小ネタ・袋小路 我ながら何と分の悪い勝負に目をつけたと、ギーマは胸の内で思う。 例えるなら代打ちだ、しかも相当手の悪いカードを其の儘手渡され、そこから起死回生を狙えと言われているものだ、なかなかにハードルが高い。 いや…高いと言うものではない、山だ、険しい岩山にこの一張羅で登頂する程のある種爽快な無謀さを持つ勝負だ。 そう、これは勝負、しかも勝ち負けがある類のものだ。 勝てば俺の望みが叶う。それこそ喉から手が出る程と言っていいくらい切望し始めたソレが手に入る、負ければ奈落。ある程度のものとソレを永遠に失う、とても魅力的で危険さを伴うもので。 見込みは低い、いや限りなく無い、に近い。 それ程に果てしない差がある、しかし、だからと言って怯む気には全くならない。胸の内を次の日のピクニックが待ち遠しい子供の様にはしゃぐ興奮が駆け回っている、嫌な緊張感ではない、ポケモンバトルの寸前の楽しみに近い物を感じる。 だが、その楽しみを凌駕する真剣みを帯びる感情も何処かに感じるのだ。この真剣さは何だというんだ?解ってる、自問自答する程子供じゃない、手の内の、配られたカードで出来る最善の…いや、考えうる限り一番取っておきの策を以ってして、なんとしてでも勝たなければならない。 ならば、 コインはまだ定まってはいない、表も裏も、手に落ちるのかすらも…ならば、勝敗を転がすのは神の御業ではない、俺だ。 この勝負はまだ、俺の手の上に引っ掛かっている。 だとしたら、引く謂れは無い。そもそも自分で手をつけた勝負から逃げ出さない主義だ、頼まれたって踵は返さないね。 * ・行き止まり 我ながらなんと見込みの無い想いを抱いてしまったのか、暇潰しに見学していけと引き留められた絢爛たる間でポケモンバトルする同僚を見ながら、口の中で溜息を殺す。 俺のこの、胸の内を暴れ回る唯ならない感情の矛先は、どうやらこの同僚へ向かっているらしいのだ。認めなければ、自覚したのだと何時までも己から逃げる訳には行かないと最後の最後に意地が踏ん張った。今となっては何故踏ん張ったんだと自分を貶したい。戦略的撤退、と言う選択も俺にはあった筈なのに 綺麗な顔の男だ、俺とは全く正反対のもので出来た男は仏頂面とよく揶揄される俺にすらよく笑い話し掛ける。ギャンブラーと言う職種には理解も共感も出来ないが話し上手なそれには感心ずるばかりだ。俺には出来ない事を平然とこなす様は見ていてある種爽快だし。 思えば想う程座りの悪い、もぞもぞとしたむず痒さが胸の中に溢れてくるのだ、好い加減にしてくれないものか、何何だこれは、 何時迄抱えれば、忘れられるだろうか。 速く忘れなければ、消化してしまわなければ。これは屹度、自分の手に負えなくなる感情だ。 はやくはやく、どうすれば早く忘れる?修行もポケモンバトルも、無意味に体を苛めるトレーニングも頭の中の彼奴の存在を掻き消しはしない。それどころか益々俺の脳内に蔓延るのだ ギマ→レンでギマ←レンと言う片思い行き違い。 14/3/12 |