小説 | ナノ





extremement. (ズミ→ガンピ)






とあるホテルの一室でベッドに文句の付け所の無い美女が、ドレスを脱いで横たわっている。
シーツの海に流れる様に広がるブロンドのロングヘアはベッド脇の小さな灯りに照らされきらきらと光の粒を零し、彼女の裸体を彩っている。ブラジャーから零れんばかりの乳房も折れそうなほどに細い腰も形のよい脚も…全て滑らかできめ細かい肌に覆われている。さぞ、触れたら良い心地で掌に吸い付くのだろう。
その正に極上の女が誘惑してきている、この体を好きにしていいとホテルのキーをさり気なく手に握らせてきた。その誘いに自分は乗ったのだ、
なのになんて事だろうか、こんな美味しい状況なのに己の食指はぴくりとも動かない。いや、さっき迄はちゃんと堪能するつもりだった。その気でホテルまで一緒に来た、なのにこの体たらく。

ふと、相手の携帯が鳴り響いたのを此れ幸いと、なんやかんや理由をつけホテルを後にした。だが内心は酷く落ち込んで帰宅した、一晩の火遊びには過ぎる程の相手だったと言うのに。何故だ、何が問題だ?
考えあぐねたズミの脳裏に一つの結論が浮かび上がったのは、落ち込んだ日から4〜5日程経った明け方の事だった。

*
「たちませんでした」

休憩所で一緒になったと思えば、普段通りの調子でいきなり結論めいた言葉を言われた。これは自分に向けて言っているのか独り言かすら解らないが口は勝手に返答していた。
「は?」
この一言が火蓋になったのか、ズミ殿は言葉を続ける。一応我に対して言った様だ。
「先週女性と食事をした後ホテルに行ったんです」
「はぁ」
「素敵な人だったんです、美人でグラマラスでセクシーで…脱いでも本当に凄かったんです。ですが…」
なんだ?カントーで言うツツモタセなる詐欺にでも遭遇したのであろうか?ズミ殿ならその可能性無きにしも非ず…

「勃起しませんでした」

「っぼ!?」
この御仁…ズミ殿は言葉遣いが些か以上に端的過ぎる。驚いてコーヒーを噴出すところであった。危ない、品の無い事は出来ない。騎士の沽券に関わる、そう落ち着くのだガンピ、悩める知人に救いの手を差し伸べるのもまた騎士の務め。
「…疲れていたのでは?其方は働きすぎる、男の生理現象はそういう事もあるので気にせずとも」
「原因は解ってるんです」
なら解決なさればよい…はっ!もしや一人では解決出来ぬ程何か重要な状況なのか?そう考える我の耳に、己の耳を疑う言葉が告げられた。

「貴方です、」

「…へ?」
えー!其処で我?我なの?何ゆえ我なの?!
「貴方が四六時中私の頭の中にいて、全ての物事に集中出来ません。女性としようとした時も実は貴方の事で頭がいっぱいになって、何故か目の前の女性に興味が湧かなくなったんです」
……?
「え―…とそれは?ズミ殿?」
「どうしてくれるんですか、勿体無い女性だったのに、オマケに色々悩んで寝不足です。結論を出す間、料理の研究も進みませんでした!」
どうしろと言われても我の責任では欠片も無い気がする…
「責任とって」
我が取るのその責任!?えー、どうとるの?きあいパンチでズミ殿を強引に眠らせてとか?そう言う責任なら、いたしかたあるま…

「抱かせて下さい」

「ズミ殿!世迷い事にも程がある物言いである!!」
何故其処で、その考えに着地してしまうのズミ殿?何故我を変わりに抱こうと考えてしまったの??我、口調が変る程に驚いておるのだけど?!
「だから貴方じゃなきゃ萎えるんですよ、こっちだってこの結論に驚きました」
何がだからなのズミ殿…
「貴方に挿れると考えれば勃起します、試してみましたから嘘ではありません」
何を試したのズミ殿?ナニ試したのそれ!?ズミ殿の思考に我全く追いつけておらんのだけれど!

「さあ!出来たら近日中、いや今日この後にでもホテルなり私の自宅に来て抱かれ」
「ハッサム!ズミ殿にバレットパンチなるだけ弱く!!」

めこめこめこっ

全て言わせてはならない、何故かそう強く直感し、気が落ち着いた時にはこちらに目配せしながらも本当にズミ殿をのしてしまったハッサムが所在無さ気に立っていて。
取り敢えずハッサムをボールに戻し、ズミ殿を椅子に寝かせ我はぎこちない足取りながらも休息所を後にした。





ズミさんこんな事言わないって言う方、もしいらっしゃいましたらすいませんでした。


14/1/28