裾を思いっきり引っ張りながら涙目で考える。なんて余計な集中力と着眼点、何故それを他に回さない…天才ってやっぱ解んねー。とオーバは丸投げしたい気持ちでいっぱいになる。だが、今投げ出したら俺は屹度流される、そんな訳には行かない、助からないと言って激流に身を預けっ放しでは唯死ぬだけだ。僅かでも抵抗しなきゃ生存率は上がらない!オーバは持ち前の反骨精神でこの事態へ抗う事をまた心に誓うが、それをぼきっと折りにかかるデンジの電波な総まとめ発言。

「お前の全てひっくるめて俺のムラムラの対象だ!!諦めろオーバ」
「何を諦めるんだよ!あれか、人生って奴か人並みの幸福って奴か。そんなもんとっくに諦めてんぜこのヤロー!それともお前にムラムラされる事か?腐れ縁グッバイなこの現実か!」
「………人生と幸せ諦めんなよ、俺じゃねーんだから」
「オメーの世話を焼くって決めた時に希望は捨てたからな、まだ捨ててないだけましだろが!」
「…なにそれ、どれだけの覚悟で俺に尽くそうとしてくれてんのオーバ?ちょ、色々感極まって嬉しいんですけど!?」
「妄想止めろムラムラデンジマン!」
「ちょ、デンジマンってカッコ悪い、超昔の戦隊物みたいでヤダやめてアフロマン」
「真似してんじゃねえ!じゃあ何諦めろってんだ、お前のかっ飛んだ思考回路を理解する事かそれとも」
「違ぇーよ馬鹿。ちょっと聞けってオーバ」
先程の真面目は不真面目か解らない声音ではなく、真剣そのものの声でデンジが言い放ったから、俺はちゃんとした事を言うんだと経験則で思ったから、真面目に対応してやろうと、背を伸ばし、ぐっと息を吸って幾分か気を張ったのに。デンジはやっぱりデンジだった。

「俺がお前を好きだと言う事を、取り消そうとするのを諦めろ。現にこのムラムラ感がその証拠だ!!」
もっと格好よく〆たら、もっと違う言い回しと言葉だったら、もう少し違う反応があると思わないのだろうかこの男は…それだからこそデンジなんだろうけれど。詰めた息を一度吐いて、深い溜息を静かに飲み込んで、大きく息を吸って。オーバは最後のツッコミを大きな声で放ってコントを終了させた。



「ムラムラなんて言葉、滅びろ!」



どうも有り難うございました!





取り敢えず、ゲシュタルト崩壊なるものを目指したかった…筈、です


14/4/21