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頂へ(プラターヌ+ズミ)






「君、その生き方楽しい?」
何の事です、と疑問符もつけぬ語尾と語調で返される彼の話や噂は実に色んな所から沢山聞く事が出来た。

彼はカロス地方のポケモンリーグの四天王の1人であり、若くして才能を開花させ頭角を見せ、挙句伝説のシェフと呼ばれる所まで上り詰めた男だ。
しかし、俗な噂が殆んど無い。恋人は居たと言うが数える程で全員長続きしていない。別れた理由が仕事に専念したいからと言う有り得ない理由、そして引く手数多な状況の中、某高級ホテルの主任料理長の座を蹴った理由も目指したい所があるというわけの解らないもの。
なんて不可解だ、面白そう!と偶々用事があって訪れたポケモンリーグで偶然にも出会えたものだから此れ幸いと声をかけようと思って彼を見つけ、近付き、第一声が我ながら誤解されそうな一言。
別に変な意味じゃないですよ?とフォローしながら鋭い視線、敵愾心も憤りも苛立ちも何も感じない唯唯鋭い目線から自分を護る様に腕をへろへろ、と振る。実際風が吹けば簡単に薙がれ、相手に拒絶されれば打ち落とされた鳥の様に呆気無く無防備になってしまう訳だけれどそれでも無いよりは気分的にましだ。
そんな薄紙の様な言葉と態度の盾越しに、目の前の彼を前情報と現実とを照らし合わせる。

話に聞き想像していたとは少し差異があって、実際目にした彼はストイックにも程がある気配を醸していた。

「君からは緊張感と切迫感がいっぱい出てる気がするよ、人生を楽しみながら進むのがカロスの人間のモットーだと思っていたんだけど、貴方は違うんだなーって」
仕事は仕事、休むときは休むしプライベートは大事。愛や恋も沢山したい、美味しいものを食べ沢山の人と出会い沢山のポケモンと出会い楽しく歳を取る。そう言う血がこの国の人間には大量に流れてる筈だ。なのに、君は真逆じゃない?まるでカントーとかシンオウの人達みたいだ。あの土地の人達ってそりゃ真面目な人が多くてさー
そう並べ立てると、眼光鋭い視線を切らず言葉の隙間に返答を差し込んできたが何とも感情の判断のしづらいもので。

「貴方の持論や自国の国民性は御高説いただかなくても十分理解しています、己がその中で際立って浮いて見えるのも存分に解っています」
「べ、別にそう言うのが悪いって言うんじゃないよ?唯、君程の人ならもっと楽しみながらでもその人生をより良く高めていけるんじゃないかなーって他人の事なのにお節介に思っただけで」
怒らせたか?微かに肩を竦め身構えたがそうではない様だ。少し考えた素振りを見せた彼はこちらに再び目をやると逆に問うて来た。
「私なぞ、まだまだ若輩ものです。私の何処を見て貴方はそう判断したんですか?それともミアレのシェフ達がまたそんな話をしていたんですか?」
「…へ?」
この人の何処が若輩なんだ?年齢は確かにそんな高くないがポケモントレーナーと料理人、と言う二つの道を究めつつあると言っていい様な才人だ。謙遜なんだろうか、でもそんな雰囲気も無いし…と頭を回しているとそんな僕にはお構いなしに彼は話し始める。
「ご存知ですか?この国の古い諺です。"行ける所迄行き、然るべき所で死ね"」
「…戦争の時によく言われた言葉ですね」
「今は戦争はありません、ですが、私はこの言葉をこう解釈しております」
道を究めた先が行き着く所であり、死ぬに然るべき場所は極めた頂、正に其処だ。
「私はその行く所迄行き、然るべき所で死にたいのです」
この道を究めたい、烏滸しい頭に乗った願いだ。しかしこの願いは夢は道はまだ半ば、結論は出ていない。なら、願い続け進み続けるのを止める理由は無い。

「その為に時間を惜しんだ結果が今の私です、後悔などしておりません」

まだ先に行くつもりって、これ以上何処まで行く気なんだろこの人ー
「えー、もう随分上り詰めた様に見えるけどなー」
「…馬鹿にしてますか?まだまだ頂など程遠い、道は半ば。この程度で上り詰めたなど烏滸しいにも程がある!」
怒らないでよーと冗談めかすが、此処でも噂の検証が出来た。

ズミ様の志は高い、だがズミ様の沸点は低い、そしてそれを沸かす相手は選ばない―とミアレシティのコック達が皆口を揃えて言ってた。どうやら全員被害者のようだ

「果てない理想の先を見つける為の努力は惜しみません、ですからまだまだ私は進みます」
この人獣道も自分で整地しながら進みそうだ、でも一般的な人達にはそんなの無理、普通に無理だ。やっぱりこの人は特別な人間だなー、うん。
「そんな事出来るの君くらいじゃないの?」
「…先達が身近にいます、不可能ではない生き方だとは立証済みです」
「え?そんな人いるの?」
「少なくとも行き着くところまで行ってそうな人です、その人を見て確証を得ました。やれば出来る、未だ私には見えていない、出来て無いだけだと」
その先達にもちょっと会ってみたいな、後で紹介してもらおう。なんてちゃっかりしようと考えつつ
「変わった人だ、でも面白い」
彼に対しての印象を、そう己の中でまとめた。
「貴方も十分変わり者です、失礼します」
踵を返す彼とまた話がしたいな、と興味は尽きない。





こんな感じのズミさんに私には見えます。ズミさんは私生活に仕事(料理の研究)をがっつり組み込んでそうな感じです。公私混同ならぬ部分的公私混合、寝ても覚めても料理の事しか考えてなさそうだ。それにちょっかい出すプラターヌ、カップリング要素はないので、もし期待とかさせたら申し訳ないですが、無いです(大事なことなので二回言いました)←おい


14/1/16